表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

Episode4

 部屋九畳。

 ふかふかのベッドに四十インチ以上のモニター。

 冷蔵庫の中には様々なドリンク。もちろんオールフリー。


 超能力の世界なのに元の世界と大して変わらないということを一度置いておく。

 なんだこの素晴らしい部屋は。

 俺は昨日メルと夕食を食べた後、スイートルームへと足を運んだ。


 部屋に入ってすぐに設備の良さに驚嘆した。

 素晴らしすぎる!

 俺は今までこんな部屋に泊まったことが無い。


 風呂はデカいし、冷房もなぜか俺にとって最適であるように自動的に温度が変わる。

 これは能力かなんかなのだろうか。

 俺は昨日シャワーを浴びた後、冷蔵庫から気になる飲み物をいくつか取り出してモニターをつけた。


 そして超能力を駆使したバラエティ番組をずっと視聴し、その後ベッドに寝転んだ。

 記憶は定かではないが、俺が寝ようと思った数秒後には眠ってしまった気がする。

 思わぬところに能力が使われているのか。


 メルとは八時に一階の朝食会場で待ち合わせをしている。

 俺は支度をして部屋を出て、一階へと向かった。

 時間にはまだ一時間早いが、この世界の食べ物を吟味しようと思った。


 ホテルの各界の中心地には転移石というものがある。

 その石に触れて目的地を言うと、そこに連れて行ってくれるのだ。

 俺はその石に触れて一階ロビーと告げた。


 あっという間に風景が移り変わった。

 俺は何も感じることなくロビーに辿り着いた。

 石から手を放して朝食会場へと向かう。


 会場は既に多くの人で賑わっていた。

 どうやらバイキング形式のようだ。

 トレイに皿を乗せて料理を慎重に観察する。


 これは一体何なんだろう……サラダなのか?

 色とりどりの薄い紙のようなもの……まあちょっと取ってみるか。

 俺はそのまま、良く分からない食べ物を取っていった。


 これ本当に美味しいのだろうか。

 パンのようなものを見つけた時は歓喜した。

 これは絶対にうまいと確信した。


 そして次に、甘い匂いのする方向へと向かう。

 何を隠そう、俺は大の甘党なのだ。

 この世界のスイートがどのくらいの水準なのか、確かめさせてもらう。


 どうやらスイーツはオーダー制らしく、向かいのキッチンに料理人が立っている。

 「ええっと、一番のおすすめください」

 メニューが読めない俺はそう注文する。


 「かしこまりました」

 いかつい顔をした料理人は慣れていないような笑顔で答えた。

 料理人は縦に細長い器を取り出した。


 パフェでも作るのだろうか。

 だが、料理の過程は俺には全く理解できなかった。

 料理人が指を鳴らすと何か食材が出てきて、歌を歌うとその食材が勝手に動く。


 何この超能力。

 超能力はすべてがかっこいいというわけでは無いらしい。

 あっという間に謎のパフェが出来上がった。


 銀色のクリーム?

 そしてなぜか光っている。

 水々しいのはフルーツだろうか。


 とても美味しそうには見えない。

 トレイにもう置けなくなったので、二人掛けの席に座る。

 メルはまだ来ていない。


 さてさて、頂こうかな。

 まずは主食のような米料理をいただく。

 この世界ではスプーンの代わりに木べらのようなものを使う。


 実際食べづらくないのだろうか。

 だが周りにいる人はこの木べらを器用に使ってご飯を食べていた。

 俺も周りの人に習い、ご飯を食べる。


 お、結構うまい。

 見た目はあまりよくないが、味はなかなか美味しかった。

 もちろんまともそうな、綺麗な料理もあったのだが、折角知らない世界に来たので珍しいものを食べたいと思うじゃないか。


 想像を遥かに超える美味しさなので、食が進む。

 「早いわね」

 声をかけられ、前方を見上げる。


 そこにはいつもの白い装束を着たメルが料理を持って立っていた。

 トレイの上にはご飯に味噌汁、焼いた鮭に卵焼き、そしてプリンが乗っていた。

 あれ? お箸とスプーンがある。


 「なんか、俺のいた世界とあんまり変わらないな、ここ」

 俺は拍子抜けていた。

 「言えば出してくれる、スプーンとか。この世界はA01、つまり昨日いた世界をベースに作られているから基本構造は同じ。全部私が伝来した」


 「は!?」

 「だって、不便」

 なんていうやつだ。


 こいつはこの世界が自分にとって不便だからと言って、俺のいた世界の仕組みをこっちに導入したって言うのか。

 「そもそも、能力を使うのにだってエネルギーを使う。私が初めて来たときはエレクトロマスター、電気系統の能力を使う人が疲れ果てたらずっと停電なんていう街だった」


 そいつは、なんか非効率だな。

 じゃああのスイートルームも、メルが来るまではあんなに過ごしやすくなかったのだろうか。

 メルは席に着いて両手を胸の前で合わせていただきますと言った。


 俺はスタッフさんにスプーンを持ってくるようお願いした。

 このパフェを木べらで食べるのは難しそうだ。

 「今日は何がしたい?」


 メルが俺に問いかける。

 「ん? 自由行動なのか?」

 「特に予定はない。時間もある」


 「そうだな……だったらこの街を少し歩いてみたい。珍しいものが多いし」

 「そう、それはいいかもしれない」

 女性のウェイトレスがスプーンを届けてくれた。


 いよいよ本命のパフェを食べることが出来る。

 「それと、圭吾の能力が何なのかも調べないと」

 俺はもうメルの話など聞いていなかった。


 銀色のクリームをすくい、その輝きを見る。

 ああ、なんだこれは。

 こんな幻想的なスイーツ見たことないぞ。


 俺はゆっくりとそれを口に運ぶ。

 その瞬間、俺に電撃が走った。

 程よく冷たく、そしてとろけるような触感。


 口にはシュワシュワが広がり、やや甘めだがこれが丁度いい。

 まさに絶品、この上ない至高の一品だ。

 「話聞いてる?」


 俺はその時やっと、メルが片方の頬を膨らませて怒った表情を浮かべていることに気づいた。

 「あ、ああ、ごめん」

 「もう……」


 パフェを綺麗に平らげてレストランを後にし、チェックアウトを済ませた。

 なかなかいいホテルだったな。

 ホテルを出て、あたりを見回す。


 まだ朝早いというのに結構人がいるな。

 ホテルの隣にあるカフェ、ミラージュはまだオープンしていなかった。

 「ああ、そういえば今日はトーナメント最終日……」


 「トーナメント?」

 「そう、毎月行われてる。この世界の誰もが最強の能力者の称号に憧れてる。だから、毎月トーナメントを行ってその優勝者が神崎朱莉に挑戦する権利を有する」

 

 なるほどな。

 確かにそういうシステムを用意してやらないと、街のどこで喧嘩吹っ掛ける奴がいるか分からないからな。

 「見に行きましょう」


 俺たちはトーナメントが行われる会場へと歩みを進めた。

 神崎の戦いがいかなるものか、この目で見てみたい。

 昨日の戦闘は恐らく全力でもなんでもないだろう。


 最強にしては少ししょぼくないかと感じているが、彼女にはまだとっておきがありそうだ。

 それと、あの連れの八雲とか言ったか。

 神崎の周りをウロチョロしてるくらいだから彼女も実力者だろう。


 闘技場に到着した。

 楕円形の会場で、天井は無く青空を拝むことが出来る。代々木体育館っぽいな。

 会場は大賑わいだった。


 「本日のスペシャルマッチ! 神崎朱莉VS白幡稔! さあ張った張った!」

 どうやら賭け事も行われているらしい。

 各地に設置されているモニターを見ると、圧倒的に神崎が支持されている。


 白幡という男には数人が小遣い程度に賭けているだけだ。

 まあちょっとした金でも、運よく勝てば大金に膨れ上がるのだろう。

 だが、これでは賭けにはならない。


 入場券をもらって観客席へと向かう。

 会場は既に満席だった。

 偉い人気だな。


 「さて、お待たせいたしました! 本日のスペシャルマッチ! まずは挑戦者! 白幡稔!」

 会場が一斉に沸き上がった。

 「おおおおお! やっちまえ! 白幡ー!!」


 コートを見ると、二十代くらいの背の高い男が現れた。

 あれが白幡稔か。

 額に鉢巻を巻き付け、黒いジャケットを羽織っている。


 「そしてチャンピオン! 神崎朱莉!」

 再び会場が沸き上がった。

 さっきの白幡の時とは大きく違い、小道具などで音を出すものもいてやかましいくらいだ。


 両者がそこそこ広い正方形のコートに入り、対峙する。

 相変わらず神崎は怖い顔をしていた。

 「それでは、始め!」


 開始のアナウンスうがかかった。

 それと同時に白幡が動いた。

 「うおおおおらあああ!!」


 白幡が叫ぶと、周囲に稲妻が落ちた。

 電気を操るのか?

 稲妻は竜巻の様に地面と空を繋いだ。


 「食らいやがれ!」

 稲妻が高速で神崎目がけて動き出した。

 会場がざわめく。


 「しょっぼいわね」

 神崎は人差し指と中指を突き出して雷の竜巻目がけて光の光線を打ち込んだ。

 直径一メートルほどだろうか。


 俺が昨日打ち込まれたのはあれの何倍も小さかったが、やはり手加減されていたのだろう。

 巨大なレーザー光線が宙を切り、雷を消失させた。

 「まだまだあ!」


 白幡は雷の陰に隠れて神崎に接近していた。

 そして急停止し、地面を思い切り殴りつけた。

 すると神崎の半径数メートルにおよび、電撃が走った。


 流石にこれは防ぎようがない。

 神崎は電撃の森の中にいるようだった。

 「やったか!?」


 白幡は神崎の方を確認する。

 電撃が鳴りやむと、俺はその光景に目を見張った。

 なんだ、あれ?


 神崎の体の周りに、光線がシールドを張るように形状を変えていた。

 「ああいうことも出来るのか」

 「彼女の能力はレーザーを打つことではない」


 急にメルが口を開いた。

 「彼女は無制限にエネルギーを生み出すことが出来、それを自由自在に操る」

 なるほど。


 神崎はエネルギー弾を打ったり、エネルギー膜で自らを守ったりすることが出来るのか。

 それは手ごわすぎる。

 「それと、彼女の能力はそれだけじゃない」


 「まだ、何かあるのか?」

 メルは真剣な眼差しで戦いを見守っていた。

 「そろそろ終わりにするわよ」


 「くそ、もう時間か!」

 白幡が何かを言っていた。

 時間?


 「この大会には大きなハンデがある」

 メルが話を続ける。

 「ハンデ?」


 「彼女のもう一つの能力はあまりに強すぎて、決闘開始後数分間はそれを使うことを彼女が拒んでいる。そうしないとバトルにならない」

 「くそがあああ!!!」

 白幡が両腕に電流を集め出した。


 「終りね」

 メルがそう呟くと同時に、白幡が腕を神崎に向けて巨大な電磁砲を打ち放った。

 早い!


 それは高速で神崎目がけて放たれた、はずだったのだ。

 


 ――パリィイン!!――



 不思議な音がした。

 そして、俺の景色から電磁砲が綺麗さっぱり消え去っていた。

 「彼女のもう一つの能力は絶対解除。あらゆる能力を解除するわ」


 「んな、そんなこと出来るのかよ!?」

 俺はメルに問いかけた。

 「能力を発動するとき、人は無意識にありとあらゆる式を展開してそれを行使する。神崎朱莉はそれを読み解き、逆算して相手の能力を無力化することが出来る」


 俺はあまりにも強すぎる能力の説明を聞き、口を半開きにしたまま固まっていた。

 「試合終了ーーー!!」

 気が付くと、神崎が白幡に光線を打ち込んだらしく、勝負が決した。


 強すぎるぜ、神崎朱莉。

 メルはあんな奴にアツアツのドリンクをぶっかけたのか。

 勝負が決して、お客さんがぞろぞろと帰り始める。

 

 「私達も行きましょう」

 そう言ってメルは立ち上がり、出口へと向かった。

 俺もその後に続いた。


 すごい戦いだった。

 俺は神崎の強さを目の当たりにして、改めて考えなおした。

 神崎はこれから一体どんな不運に遭うのだろうか。


 あれだけの力を持ちながら、一体どうしてピンチに陥るのだろうか。

 力ではどうしようもないこと?

 考えても何も思い浮かばない。


 「じゃあ、商店街にでも行きましょう」

 おお、商店街か。

 確かに、そろそろ色々な店が開店したころだろう。


 何かいいものがあったらメルに買ってもらおう。

 闘技場を出て一度ホテルのあった広場に戻る。

 そこから少し歩くと、段々と賑わった声が聞こえてくる。


 「おおー! すげえ!」

 ずっと続く一本道の両脇に様々な店が構えられていた。

 食品から骨董品など、おそらくどんなものでもここで買い揃えられるだろう。


 元いた世界の技術レベルでは絶対に作ることのできない素晴らしいものが数多く販売されていた。

 もちろん、用途の分からない意味不明な商品も数多くあるが。

 だが、なんといっても食べ物だ。


 九割九分以上が俺の見たことも無いような食べ物だった。

 俺はメルにお願いをしてありとあらゆる食べ物を食べていた。

 普通、立場は逆なのだろうが。


 「おいメル、今度はこれ買ってくれ!」

 俺は串団子のようなものを指さしてメルを呼んだ。

 「本当、よく食べる」


 メルは呆れた声で言い、二つ分の料金を支払った。

 どうやらメルも食べるらしい。

 この世界に来たことがあるメルが買うのならきっと美味しいはずだろう。


 優しそうなおばあちゃんが、俺に団子を差し出した。

 俺はそれを受け取り、一本をメルに渡した。

 「あ、そういえばこれ」


 メルが何かを言いかけていたが、俺は気にせず団子を頬張った。

 途端に、口の中に鋭い刺激が走る。

 「この団子、女性以外が食べると痛いわよ」


 何だよ、そのふざけた団子は!!

 痛みは一瞬だけで継続することは無かったが、とてもじゃないが食べられない。

 俺は団子をメルに差し出した。


 「え、間接キス……」

 「な! あ、違う違う! そういうつもりじゃないんだ!」

 メルの顔を見ると、少し赤くなっていた。


 「ま、まあ圭吾がどうしてもって言うのなら……」

 恐らくメルはこういうのには慣れていないのだろう。

 かくいう俺も全然慣れていないというか経験が無い。


 俺はメルから団子を奪い取り、一気にそれを食べる。

 激しい痛みが俺の口を襲ったが、一瞬さえ我慢すればよいのだ。

 「ああ……」


 俺は為すべきことをしたと思ったが、メルはなぜか残念そうな顔をしていた。

 何でだ?

 そう思っていると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 「あ~ん、朱莉様~。運動の後は糖分摂取ですわよ~。いつものお団子食べましょう~」

 ああ、この声は……。

 さっきの団子屋の方を見ると、例のキチガイツインテールとポニーテールの神崎朱莉がやってきた。


 うーわ、最悪。

 メルはまだもぐもぐと団子を食べていた。

 最後の一個が串に深く刺さっているので食べにくそうにしていた。


 俺は出来るだけ二人に気づかれないように後方を向いた。

 頼む……そのままどっか行ってくれ!

 だが、俺の期待はバッサリと切り捨てられた。


 「あ! あんた! 昨日の!!」

 予想外にも声をかけられたのは神崎朱莉の方だった。

明日はもしかしたら更新できないかもしれません><

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ