俺の1日
なんやかんやと船長にどやされながらも、敵襲があった以外は平和な日常が続いていた。
俺の1日は中々忙しい。
下っ端だから当然だが。
朝起きて身支度を整えると、まず寝泊りさせてもらってる医務室を軽く掃除する。
医務室はメインマストの真下にある。
そこより前方は碇の巻き上げ機や船員の部屋というか寝る場所になっている。
船で個室なのは船長室と副船長室、それに医務室だけだからな。
後は皆空いてる場所にみっちり詰まって雑魚寝状態だ。
話を戻すと、この時、ついでに銀髪船医のオルも起こす。
低血圧らしく、身体を起こしても目が覚めるまで時間がかかるらしい。
俺は声をかけるとオルのために水を汲んでおく。
ここは飲料水とは別に雨水を溜めた生活用水がある。顔を洗ったり、掃除なんかは全部これでやる。
せっかくの真水なのに飲まないのかと船長に聞いたら、飲めるやつと飲めないやつがあるって言っていた。
意味わかんねーよ。水は水だろ?
水をくむと食堂に行き、厨房のひと達とまかないをもらう。
これが俺の朝食だ。
先に朝食をかきこむと、朝の遅い船長に顔洗うための水とタオル持ってって、その後、船長の朝食の支度。
食器を片づける時に船長に今日の予定を伺って、用事が無けりゃそのまま甲板の掃除なんかの雑用を手伝いに行くか、厨房の手伝い。
船長には「マストには上るな。武器も触るな。」ときつく言われているので、俺の雑用はほとんど掃除・洗濯か野菜の下ごしらえだ。
たまに食糧の運搬も手伝うが、非力な俺には向いてないからと頼まれることはあまりない。
まあ、デカい船だから、掃除ってだけでかなりの重労働だ。洗濯物も多い。
必死扱いてやってる間にすぐ昼になっちまう。
昼食の支度が出来ると船長に持っていって給仕。
それが終わってから自分の昼食だが、この時船長の機嫌が悪いとここで食いっぱぐれたりする。
その後、船長が航路の確認してる間に船長室の掃除。
ちょっとだけ覗いてみたが、舵とってる船長は文句なしにカッコイイ。
ハリウッド俳優みたいな男前が船長帽被って舵とってんだ。
カッコイイ以外言うことないな。
ちなみに、朝の航路の確認は早起きのバクス副船長の仕事だ。
あの人、日の出くらいから鍛錬してんだぜ?
日焼けしすぎないためだって、シミがどれだけ怖いか熱く語ってたけど、それだけで早朝から毎日鍛錬出来るってすご過ぎるだろ。
お姉の底力恐るべし。
やっぱ副船長まかされてる人ってのは、他のやつが出来ないことが出来るんだな。
船長?あの人が船長やってんのは怖ええからじゃね?
迫力満点だし、一番海賊っぽい。
ま、それだけじゃねえって知ってるけど。
あの人、実は頭いいしな。
字がびっしり並んでる本を読んでるの見たことあるし。
海図みたいなの描いてたこともあるから、航海士も兼ねてるんだろう。
この船で会ったことねえしな。航海士。
俺がそんなことわかるのは両親の英才教育の賜物だ。
だが、それは秘密にしてる。面倒なことになりそうだから。
それにしても、船長が海図描けるって珍しいよな?
地図だろうが海図だろうが絵である以上、慣れればある程度は読めるだろう。
だが、海図を描けるとなると相応の教育を受けてることになる。
船長って何者だ?
知っても仕方ねえから聞かねえけど。
この船は海賊船であの人が船長。それでいい。
まあ、それで話を戻すと、船長室の掃除が終わると船長が戻ってくる、その後は大体船長の酒の相手だ。
この時、何度も厨房と船長室を往復する。
これが一番大変かもな。
船長室から厨房まで意外と距離があるから、俺の早歩きでは時間がかかってしまうからだ。
だから、遅いと蹴られ、ぬるいと蹴られ…蹴られてばっかだな。
最近は早歩きも慣れて、蹴られる回数も減ってきた。
少しだけだけどな。
そんで夕食になったら、船長の給仕をして自分も食事。
この時は船長と一緒に食事をとる。
船長がゆっくり食事と酒を楽しむので、時間がかかるからだ。
船長が部屋に戻ると厨房で皿洗いを手伝って、ようやく就寝だ。
な?忙しいだろ?
基本、人の手で作業するもんだから、どんな作業も時間と手間がかかるんだよ。
出来ることがあったら率先してやらなきゃいけねえ。
船の上じゃあ、皆、一蓮托生だしな。
日本の家電が懐かしいぜ。
頭に浮かぶのは船の上じゃほとんど使えねえもんばっかだけど、1つだけ使いたいもんがある。
洗濯機だ。
布の手洗いってあんなに疲れるんだな。
おかげで手はいつも痛んで赤くなってる。
船長には「へたくそ。」と言われるが、これに関してはやったことないから仕方ないと思ってる。
オシャレ着なんて持ってなかったからな。
少しずつ手の皮が厚くなってるのか、最近は手の皮がむけなくなった。
こんな感じで俺の日常は平和に過ぎていった。
あの最悪な日までは。




