冒険の罠の異変
選抜基準はひとまず胸の内に秘めておくことにして、歩くことに専念した。
ここの罠は本物だ。余計なこと考えてたら、あっという間に死んじまう。
ん?あの罠、光が弱いのに印がない。
このままじゃ誰かひっかっかちまう。
「ヤジスさん、この右の罠、色薄いのに印無いっすよ?」
「あ?…おお。ホントだ。でも、こないだの時はもっと光ってのにな?」
だから印がないのか。
でも、何で光が弱くなってんだ?
「もしかして、魔力が切れかけてるのかな。」
「え。じゃあ、罠の効力も切れるとか?」
「切れるやつと切れないやつがあんのよ。これが。よしっと。他は見た感じ大丈夫そうだな。」
オルの指摘に俺が希望的観測を言うと、周りの罠を確認してたヤジスさんが参考にならない意見をくれた。
魔力切れても罠が作動すんのかよ。
「ここみたいに古い時代の遺跡はね。まだ魔力の活用の研究も十分じゃなかったから、落とし穴とか踏んだら作動する罠が結構あるんだよ。」
「そうそう。だから、光が消えても安心出来ねえの。印つけてさけるしかねえのよ。」
うわ。めんどくせえ。
それでヤジスさんもミランさんも必死に印つけてたのか。
光ってくれてる間に分かるようにしとかないと、後で困ったことになるもんな。
俺は単純にまだ動く罠だぞって知らせるためだと思ってた。
「じゃあ、気をつけないとですね。」
「ああ。お前さんは目が良いから前に出されたんだろう。その目でしっかり見てくれよ。」
身長じゃねえの?
…だよな。いくらなんでも身長で先行部隊や先頭を決めたりしないよな。
あれ?でも、じゃあオルは何で…。
「ほらほら。手元が疎かになってる。周りもいいけど、唯一の明かりを持ってるってのも憶えててよ。」
「あ。はい。」
いけねえ。
目で選ばれたってんなら周りを見ないといけないだろうが、俺は明かり役でもあるんだ。
しっかり掲げて、ついでに左右上下も見て、それから歩かねえと。
…一番大変じゃねえ?新入りの仕事じゃねえだろ。これ。
納得いかないながらも進んでいくと、幾つか光が弱くなってる罠があって、それに印をつけていった。
幸い、光が消えてしまった罠はなく、ヤジスさんの記憶にある配置のままだったらしい。
罠の位置を全部覚えてるとか、どんだけすげえんだ。
今回の冒険でわかったけど、この人、めちゃくちゃ頭いいんだよな。
話も面白いし、察しも良い人だとは思ってたけど、計器を使って崖の高さを測って計算できるし、棒とかで確認した座礁の位置も正確に覚えて船長に報告してる。
俺が前に船長に書かされた地図の座礁の情報はヤジスさんの報告だったしな。
全員としゃべったわけじゃねえけど、ヴァルヴァンク号ってすごい人ばっかなんだよな。
チンピラみたいなやつとか、こないだ俺を捕まえたアホみたいなのはいねえの。
荒くれ者の集まりの海賊船としては変わってると思う。
トレジャーハントがメインだからか?
まあ、理由はともかく、そのすごい人たちに呆れられないよう頑張らないとな。
「別れ道です。」
「ああ。あれが。」
「おし。じゃあ、船長が来るまで待機だな。」
じゃあ、左に行きやすいように体を傾けて、と。
よし。これで船長を待つだけだ。




