冒険の扉2
「おし。サイ。そんじゃあ、この先はお前ひとりで行け。」
合流するなり無茶ブリをする船長。
いやいやいや。説明して下さいよ。
死んで来いってことじゃあないよな?
俺の気持ちをくみ取ってか、オルが船長に質問してくれる。
「ちょっと、船長。どういうことなの。」
「埋め尽くすほどの罠だっていうからな。サイが一番しっかり歩いてたんだろ?」
「ええ。身が軽くて。罠の隙間をすいすいっと。」
ヤジスさ~んっ。
俺を売らないで。お願い。
ホントに何で俺。
オルは船医だから残すにしても、ヤジスさんだって身が軽いだろう?
不満が顔に出てたのか、船長が俺に近づいて頭を鷲掴みにする。
え。生意気な小僧にアイアンクローですか?
「おめえはここに縁があるっつっただろ?鍵を見付け、入口を見付け、罠も見つけた。…おそらく、赤い罠ってのは一人じゃ反応しねえってやつだろう。」
アイアンクローじゃなくて、頭をつかんで顔を会わせられただけだった。
前半は皆に聞こえるように、後半は俺にしか聞こえないように耳打ちしてくれる。
成る程。一人じゃあ反応しないってことは、重さで反応するってことか。
当時の人間の平均体重がどれほどかわかんねえけど、この中じゃあ、確かに俺が一番軽いわ。
ヤジスさんとは身長がさほど変わらないと言ったって、白人系の170cmとアジア系の170cmじゃあ骨格から筋肉からつき方が違うからな。
つまり、俺が適任ってわけだ。よっしゃ。
「やってみます。」
「おや。やる気になった。」
「船長、何言ったんすか?」
「まあ、見てろ。サイ。行け。」
「はい。」
周りは様子の変わった俺を不思議そうな顔で見てたけど、船長は答えなかった。
そもそもこっそり言うってことは、あまり外に出さない方がいい情報ってことだ。
だから、俺も船長にならって返事だけして奥にすすむ。
船長が持ってる情報を俺の勝手には出来ねえしな。
この世界は日本みたいに識字率が高いわけじゃない。
本を読んで情報を得られる人間は貴重で、それが船長が船長でいられる理由のひとつになっている。
文字を読めるのは特別。
何で船長が読めるのか知らねえけど、そのおかげで船長は特別だ。
だからか、俺が文字を読めるのは秘密にするように船長に言われてる。
俺が文字を読めて、海図も読めるってことは船長しか知らねえ。
それでいいと思ってる。
他が知らないことを知ってるなんて、自慢になるどころか争いの元だ。
こないだみたいに攫われて、いいように扱われるのが目に見えてる。
俺は自分が周りの連中より弱いっていう自覚があるからな。
トリップ特典で強くなるなんてのも無かったし、波風立てずに暮らすには回りと同じでいるのが一番いい。
俺は今の生活が気に入ってるんだ。
さて、あの扉の奥には何があるやら。
新しい罠とかいらねえからな。




