どこだ?
寒い。何でこんなに寒いんだ。
もう5月なのに…。
ぐっ。胃に何か衝撃がっ。
がはっ。く、苦しい。何なんだよ。
頭痛てえ。咳が止まんねえ。
あ。何か出た。げほげほっ。…水だ。
「おーし。吐き出したな。もういけんだろ。」
「船長ぉ。もっと穏便な方法があったんじゃなぁい?」
「めんどくせえ。」
なんだ?やたらといい声が聞こえる。
腰にくる声ってやつだ。くそ。むかつく。
俺はかがんで咳き込みながら、耳に入ってくる声を聞いていた。
目に映ってるのは木目だけだ。涙で滲んでよく見えないけど、床かなんかだろう。
ばたばたと誰かが近づいてくる。
勘弁してくれ。振動が胃に響く。
「船長っ。溺れたというのはっ。」
「おうっ。これだ。」
「っ。これは…。」
「珍しいだろ?拾った。」
「犬猫じゃあるまいしぃ。拾ってどうすんのぉ。」
「見習いくらい出来んだろ。」
「あらやだぁ。本気ぃ?」
いい声とお姉口調のハスキーな低い声が言い合いするのを聞き流しながら、俺は空気を吸おうと深く息を吸い込む。
身体は濡れているらしく、じっとりと重い。
喉が痛い。胸が苦しい。
息すんのってこんなにしんどかったっけ?
そんなことを思った俺の背中を誰かがさすってくれた。
誰だろ?顔を上げた俺の涙に滲んだ目には、銀色と青色が見えただけで顔は認識できなかった。
「水は…ちゃんと吐ききったね。ゆっくり、大きく息を吸って。」
少し高めの落ち着いた声が耳に心地いい。
俺は背中をさすってもらうリズムでゆっくり息を吸って吐いた。
しばらく繰り返していると、いきなり髪をつかまれる。
目に飛び込んできたのは金色、そして群青色だった。
「船長っ。」
「ちょっとちょっとぉ。コレクションするんでしょう?もうちょっと大事に扱ったらぁ?」
「あー。汚ねえなあ。顔から出るもん全部出てんじゃねえか。おいっ。布。」
「はいこれぇ。あら、まだ小さいわねぇ。どうしてあんなとこで溺れてたのかしらぁ?」
乱暴に顔を拭われると視界がはっきりするようになった。
吸い込まれそうな群青色の瞳と目が合う。俺の知ってる海の色だ。
金色は髪の色だった。本物の金髪って初めて見た。
結構長めでライオンのたてがみみたいだ。
俳優みたいに整った顔だ。目がこえーよ。
どうもこの男が良い声の主のようだ。
迫力あり過ぎて声も出ねえ。
俺、殺されんの?




