4月6日 曇り 4
その後、少ししゃべっていたが、あまりにも朝が早いと言うか夜遅かったのでウトウトしてしまい、そのまま眠ってしまっていたようだ。
そして気がついたときにはすでに夜も明け、俺たちの乗った新幹線は品川駅を越えてもうすぐ東京駅という辺りまで来ていた。
「おはよう、朝だよ」
望ちゃんが居た方に挨拶をしたが起きていたか、眠っていなかったのか隣ではなく通路を挟み反対側の席に座っていた。
「おはようあお君、よく眠っていたよ、それとね…しましまが乗ってきてから他には誰も乗ってこなかったの」
そう言われたので見渡すと確かにこの車両には俺たち四人だけしか乗っていない。
「じゃあ二次試験はこの4人で行うんだ」
そうしている呟いていると新幹線は東京駅に入っていった。
それと同時に車内アナウンスが
「ご乗車ありがとうございます。ただいまこの電車は終点東京駅に入りますがお降りになる事無くこのままお待ちください。本日はありがとうございました」
「変なアナウンスだな、終点で降りるな、なんて」
その時、新幹線は今までと反対方向に走り出した。
「一体どこに向かってるんだ」
心配になりつぶやいてしまった、それと同時に周りを見回すと、俺だけではなく他のメンバーも少し不安そうな表情をしているようだ。
そしてこの新幹線はそのまま少し走ったところでどこかの車両基地に入っていった。
「なるほど、大井車両基地ですか」
雲渡は周りの景色を見ただけで答えている。
「兄さん、ワテと一緒で鉄ちゃんでっか」
「そうではありませんよ、東京駅の近くで車両基地といえば大井に決まってるじゃないですか」
自信たっぷりに雲渡は答えたが、『普通は知らないぞ』と言いそうになるのを抑えることにした。
しばらくすると新幹線は速度を落としゆっくりと止まった。
「ご乗車ありがとうございます。お降りになったところに係の者が待機していますので案内に従って行動して下さい。本日はお疲れ様でした」
とアナウンスがかかった。
さらにスイッチを切り忘れているのか
「本当は疲れるのはこれからだけどね」
という声も漏れていた、ここまできたら気にしても仕方ない、さっさと荷物を持って下りるかと網棚を見ると、慌てて出てきたため、俺はあの封筒しか持って来ていないのに気づいてしまった。
「しまった、何にも持ってきてない」
と少し慌てていると、いつの間にか隣に来ていた望ちゃんが
「それで正解だよ」
と言ってくれた。
「書いてあったでしょ、雨は降らないから何にも持ってこないでってね」
確かに封筒の中にある注意事項に
『いかなることがあっても雨は降りませんので傘も必要ありません。何も持たず、いつもの服装でお越しください』と書いてある。
「じゃあ、望ちゃんこのままで良いんだよな」
「うん、大丈夫だよ」
そうしている内に、雲渡も島島もすでに降りていることに気付き、俺たちも急いで降りることにした。
「この車両にご乗車の4名様お揃いですね」
そこには身なりの良いお爺様と言った方がいい初老の男性がいた。
「あなたが案内係ですか早く二次試験の会場に案内してください」
雲渡は少しイライラしているようにおじいさんに言っている。
「すぐにご案内いたします、では皆様こちらにご同行いただけますか」
そういうとおじいさんは真直ぐに車両基地の端へと案内し
「では、こちらでお待ちください」
そう言って目の前のプレハブの小屋を指差した。
「こんな所で試験ですか、早く済ませて合格通知をいただきましょう」
雲渡はそう言い残しさっさと小屋のほうへ早足で歩いていった
「さあ、いよいよでんな、一丁やりまっか」
島島はワクワクという様子だ。
「あお君、私たちも行こう」
望ちゃんは子供のように俺の袖口を引っ張っている、そのため急かされるように小屋へと入っていった。
するとすでに中には数名の人が思い思いの位置に立ったり座ったりしていた。
「また増えるのかよ」
奥の方に座っていた金髪の兄ちゃんがつぶやいた。
「いったいどれだけ増えるんだ、わざわざ一番乗りで来てやったのに、団体で増えていきやがる、今来た奴らで12人目だよ」
「一番乗りってすごーい、ひょっとしてお兄ちゃん東京の人」
望ちゃんは無邪気に聞いていた。
「ああ、悪いかそうだよ」
男は怒ったような声で言い返してきた。
「望ちゃん今はおとなしくしとこ」
俺は慌てて小さな声で望むに言った。
「あのお兄ちゃん格好とか言い方怖いけど本当はやさしい人だよ」
こちらをにらんでる様子はとてもそんな感じには見えないが、望ちゃんが言うんだったらきっと間違いないだろう、と俺自身を納得させてその場は黙っておくことにした。
そうしていると入り口の扉が開き。
「ほら、言った通りだろ、こんなに沢山集まってるよ、速く来てよ」
そういいながら入ってきたのは中学生ぐらいの元気のいい男の子だ、さらにそれに続いて、年齢背格好共にその子と同じくらいの女子中学生だ
「こら、渉いつも言ってるでしょ、初めて会った人には挨拶しなさいって」
その女性は笑顔のまま渉と呼ばれた男の子をを瞬殺でノックアウトしていた。
「ごめんよ姉さん、すぐに挨拶するから許して下さい」
男の子は震えながら深々と一礼した後。
「霧咲 渉ですよろしくお願いします」
「はい、良く出来ました。では続きまして私は渉の妹の 霧咲 かおり です。よろしくお願いします」
完全に妹に主導権は握られているのに間違いはなさそうだ。
「ん、ちょっとまて、さっき姉さんって言ってなかったか」
俺の声に反応して霧咲妹?がこちらに話しかけてきた。
「渉の言ったことですね、我が家は少し複雑でして、私が姉でも問題ないのです」
「?」
妹でも姉でもいいってそんなことあるのか少し悩んでいると後ろからサラリーマン風の男性と女子大生風の女性の二人が霧咲兄妹を避けるようにこっそりと入ってきた。
さらに先ほど、ここまで俺たちを案内をしてきたあのおじいさんも入ってきた。