朱色の要塞
進んでいくと、赤に近いオレンジの建物が見えてきた。
他の建物が2階までなのに対して、こっちは4階はある。
目に痛いくらい鮮やかな建物はまるで要塞のような印象だ。
四角くてシンプルな煉瓦作りで、小さな窓が間隔をあけて並んでいる。
周りが洒落た模様で三角屋根がかわいらしい感じなのと対照的だ。
でも、要塞みたいな作りにしては派手だよな?
赤に近いオレンジってことは、朱色ってことか?
朱色の要塞って狙い撃ちにされそうだ。
「ヴァルヴァンク号船長オスカー・ヴァルヴァンクだ。付き添いは副船長バクス、船医オル、んで見習いのサイだ。」
「ようこそレッドキャッスルへ。お通り下さい。」
ヴァルヴァンク号って船長の名前だったのか。
日本名で同じことしたら間抜けた感じになるけど、この名前だと海賊船として響きがいいよな。
てか、船長の名前「オスカー」だったんだな。
皆「船長」って呼ぶもんだから、今まで知らなかったぜ。
船長も教えてくんねえし。
ま、聞いても「船長」としか呼ばねえけど。
船長に続いて中に入ると、広いホールに結構な人がいて込み合っていた。
城務めにしては多すぎるし、品が無い感じのやつが目に付く。
何人か同じデザインの黒服を着ているから、あれはこの城の関係者だろう。
皆、バラバラに散ってそれぞれの団体の相手をしてるしな。
「いらっしゃいませ。オスカー船長。主がお待ちでございます。」
「っ。」
「おう。…見習い。遅れんじゃねえぞ。」
周りを観察するのに夢中で、声をかけてきた黒服に気づかなくて驚く。
船長は鷹揚に頷くと、周りに響く声で俺に注意した。
ううっ。視線が痛え。
こんなとこで大きな声で言わなくてもいいのに。
あんた無駄に声がいいんだから自覚してくれよっ。
…なんて言えるはずもなく、ただ「はい。」と答えて足早にその場を去ることしか出来なかった。
去り際に「あれ、「凶悪」ヴァルヴァンクのやつらだぜ。」とか「相変わらずいい声だなあ。さすが悪魔。」とか「デイジー・クレイジーがいたぞっ。」とか聞こえたけど、聞こえなかったフリをした。
「凶悪」とか「悪魔」とか物騒な単語はどうせ二つ名だろうしな。
そういや、バクス副船長の二つ名って「デイジー・クレイジー」って言うんだぜ?
おやっさんに教えてもらったんだ。
なんで「デイジー・クレイジー」なのかというと、バクス副船長の愛用の剣の名前なんだそうだ。
名剣として名高いものだそうだが、デイジーをメインにデザインしているもんだから、女性剣士に受け継がれていた。
だが、バクス副船長は可愛いもの綺麗なものが大好きだ。
そんでもって剣の名手。
だから、剣の刀身にも柄にもデイジーのデザインが入ったその剣を、前の所有者から決闘で奪ったらしい。
力ずくで奪うってのが海賊だよな。決闘するだけマシな感じだ。
そんで、敵は最後の瞬間を返り血で赤く染まった剣の「デイジー」を見ることになるから剣の名前が「デイジー・クレイジー」。
それをふるう副船長の強さと共に更に有名になり、剣の名前が副船長の二つ名にもなったという訳。
要は副船長がすっげえ強ええってことだ。
朝の練習見てたら、ただもんじゃねえってのはシロート目にもわかるしな。




