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Episode8

 「いつからそこにいましたの?」

 八雲は立ち上がり、鋭い目つきでレノンを見た。

 「盗み聞きするつもりは無かったわ。けど、赤子のように怯えるあなたを攻撃するのは可哀相って思って」


 レノンは挑発するように顔を少し引き攣らせた。

 「なんですって……?」

 八雲は顔にいらつきを見せて拳を握った。


 「出来れば抵抗しないで同行してもらいたいんだけど。昨日で分かったはずよ。あなたじゃ私には勝てない」

 「そんなの分かりませんわ!」

 八雲が地面を蹴って飛び出した。


 両手にはサバイバルナイフが持たれている。

 「はぁ……」

 レノンは冷めた様な目で高速移動をした八雲を捉えた。


 「なら、少し痛い思いをしてもらうしかないわね」

 地面から鉄柱が勢いよく現れた。

 それは八雲の腹ど真ん中に突き当り、八雲を宙に押し上げた。


 「カハッ!!!」

 八雲は目を大きく見開いていた。

 あれではあばらが……いや、最悪臓器だって危うい。


 八雲は地面に落ち、お腹を押さえてうずくまっていた。

 「ごめんなさい、やりすぎたわ。けど、今神崎朱莉に来られると迷惑なのよね」

 レノンは倒れている八雲を持ち上げ、肩に担いだ。


 「おい、どこ連れていく気だよ」

 俺はレノンに問いかけた。

 そうやすやすと行かせるかよ。


 「大丈夫、ちゃんと招待状をあげるわ。この子は絶対に殺さない、それは約束する」

 レノンは封筒を取り出して俺に投げつけた。

 俺はそれを受け取って中身を確認した。


 そこには地図が一枚だけ入っていた。

 「私はそこにいる。神崎朱莉さえ来てくれればそれでいい。それじゃあ」

 レノンはそう言い残してその場を去った。


 八雲に対抗できるだけあって、レノンも相当な速さで去ってしまい、もう見えないところまで行ってしまった。

 レノンがいなくなってからすぐ、神崎が走ってきた。

 「ちょっと、何かすごい音がしたけど……や、八雲は?」


 神崎は不安そうな顔をして辺りをキョロキョロと見回した。

 当然、そこに八雲はいない。

 俺は神崎に地図を渡して、さっきの一連を話した。


 「八雲……」

 神崎は歯を食いしばり、地図はくしゃくしゃに握りしめていた。

 「おい……」


 「行ってくるわ」

 神崎は地図を地面に落とし、歩き始めた。

 「待てよ!」


 俺は反射的に神崎を呼び止めていた。

 「こっちから敵のアジトに行くなんて、罠かなんかあるかもしれねえじゃねえか。一人で行くよりは誰か他の人も」

 「待ってられないわよ! その間にも八雲は、一人で……もう、もう誰も失いたくないのよ!」


 神崎は俺に背を向けたまま叫んだ。

 恐らく、神崎は昔のクラスメイトのことを思い出しているのだろう。

 神崎はそのまま走り出していった。


 止めなくてよかったのか?

 確かに神崎は強い、が、レノンはどこか余裕そうに見えた。

 何かある、必ず。


 「それじゃあ、私たちも行きましょう」

 気が付くと、隣にメルが立っていた。

 「おわ! お前……テレポートするならもっと驚かな様にだな……」


 メルはくしゃくしゃの地図を拾ってそれを広げた。

 「場所、分かるのか?」

 俺はメルに聞いた。


 だが、メルは地図を見つめたまま唸っていた。

 「んー……見たことも無い場所……地形に詳しい人に聞いてくる」

 そう言って、メルは再びテレポートを使い、俺の目の前から消えた。


 俺は街の人にどうしても行かなければならない用事が出来たと伝えに行った。

 街の人は一気に四人もいなくなったら困るなどと言っていたが、緊急事態というと分かってくれた。

 街の人からしても、祭りの途中にレノンに襲われたりなどしたらたまらないだろう。


 しばらくして、メルが戻ってきた。

 恐らく、もう神崎は目的地に到着しているだろう。

 「今すぐ、行く」

 メルがそう言うと、俺とメルは転移を開始した。







 八雲……八雲……!!

 神崎朱莉は一人、地図に書かれていた建物へと走っていた。

 あの男に話を聞かされてから、少しだけ動悸が激しくなった。


 最初は、もう八雲が殺されてしまったのではないかと恐れたが、絶対に死んでいないと言われて少しだけ安心した。

 だが、八雲がいつでも殺せる状況に変わりは無かった。

 もう、私から誰も奪わないで……。


 あの時、あの無人島でクラスメイトを目の前で殺されて……。

 恐ろしさよりも怒りがどんどん込み上げてきた。

 目の前にいる男を殺さないと……それしか考えられなかった。


 男は逃したが、まだ小さかった私はその場に立ち尽くし、何も考えられなかった。

 友達を失ったのは初めてだった。

 あの時持った感情は、二度と味わいたくない。


 もう誰も、失いたくない。

 あれから、能力を使うのが怖くなった。

 能力を使うと、怒りに身を任せて能力を使っていたあの頃を思い出してしまうからだ。


 八雲は気を遣ってくれた。

 初めは一切使えなかった能力も、次第に普通に使えるようになってきた。

 レノンという少女が現れた時、昔感じた様なオーラを感じ取った。


 この女は、あの男と似た感じがする……。

 強い殺意を持ったあの気迫……。

 恐らくあのまま私が闘っていたら、能力をまともに使えずにあっさり負けていただろう。


 私の……私のせいだ。

 昨日、私がレノンを倒していれば……。

 八雲は私のせいで連れ去られた。


 だから、私が助ける……。

 街から遠く離れた荒野。

 そこにぽつりとそびえる大きな宮殿。


 静かに中に入る。

 レノンは……どこにいる……。

 壁に張り付いて、広間を覗き込む。


 人の気配が全くしなかった。

 本当にここであっているのだろうか。

 レノンは確かに私に会いたいはず。


 だから偽の情報などは流さないだろう。

 ゆっくりと広間に足を踏み入れる。

 広間の中央まで歩いて、もう一度中を見回す。


 かつて王政が行われていた際に暴君が建てた宮殿。

 市民の反乱によって皇帝は追放されたらしいが。

 「待ってたわ」


 暗闇の中から、レノンの声がした。

 その瞬間、広間の外側に置かれていた松明に一斉に火が点いた。

 この能力式……能力者は二人?


 明かりがともり、視界が開ける。

 広間の奥の階段の真ん中辺りに、レノンと、青いロングヘアーの背の小さい女の子がいた。

 炎系統の能力を使うのはあの子か……。


 「八雲はどこ」

 私は出来るだけ冷静に言った。

 だが、胸の中には今にも溢れだしそうな怒りの想いがある。


 「ちゃんといるから大丈夫よ。私たちを倒せたら、会えるわ」

 「お姉ちゃん、この人、やっつけていいの?」

 背の小さな女の子がレノンに話しかける。


 あの二人、姉妹なのか。

 「いいのよ、アスカ。お姉ちゃんと倒しましょう?」

 何……好き勝手言ってるのよ!


 私は運動エネルギーを生み出し、エネルギーの塊を作った。

 そして直径一メートルほどの光線を打ち出した。

 「うああああああああああああああああ!!!」


 「すごいわね」

 レノンとアスカは間一髪でその光線を躱した。

 光線はそのまま宮殿の壁を貫通して、ぽっかりと穴が開いてしまった。


 「あんなの防ぎっこ無いわね……」

 「お姉ちゃん、あの人すごく強い……それにあの目……」

 私の目は、獲物をしとめる獣の目をしていることだろう。


 だが、この状況でそれは間違っていない。

 一秒でも早くあの二人を消し去って、八雲の所に行かないと。

 私は間髪入れずにエネルギー弾を生成した。


 「ああああああああ!!」

 数百もの弾幕。これなら躱せないでしょう!?

 私は完全に二人を包囲し、光線を打ち放った。


 「ちょっ、嘘でしょ?」

 レノンは分厚い鉄のドームを作った。

 「そんなんで、防げるわけないでしょ!」


 光線はほんの数秒でドームを貫通した。

 大きな衝撃音が鳴った。

 「やった……?」


 「いや、正直危なかったよ」

 後ろ!?

 振り返ると、そこにはレノンとアリサが立っていた。


 いつの間にか、鉄の棒が私目がけて飛んできていた。

 躱そうと思ったが、灼熱の炎が逃げ道を完全に塞いでいた。

 くっ……絶対解除!


 レノンの能力式を読み取り、私はその解除式を打ち込んだ。

 だが、鉄棒は消滅することなく、私の左肩を打ち抜いた。

 何で?


 数メートルほど吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。

 能力を解除できない?

 確かに解除式を……。


 「驚いているわね」

 レノンがこちらに歩いてくる。

 その後ろには、大きな穴が開いていた。


 先ほど私が光線を放ったところを確認すると、そこにも同じくらいの穴が開いていた。

 ドームで光線の被弾時間を遅らせて、地面に穴を掘って脱出したのか……。

 それよりも、どうして能力が解除されないの?


 左肩がズキズキ痛む。

 もう動かすことは出来ないだろう。

 「案外大したことなかったわね、最強の能力者さん……」


 レノンは以前八雲と戦闘した際に見せた、合金の手裏剣を作り出した。

 その解除式を打ち込んだが、やはり能力は無効化されない。

 「それじゃあね」


 手裏剣が、私目がけて飛んできた。

 私は動けず、目を強く瞑った。

 だが、手裏剣は私に突き刺さることは無かった。


 「んなっ……」

 レノンが何かに驚いているようだ。

 私は目を開いて目の前に立つ人を確認した。


 「あんた……」

 そこには、篠原圭吾が立っていた。

 そんな、どうやってここに……?


 「助けに来たぜ」

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