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今となっては昔の話だが少し書き出してみたいと思う。昔というのは私がまだ青くさい中学生だった頃の話だ。私にとって中学生時代は一番つまらない時であり一番楽しかった時であった。中学に入学したとき私は親の仕事の関係上入学した直後に転校をした。普通であれば転向後も周りとなじみ楽しく中学生活を楽しめるはずだが私は周りとなじめずにいた。私はそのころ内気で人見知りも激しかった。もちろん転校した当初は周りから興味本位で話をかけられてが日が経つごとに話しかけられる回数は減り一日一回も学校でしゃべらない日々が何日も続いた。そして私のこんな性格が災いしてか周りからは何を考えているかわからないということで気味悪がられいじめには発展しなかったが陰口を言われるようになった。そしてさらに追い打ちをかけるように私の趣味がばれてしまったのだ。私の趣味それはアニメ好きだということだ。子供くさい、気持ち悪いといわれ陰口はさらにエスカレートした。自分自身こんな生活をはじめから普通だとは思っていなかった。早くこんな生活が終わればいいのにと最初はそんなことを考えていたが一日一日と日が過ぎていくごとに感覚がマヒしていきそれが当たり前のように思えてきたのだ。今日もまたつまらない一日が始まった。そう思うと気が楽になったのだ。
しかしそんな私の中学生活を根本的に変えてしまう事件が起きてしまうのだ。あの日のことは死ぬまで忘れないだろう。きっとあの出来事がなければ今の私はない。きっとあの出来事がなければ今の顔には笑顔はなかっただろう。そうあれは秋が始まったばかりというのに冬のように寒いのに教室がものすごく蒸し暑かった日。9月の出来事だ。
中学一年の9月。冬のように空は鉛色で町はとても暗かった。中学校があるのは坂を上がったところで坂道のわきには銀杏の木があり鉛色の空とは似合わない美しい黄色の葉を見せていた。中学校は第二次ベビーブーム時代に建てられた鉄筋コンクリート製でところどころ錆びついていた。一年生の教室は校舎の最上階の4階にあり私は3組に属していた。一年生は全部で8クラスあり、その8クラスをつなぐ廊下にたくさんの生徒が集団を作り会話を弾ませていた。私はその集団を網を縫うようによけ自分のクラスである3組に入室した。入った瞬間生暖かい空気が私の体を包み少し熱くなってしまった。私は上着を自分の椅子に掛け着席した。鞄から本をだし読み始めホームルームまで待つ。これが私のいつもの習慣である。
『また学校に来てるよ』『誰もあいつのこと待ってないのにね』
そんな陰口が私の耳元に届くが私はそれを気にせずに読書の世界へと入り込んだ。本当は素晴らしいもので自分の想像力を発展させることができる。登場人物はどんな顔なのか、登場人物が自分だったらどんなにいいかなどたくさんのことを想像できる。そんなことを考えて本を読んでいたらチャイムが鳴りホームルームが始まった。余談だが私の学校のチャイムは普通の学校とは違い鐘の音ではない。まぁそんなことはどうでもいいのだが。
「みんな席に着け!」
担任の男子教師の声が教室全体に響き渡る。それと同時に生徒は自分の席に着く。これが日常だ。
「え~今日は今日の日程の説明の前に紹介したい人がいる」
「先生の彼女ですか?」
馬鹿か。そんなわけがなかろうが。
「そんなわけないだろう!まったく・・・・え~転入生の天王寺くんだ。天王寺、教室に入ってこい」
「はい」
その時私は本を読んでいた。というか転入生に興味がなかった。どうせ私には関わり合いがないだろうと思っていたからだ。
ザワザワ・・・・ザワザワ
クラスがざわついている。さすがの私も教卓のほうに目を向けた。
「天王寺領二君だ。天王寺!自己紹介」
「はい先生!」
ずいぶんと明るい声だ。私の気分とは違い・・・・。
「天王寺君かっこいいね」「私天王寺君と付き合いたいわ」
クラスの女子の小さな会話の中心は天王寺に向いていた。別に悔しくとも何ともないがいつも私の悪口をネタにしているような女子の会話が一気に天王寺の要旨をネタに盛り上がっていたのだ。まぁ確かに天王寺はかっこよかった。
「皆さん初めまして!天王寺領二です。もともと兵庫に住んでいて初めて神奈川にやってきました!江ノ島っていうところに行ってみたいです。まだわからないことが多いのでよろしくお願いします!」
再度言おう。ずいぶんと明るい声だ。
「よし。じゃあ天王寺は・・・どこに座らせるか・・・・・」
自己紹介も終わったので本を読み始めた。
「私の隣がいいな・・・」「お前のところにはこねぇよ!」「そんなわけないじゃん!」
馬鹿どもが会話をしてやがるわ。
「じゃあ篠田の隣でいいか!席空いてるしな」
『!?』
クラスの雰囲気が驚きに包まれた。もちろん私もその一人だ。篠田という人間とはまさしく私のことなのだ。申し遅れたが私は篠田という。
「じゃあ天王寺をみんなよろしくな」
そう担任が言い終わるのと同時にホームルーム終了のチャイムが鳴った。
トコトコとこちらに向かってきて私の右隣に天王寺は座った。
そして私の顔を見るなりこういったのだ。
「よろしくな!え~と・・・篠原!」
馬鹿が。私は篠田だ。