冒険の予感
「サイっ。何ぼさっとしてやがるっ。」
「すみませんっ。エールです。」
「遅えっ。」
腹に蹴りが炸裂。
船長の理不尽は今日も健在だ。
俺が誘拐されてから、早2ヶ月。
ここ最近の船長は機嫌が最悪だった。
原因は俺の持ち帰った箱だ。
あの中には、三日月の形をした魔石が入っていた。
冷却の魔法が込められていたみたいだか、その魔法の効果は切れていたらしい。
船長曰く「金をケチって、適当な魔法を込められたんだろ。」とのこと。
食料の保存は船の最重要事項だろうに、ホントにアホだよな。
おかげで、俺が持ち運べたんだけど。
それで、その魔石には表面に薄い傷がたくさん入っていた。
どうやら、洞窟の地図らしい。
大昔は魔石の採掘場所は厳重に管理され、扉には魔石の鍵をつけたそうだ。
三日月の魔石はまさにその鍵とのこと。
地図以外のキズがないことから、まださほど盗掘されてない可能性が高く、探す価値は充分にあるという。
それを見た時の船長の顔ときたら、獲物見つけた猛獣そのものだった。ぶるるっ。
そんで探し始めたのは良かったんだけどよ。
無いんだよな。手がかりが。
ヴァルヴァンク一味は海賊だが、メインはトレジャーハントだ。
略奪もしっかりやるけどな。まあ、それはオマケ程度だ。
だから、お宝の情報は山のように持ってるし、実際、調査もして、他所に売ったりもしてる。
でも、三日月の魔石に関する情報は持ってなかった。
で、ヤジスさんを始めとした諜報が得意な人達が情報の収集に出掛けたんだけど…。
結果はごらんの通りだ。船長の機嫌の悪さでわかんだろ?
しかも、ここ数日は風が全く吹かねえから、船も止まっちまった。
急ぐわけじゃないから良いんだけどな。
でも、目的地のない船が止まるってことは、舵もいらねえだろ?
つまり、船長の楽しみが一つ減ったんだよ。
船長は海の男だから、船が大好きだ。
舵を取ってるときはすげえご機嫌だ。
それも出来なくなってイライラが最高潮にきている。
被害者、俺。
ようやく冒険が始まりそうなのに、その前にストレスで俺がどうにかなりそうだ。
早く情報見つからねえかな?




