4月6日 曇り 3
次の停車駅は…と見ていると駅の案内表示に『姫路』と見えた。
それと同時にホームに立つ背広姿の人影も見えたような気が…。
そして開いた扉より入ってきたのは・・・
「まいどー、おせわになります」
「あー、ランゲルハンス島島」
入ってきた人を指さし、望が叫んだ。
たしかにそこに現れたのは3~4年前に辺りを凍りつかせる親父ギャグで一世を風靡したコメディアンのランゲルハンス島島だ。
長い名前は呼びにくいので通称『しましま』と呼ばれていた。
ただ最近は一発屋の宿命か、テレビではひな壇の上段端っこにたまにいるぐらいで、ほとんど見なくなっていたが、まさかこんな所で出会うとは。
「少ないですが皆さんがライバルでっか、むっちゃきついやろうけど勝ち残ってまたテレビの仕事もらいまひょ」
「わぁーい、しましまだーお兄さんサインして」
そう言って望むは走って行った。
「僕のこと覚えてくれている小さな子がいたんでんなー、うれしいわー」島はうれしそうにサインを書いている。
その後望はしっかりと握手もしてもらっているようだ。
「しましまはテレビのお仕事、あと1年がんばれれば復活できるよ、でもね、気象予報師見習いのお仕事もしっかりしないとだめだよ」
「ホンマかいなラッキーやな」
「あとね、その偽関西弁はやめたほうが良いよ」
島島のキャラでもう一つ忘れていけないのが誰の目にも明らかなエセ関西弁である、最初はインパクトがあったが、あまりにもワザとらしかったので、あっという間に飽きられ、消えていった原因の一つとも思われる。
「これはうちのキャラクターやね、残念やけどなおらんわ」
さっきまでの勢いは無く、少しがっかりしたような口調になっていた。
「しましま、ファイト」
そう言って望は帰ってきた。
「あのね、しましまはこれから苦労するけどきっとねテレビに復帰できると思うの、それとね、今日もこれからいろいろと大変なことが起こるの、その時にね、あお君助けてあげてね」
助けてあげてといわれても俺に何ができるんだ、そう思っていると、島島さんの辺りで声がする。
「ランゲルハンスさんでしたっけ、あんな子供の言う事なんか信じてはいけませんよ」
どうやら声の主は雲渡だ、
「私もね、あの子に今回の試験で落ちると言われているんですよ、予報師になれれば帝國大学の推薦合格がもらえるというに、あなたもそう思いませんか」
「何言うとるんでっか、予報師になると全国ネットのテレビ番組でしかもゴールデンタイムのレギュラー確保やないでっか」
「ちょっとまって、俺の見たサイトでは報酬百万円以上だったぞ」
あわてて俺もこの会話に参加してしまった。
「サイトですか?私のところにはメールが届きましたけど」
「ワテのところには電話やったけど」
驚いたことに3人とも今回の情報入所経路が違っている、しかも予報師になった後の報酬についてもバラバラだ、それに全員が今欲しいものが報酬になっている。
そんな偶然があるわけが無い、ということは今回の参加者は最初から選ばれていたのか…益々不思議だ。
「そういえば望ちゃんの報酬は何?」
つい気になって聞いてしまった。
「私のは、ヒ・ミ・ツ、でもね、予報師協会の人が直接言いに来たよ『この新幹線に乗るように』ってね」
「えっ、怪しいと思わなかったの」
いきなりそんなことを言われて疑わなかったと思いつい聞いてしまった。
「うん、大丈夫、言っていることにウソは無かったから」
「やはりお子様ですね、人の話を疑わず信じるなんて」
雲渡が口を挟んできた。
「大丈夫だよ、ウソを言ってるとね、分かるから」
「そんなことが分かれば苦労しませんよ」
そう言うと雲渡はニヤッとしたいやみな笑い顔をして、自分の席へ戻っていった。
「ま、気にせんとき、お譲ちゃんの言うとる通りやったら、1年後華々しくテレビに復活や」
島島は少しうれしそうに席についていた、そして俺たちも自分の元いた席へ戻ることにした。
「聞いてもだめと思うけど望ちゃんウソが分かるコツがあるの」
さっきも『そのうち分かるよ』とはぐらかされていたので、これについてもきっと言ってくれないだろうと思ったが聞かずにはいられなかった。
「私ね、人の思っていることが少しだけ分かるの」
小さな声ではあったが望が答えてくれた。
「これを言うとね、みんな逃げていくの」
「俺は気にしないぞ、俺はウソは嫌いだ、だから読まれて困ることも無いしな、それが原因で友達がいないなら俺が友達になってやる」
そう言い終って望の方を見ると気のせいか少し泣いているような気がした。