4月6日 曇り 2次試験終了
「これでここにお集まりいただく予定の16名様が揃いましたので本選会場まで案内いたします」
そう言うとおじいさんはさっさと歩き出し、振り返ることなく車両基地から出て行った。
取り残されあ俺たちはあわてておじいさんを追いかけると、迷うことなくそのまま近くの駐車場に入り、さらにそこには2台のバスが用意されていた。
「大変お待たせいたしましたこれよりバスでの移動となります」
おじいさんは目の前にあるバスを指差しながら説明をしている。
ただ、そこにあるバスは1台が豪華リムジンバス、もう1台は普通のマイクロバスだ。
「さて、こちらのバスですが昨日の天気予報でも降水確率が高いと言っていましたし、本日はごらんのように今にも雨が降りそうな曇り空となっております」
上空を見上げると確かに今にも雨が降りそうな真っ黒な雲が立ち込めている。
「雨が降ると予想し、本日傘をお持ちになられた方はこの大型バスにお乗り下さい、傘のない方は後ろのマイクロバスへ乗ってください」
おじいさんはバスの間に立ち、この場所に集まった参加者に移動を促している。
「やれやれ、やっと移動できますね、おや、貴方達は傘を持っていなかったようですね、残念ですがここでお別れですかね、ああ本当残念だ」
雲渡はそう言ってきたが、言葉と裏腹にその表情はにやけている、そしてこちらを一瞥した後そのままリムジンバスへ乗込んで行った。
「ワテは傘なんか持っとりません、マイクロの方へいっとります」
そう言うと島島は後ろのマイクロバスへ歩いて行った
「渉、傘は持ってきましたか」
「すっ、すいません、忘れました」
渉君はその場で顔面蒼白になり今にも気絶しそうな感じだ。
「そんな顔をしなくでも大丈夫ですよ、今は何もしませんから」
さらに顔色が悪くなった感じだが、かおりさんに連れられてマイクロバスの方へ引きずられていった、さらにあの金髪の兄ちゃんもマイクロの方へ無言で歩いていっている。
「待ってないで私たちも行こうよ」
望ちゃんにせかされて俺もマイクロバスへ乗り込んだ。
結局このマイクロバス乗っているのは俺を含めてたった6人だけだ。
「この待遇の差は昔見たことがある某クイズ番組のようにこのまま東京駅直行だな」
がっかりしていると先ほどの案内係のおじいさんも乗り込んできた。
「さあ、出発しますよ」
おじいさんが言うと前の大型バスの続いてこのマイクロバスも動き出した。
バスはそのまま東京駅・・・を通過して皇居前、東京タワー、都庁、秋葉原、スカイツリーとまるで東京の観光名所を止まらずに大回りで回っているような感じだ。
そうしているうちにいつの間にか前を走っていたリムジンバスの姿が消えていた、そんな時に一番前の席に座っていたあのおじいさんが立ち上がり、こちらの方へ向きなおし、辺りを見回している。
「もう良いでしょう、おめでとうございます、あなたたちが二次試験合格者です」
と、唐突に言ってきた、みんな、いや望ちゃん以外はあっけに取られているような感じだ。
「やっぱりね、おじいちゃんが乗ってきたときに分かったよ」
うれしそうに望ちゃんは言っている。
「俺何にもしてないぞ、なんで二次試験合格なんだ」
突然のことだっだのでつい聞いてしまった。
「それではお答えしましょう」
おじいさんがゆっくりした口調で話し出した。
「二次試験で見たのは注意深さと幸運度です」
一呼吸おいて皆の顔を見渡してまたしゃべり始めた
「皆さんにお渡しした紙に『当日はいかなることがあっても雨は降りませんので傘も必要ありません。何も持たずに』の一文があったはずです、天気予報では本日は雨が降ると言ってもらいましたが、ここをしっかり読んでおられたら傘を持ってきてないはずです」
でも俺はただ忘れたんだけど・・・。
「さらに、傘を持ってこようと思っていた方がいらっしゃるかもしれませんが、現にここには持ってきてないということは運が大変に強いということです、予報師の仕事には自分の運を使うことが必要になる場合もあります、以上が試験通過の理由です」
また分からないことを言っている、運を使うって何だろう、予報師の仕事っていったい何をするんだ。
「ところで、豪華バスの人らどないしとります」
島島が聞いている。
「あちらのバスの方々は普通は入れない所を廻る東京観光をしていただいております、そして東京駅にて解散となる予定です、もちろんお帰りいただく目的地までの切符はお渡しいたします、そうですねその時は特別列車ではなく普通車ですが」
そうしているうちに乗っているバスは大周りでまた東京駅を通り過ぎ、国会議事堂を過ぎ、テレビで見たことのある建物、首相官邸へとたどり着いた。
そしてそのまま裏へと周り地下駐車場へと入っていった。