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Episode3

 「二名様でよろしいですか?」

 俺とメルは街のあるホテルにやってきた。

 どうやら街の機能も様々な超能力に頼っているようだ。


 車などは一切通っていない。

 メルの様な空間転移系超能力を使う者たちがこの世界の交通を牛耳っているらしい。

 このホテルだってそうだ。


 どうやら温泉があるようだが、そのお湯の温度は常に一定に保たれ、数秒ごとに清潔になるよう超能力が施されているらしい。

 とにかく、ありとあらゆる事を超能力に頼り切っているのだ。

 もし能力者が倒れたりとかしたらどうするつもりなのだろうか。


 メルはチェックインを済ましたようで、カードキーを受け取っていた。

 そこは能力とか使わないのな。

 「このホテルの隣にカフェがあるらしいから、そこで話をしましょう」


 俺たちはホテルを出て、すぐ隣のカフェ、ミラージュへと移った。

 店の外装はとてもカラフルで、正直言って目にうるさい。

 店内もまたカラフルな小物などが多く、とても落ち着ける場所ではない。

 

 「お好きな席にどうぞ~」

 店には一人だけウェイトレスがいた。

 子供がやっている店なのか?


 ウェイトレスは背がとても低く、俺の世界で言う小学生くらいに見えた。

 可愛らしいフリルのついたユニフォームに真っ黄色のシューズ。

 あくまでもパステルカラーにこだわっているのだろうか。

 

 「ご注文はいかがなさいますか?」

 その幼女が俺たちのテーブルのオーダーを取りに来た。

 俺はメニューを手に取り、それを開いた。


 ああ、文字は読めないんだった……。

 「メル、俺の分も適当に頼んでくれ」

 俺はメニューを机に置き、全てをメルに託した。


 注文が終わり、ウェイトレスは元気よく返事をして厨房へと行った。

 「なんか、すごい明るい店だな」

 「そうね」


 「で、俺たちはここで何をするんだ?」

 俺は本題に入ろうと、メルの目を見た。

 メルは変わらぬ表情で話し始めた。


 「私が予知で見たものは、一人の少女の悲劇。私たちは、彼女を助ける」

 「この世界の女の子が何か事件とかに巻き込まれるのか?」

 「それは分からない。私が分かるのは、その少女が何者で、そして不運に遭うという事実だけ」


 話の途中で先ほどのウェイトレスがドリンクを持って来た。

 メルのは恐らく普通のコーヒーだろう。

 俺のは……何か沸騰したどす黒い飲み物が目の前に差し出された。


 「ごゆっくりどうぞ~」

 幼女は可愛らしい声でその場を去っていった。

 待て、この飲み物の説明をしてほしい。


 メルはコーヒーらしきものを一口飲み、話をつづけた。

 「私達が助ける相手は神崎朱莉。この世界の、最強の能力者」

 「は?」


 「この世界に存在する全ての人は超能力を使える。そして、その中でもずば抜けた才能を持った人がいる。それが神崎朱莉」

 そんな強い奴が存在するのか。

 だったら俺らが助けなくてもその子が勝手に問題を解決するんじゃないのか?


 「強いって、どんだけ強いんだ?」

 俺は目の前のカップを持ち、そして飲むのを止めて手を離した。

 「私も会ったことは無い。けど、何人がかりでも決して破ることのできない無敵の少女とは聞いたことがある」


 「そいつ、本当にピンチになるの?」

 俺は抱いていた疑問を投げかけた。

 そんな強い能力者なら俺たちの出番はないではないか。


 「なる」

 俺は空気が変わるのを感じた。

 前も感じた、メルに吸い込まれてしまいそうな強い気迫。

 

 「私の予知は絶対。必ず当たる」

 「わ、わかった」

 承諾するしかなかった。


 メルは再びコーヒーのようなものを飲んだ。

 「それで、俺らはこれからどうすんだ?」

 「もちろん、神崎朱莉に接触しなければならない。どこにいるかは分からないけど」


 分からないものをどうやって探せばいいんだよ……。

 俺ががっくりとしていると、誰かお客さんが来たのかドアが開けられ、ドアについているベルが鳴った。

 「いらっしゃいませ~」


 よくよく聞くと、このウェイトレスの声は癒されるな。

 これも超能力なのか?

 「二名様ですか~?」


 姿は見えないが、この声は、なんか、いい。

 俺が幼女の声にうっとりとしていると、メルが素早く視線を入り口に向けた。

 「見つけた」


 ん? 何をだ?

 「二人よ」

 「あ~! 朱莉様と一緒にお茶出来るだなんて光栄ですわ~!」


 なんだか変な客がやってきたようだ。

 なんだよ、ですわって。

 俺は入り口を見て、入ってきた客の顔を見る。


 まともそうな方は、綺麗な髪をシュシュでまとめてポニーテールにしていた。

 可愛い子かと思いきや、彼女の目は獲物を捕らえるかのような狡猾さが見られた。

 うわ、ちょっと怖いな。


 そして頭がいかれてそうな方だが……。

 赤色の髪の毛。ツインテール。

 後は目がヤバい人。


 あの様子だと、レズとか百合とかって言うのか……?

 あれ、そういえばあのイカレタやつ、もう一人のことを朱莉様とかって……。

 「おいメル、もしかしてあの怖そうな人は……」


 俺はメルに向き直って聞いた。

 メルはあの二人を見つめながら口を開いた。

 「そう。ポニーテールの方。あの子が最強の能力者、神崎朱莉」


 まさかこんなに早く出合うとは思ってもいなかった。

 まあ確かに、オーラというか貫禄があるようにも見える。

 あのキチガイはお友達だろうか? ヤバい宗教にはまってる奴に見える。


 二人は俺らの隣の席に座った。

 「さあさあ朱莉様~、何をお飲みになります~?」

 「私は……いつものでいいわ」


 「ああ~ん、じゃあ私もそれにしますわ~。すみませ~ん!」

 ツインテールの女子は神崎朱莉にメロメロなのだろうか。

 正直言って、気持ち悪い。


 神崎朱莉の方は真逆で落ち着いているな。

 あれが最強の能力者としての威厳なのだろうか。

 「さて、圭吾。一仕事」


 「ん?」

 「私達が神崎朱莉を助ける以上、彼女たちとは顔見知りにならなければならない」

 ああ、まあ、確かにそうだわな。


 だがどうやって接点を持つのだろうか。

 まさか今この場で初めましてー、と話しかけるのではなかろう。

 「私に任せて。後これを持って」


 俺はメルに何か丸い球を渡された。

 「困ったらこれを地面に投げつけなさい」

 「あ、ああ……」


 俺が困惑した表情を浮かべていると、メルは席を立ちあがった。

 そして俺のグツグツと煮えたぎる謎の液体の入ったカップを持ってそれを隣に座る神崎朱莉にぶっかけた。

 「はあ!? お、お前、何してんだ!」


 俺がそう言ったときには時すでに遅し。

 メルはテレポートでどこかに消えてしまった。

 なああああああああああああああああ!?


 俺はすぐに神崎朱莉の方を見た。

 だが、彼女は火傷どころか全く濡れていなかった。

 何で?


 「ちょっと!」

 イカレタ女がイカレタ様子で立ち上がった。

 「あんた! 朱莉様に何てことするのよ!」


 どうやらめちゃくちゃ怒っているようだった。

 だが待て、やったの俺じゃないぞ?

 「どういうつもりか知らないけど……」


 低いトーンで神崎朱莉が喋る。

 「これは私への宣戦布告よね」

 まあ、怒るわな。


 「ここでは暴れられないから、外へ出ましょう」

 神崎は鋭い目で俺のことを睨み、ミラージュを出ていった。

 「さっさと歩け!」


 俺はイカレタ女に蹴飛ばされ、仕方が無く店を出た。

 この流れで行くと、俺は神崎朱莉に完膚なきまでにボコボコにされて終わるだけではないのだろうか。

 神崎朱莉とコンタクトを取らなければならないのは分かるが、印象はどうでもいいのだろうか。


 「お、おい、見ろよ。あいつ、あの神崎を怒らせたらしいぞ」

 「なんか飲み物投げ飛ばしたとか」

 「うっわ、勇気あるなあいつ」


 街の人々がひそひそと話しているのが聞こえる。

 俺はとんでもない地雷を踏んでしまったらしい。

 メル、後で覚えてろよ。


 ミラージュから少し歩いて、俺たちは広い空地に辿り着いた。

 近くの看板には演習所と書かれていた。

 「ここなら邪魔も入らないわ」


 神崎は怒った表情で俺と対峙した。

 「あのー、ここは一体」

 「はあ!? あんたバカなの!? ここは演習場よ! 演習場!」


 んなこと言われても、この世界にはさっき来たばっかりなんだが……。

 「ここなら何をしても大丈夫なのか?」

 「あーもう! 調子狂いますわね!」

 

 イカレタ女は訳の分からない俺に対して殊親切に詳細を教えてくれた。

 この演習場は空間自体が隔離されていて、どんなに強力な超能力を使っても周りの建物などには被害が出ないらしい。

 便利なこった。


 「説明は終わりよ……覚悟はいいかしら」

 やっぱり、喧嘩しないといけないのな。

 「八雲、下がってなさい。これは私の喧嘩よ」


 「はい、朱莉様! がんばってくださいませ!」

 そう言ってキチガイ女は遠く離れたところに移動した。

 ん? いつの間にあんなに遠くに移動したんだ?


 「よそ見してる場合?」

 俺がツインテールに気を取られていると、俺の顔のすぐ横を何かが高速で通ったのを感じた。

 何だ? 今のは。


 耳元でチリチリと音が聞こえる。

 どうやら髪の毛が焼き切れたみたいだ。

 おいおい、しゃれになんねえぞ。


 「まだまだ行くわよ!」

 神崎は手を前方に差し出した。

 その瞬間、神崎の手前に緑色の光の玉が四つ現れた。


 と思ったのも束の間。

 その緑色の玉は光線となり、俺目がけて飛んできた。

 俺は横に飛び込み、かろうじて光線を避ける。


 あんなの当たったら死ぬっつの!

 神崎はゆっくりと俺に近づいてくる。

 こんなのいつまでも躱してられねえ。


 性には合わないが、間合いを詰めてぶん殴るしかない。

 俺は拳を握りしめて、神崎目がけて猛ダッシュをした。

 「バカなの?」


 神崎は再び手を前にかざした。

 光の玉が、今度は三つ。

 見た感じ、光線は真っ直ぐにしか飛んでこない。


 光の玉の出現場所だけ気を付けていれば躱せないことは無い。

 「私の光線は曲げられない、なんて思ってるんじゃないでしょうね」

 俺は光線を間一髪で躱した。


 が、光線は軌道を変えて九十度曲がり、俺の左肩を掠めた。

 「いって!」

 今確かに、光線は曲がった。


 「軌道なんていくらでも変えられるのよ。今は愚かなあんたに免じてわざと外したけど、次は当てるわよ」

 くそ……光線が曲がるならどうやって躱せばいい……。

 だが、俺にはこれしかねえ!


 俺は再び地面を蹴って全力でダッシュした。

 神崎との距離は殆どない。

 神崎が手を前にかざす。


 その瞬間にさっき転んだ時に拾った砂を神崎の顔に投げつける。

 「つまんないわ」

 俺の投げた目潰しのための砂はレーザーによって粉砕された。


 なるほど、だからさっきも全く濡れてなかったのか。

 だが元からそんなものは当てにしてなかった。

 俺は光線の軌道を読み、全部躱すつもりでいた。


 光の玉は四つ。

 恐らく一つは確実に俺に当てるため。他の三つは回避ルートを潰すためだろう。

 俺は全神経を反射へと集中した。


 昔から反射神経だけはずば抜けていた。

 だからバスケットボールもあれだけ上達できた。

 光線が発射された。


 まずは左に避ける。

 一つがそのまま通過し、三つが俺を追う。

 そこで俺は先ほどメルに預かった謎の玉を自分の足元に投げつけた。


 正直これが何なのかは分からない。

 だが、賭けるしかなかった。

 最強の能力者相手に普通の武器類は通用しないだろう。


 だから、火力のあるものは俺に渡さない。

 となると、この玉は防御用か逃走用のいずれか。

 玉は地面に叩きつけられると、大量の煙を出して爆発した。


 煙玉か!

 占めた! これなら神崎は俺の居場所は分からない。

 俺は静かに、そして素早く神崎の後ろに回り込んだ。


 悪いが、一発殴らさせてもらうぜ。

 その後に、能力を使っていれば倒せたとかハッタリをかませば終わるだろう。

 神崎の背後を確認した。


 俺は思い切り拳を握って殴りかかった。

 「ホント、甘いわね」

 その言葉を聞いたとき、寒気が襲ってきた。


 「私の光線の発射地点は別に、私の近くでなくてもいいのよ」

 なっ!!

 俺はすぐさま後方を見た。

 

 俺は緑色の光線が自分目がけて飛んできているのを見た。

 躱せない。

 俺は目を思い切り瞑った。


 激しい衝撃音とともに土煙が舞い起こった。

 「雑魚のくせに、なんで私に喧嘩売ったのか意味わかんないわ」

 「朱莉様~! 素敵でしたわ~!」


 あれ……俺、生きてる?

 どうして……確かに光線は……。

 だが、これはチャンスだ!


 土煙が晴れた。

 「な……何であんたまだ立ってんのよ!」

 神崎が俺の姿を見て驚く。


 「朱莉様の一撃を食らって平然としていられるなんてありえませんわ!」

 「まさか……強力な防御系魔法……?」

 神崎が推測を始める。

 

 どうしよう……チャンスはチャンスなんだが、何も言葉が思いつかん……。

 とりあえずこの場から逃げるべきか。もうこんなチャンスは巡ってこないだろう。

 「ちょっと、どうしてあんたが生きてるのか教えなさいよ!」


 不味い、早くどうにかしないと。

 「は……はーっはっはっは! お前には俺が何をしたかも分かるまい! さ、さーて、今日はこの辺にしておこうかな! また会おう!」

 俺はそう言い残してユーターンをし、全速力で演習場を出た。


 恐らくここさえ出ればあいつらは能力を使ってこないだろう。

 俺は来た道を戻り、メルと来たホテルへと帰ってきた。

 ホテルに入ると、ロビーにメルが本を読みながら椅子に座っているのが見えた。


 「おい、メル」

 俺はメルの前に立って話しかけた。

 「あら、お帰り」


 「おかえりじゃねえ! とんでもない目にあったじゃねえか!」

 「けど私が助けてあげたじゃない。最後にテレポートで」

 なるほど、最後の攻撃を食らわなかったのは、メルがテレポートで少しだけ俺の座標を変えてくれたからだったのか……。


 「って、そうじゃねえ! お前のせいだよ! というか見てたのかよ!」

 メルは本を閉じて、何を言ってるんだこいつといった表情を浮かべた。

 表情に出るほどなのか、これ。


 「けど目的は達成した。神崎朱莉は確実に圭吾に興味を持った。後は放っておいても向こうから接近してくるわ」

 「そ、そりゃあ、まあ……」

 「悪かったわ。お詫びにスイートルーム取っておいたから」


 す、スイート!?

 ネットで何度か聞いたことがあるが……そ、その、メルと二人でか?

 「ああ、ちなみに私はエメラルドルーム。ここの最高峰みたい」

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