4月6日 曇り 2
「次は福山ですか」
ぽつりとあの眼鏡の男が呟いた。
「暗いのに良く分かるな、さすが」
「そこに駅の看板が見えるじゃないですか」
確かにぼんやりではあるがホームに駅名のプレートが見える。
そしてこの客車に乗り込もうとしている人影も。そして乗り込んできたのは・・・。
「おっはよー」
そんな明るい声とともに全身白色のロリータファッションでコーディネートされた、見た目は小学生か中学生くらいの女の子だ。
「なんだー暗いな、挨拶したら挨拶してよ」
「おっ、おはよう」
俺は慌ててあいさつを返した。
「またうるさいのが乗ってきましたね、おはよう、これで良いですか」
あの眼鏡の男も挨拶を返した。
「私、 風色 望 18歳です、のぞむちゃんって呼んでね、ねえ君たちは?」
「えっ年上」
つい心の声が漏れてしまった。
「失礼ですぅ、人を見かけだけで判断するのは良くないことですぅ」
「ごめんごめん、俺は 空賀 藍 15歳、風色さんよろしくな」
そう挨拶をすると、
「のぞむちゃんて呼んでってお願いしたのに」
風色さんは少し怒ったように言ってきた。
「ごめん、これからは望ちゃんって呼ぶからよろしくな」
俺って今日は謝ってばっかりだな、と思っていると風色さんがにっこり微笑んで握手をしてきた。
「よろしくね・・あっ、あなたきっと予報師になれるよ」
予報師になれるというのはお世辞にもうれしいものだ、さっきまで試験があるかもしれないと不安になっていたが、この子の言葉には何か安心させてくれる力があるようだ。
「それとね、できたらね、私のことはね、これからは風色さんじゃなくってのぞむちゃんって思ってね」
「えっ、どうして分かったの」
「まだ秘密です、でもよろしくね」
満面の笑みを浮かべている望ちゃんにこれ以上聞いても無駄だろう、これからは望ちゃんと呼ぼうとしっかり心に刻むことにした。
そう思っていると安心したように今度はあの眼鏡の男の所に走っていった。
「それではそちらのお兄様のお名前は?」
「雲渡 龍一郎だ、これで良いかな」
すると同じく握手をしていた。
「あっ、残念です、あなたこのままでは二次試験で落ちますよ」
そう望ちゃんが言い終わると同時に、雲渡は烈火のごとく真っ赤になって
「失礼な子ですね、僕はですね試験、テストなどで落ちたことはないんですよ、今回も気象関係の本はほぼ全部頭入っていいます、それにですね、気象予報士の資格だったらすでに持っているんですよ、これで何が不足してるというんですか、お子様は早く家に帰って寝てなさい」
そうまくし立てた後、どっしりと腰を下ろしてあの分厚い本を読み出した。
「望ちゃんだめだよ、あんな事言っちゃ怒られるでしょ」
つい、相手が年上ということも忘れてつい言ってしまったが、それに関しては言われなれているのか、別に気にした様子は無いようだ。
それにしても見るからに勉強ができそうな雲渡には落ちると言ったり、見るからにできそうに無い俺には(事実なので自覚しています)予報師になれるよと言ったり、雰囲気もそうだが不思議な子だな。
「ねえ、何で俺が予報師になれると思うの」
そう聞いて見るとまたにっこり微笑んで
「あなたいい人だけど、まだ秘密だよ、でも、そのうち分かると思うよ」
そしてそのまま俺の横の席に座っている、どうやら気に入られたようだ。
しかし、どう見ても無邪気なお子様にしか見えないが、さっき確かに18歳と言っていたよな・・そう思い思い切って聞いて見た。
「望ちゃんは今高校生?」
「ううん、この春卒業して今は女子大生、びっくりした?」
確かに見た目とのギャップすごい、そのまま小学生と偽って子供料金で電車にも乗れると思う、あと、衣装も独特だ。
「だって、小学生かと思ったよ、それにその服はお出かけ用?」
「人を見かけで判断しちゃだめよ、それとね・・この服はね特別な時専用、今日は必要になるってママが言ってくれたの」
さて、そんな話をしているとまた新幹線が減速して、どこかの駅へと入っていった。