3月6日 晴れ ③
その後の記憶は無いが、何とか家までたどり着いた時、親父が仁王立ちで玄関に立っているのが外からでも分かるような殺気を感じてしまう。
「ただいま・・・」
確かに外から殺気を感じたしたのだが玄関を開けた所には誰もいなかった。
「おっかしいな全身に何か冷たい物を感じたんだが・・・」
そんな時、奥のほうから声がする。
「やっと帰ったか話がある、ちょとこっちに来い」
短い言葉だがその一文字一文字に体に突き刺さるようなパワーを感じてしまう。
もちろん鬼のオーラが漏れなく付いてきているということを付け加えておこう。
その声に慌ててカバンなども持ったまま親父の書斎に恐る恐る入っていった、そこには見覚えのある屈強な男が座っている。
もちろんその男こそ俺の親父 空賀 快晴だ。
考古学者として何冊かの本も出しているがそれはあくまで表向きで、裏ではトレージャーハンターをやっている。
大きな荷物を持って出かけたら大体半年に数日、いや殆んど家に帰ることは無く、たまに帰って来ると見たことの無い物や見るからに怪しい物が増えていくし、現にこの部屋の半分以上はそんな物で埋め尽くされている。
どこから収入を得てるのかは分からないが、毎月しっかりと生活費などは入金されてるからそれなりに成果を上げているのだろう。
それにしても今朝はまだ帰ってはなかったので今回は半年ぶりに帰ってすぐにあの電話を掛けてきたんだろうか。
もう一つ親父のことで忘れてならないのが、普段は温厚で優しいのだが約束を破ると烈火のごとく怒り誰も手をつけることが出来なくなってしまうので、近所では『阿修羅王』とも呼ばれている。
だから今回も早く帰ろうと思っていたのだがついカラオケ店で一時間も経ってしまっていたのでこれからどんな恐ろしいことが起こるかと戦々恐々でいる。
ここは言い訳などせず素直に謝るのが一番だと思い素直に謝ることにした。
「遅れてすいませんでした」
それに対する親父の態度は意外なことに怒るわけではなく、今までに経験した事がないものだった。
「ワシが帰ったのが急だったからしゃあないな、これからは連絡をしたら早く帰れよ」
うそだ、うそだ、こんなにやさしいはずが無い、去年の秋帰った時は学祭の準備で一寸遅くなっただけでコッテリと搾られてその後一週間は食事もまともに喉を通らなかったのに、今回はどうしたんだ、ひょっとしてどこか調子が悪くトレージャーハンター引退の報告に帰って来たんじゃないよな。
「藍よ、お前に大事な話がある。そこに座りなさい」
やっぱりおかしい、今までだったら「そこに座れ」と言った後一発かましてそれで終わりがいつものパターンなのに・・・。
「親父、大事な話って何だよ、大変なことじゃないよな」
心配になり単刀直入に聞くことにした。
「ある意味大変なことだ、一度しか言わんぞ心して聞けよ」
やっぱり、体力の限界ならいいが、病気とかで引退なんて頼むから言わないでくれよ。
「藍よ実はな・・・そろそろ再婚をしようと思ってるんだ」
ああよかった病気じゃなかったんだ再婚か・・・。
「何だって!」
お袋は俺を生んですぐに亡くなってしまったらしい、だからお袋の姿は遺影の写真でしか見たことがない。
その後は親父一人で・・いや普段は家には居ないので、伯父さんや伯母さんに世話になってここまで成長できたみたいなものだ。
それが今になって再婚だなんて・・まあ今まで好き勝手にやってきたんだから今さら反対する理由もないか。
「その相手ってどんな人なんだ、写真か何かあるのか」
「相手か、実はな・・今日来てもらってるぞ」
「早っ、俺が反対しないと判ってただろ」
「まあ何だ・・・お前のことは良く分かってる」
本当かよ、年に数日しか家には居ないのに・・・でも今回反対しないだろうと言うことも分かってたし・・・伯父さんや伯母さんから情報を仕入れてるのか、でもそんな小まめな男には見えないんだかな。
「もう入ってもらっていいか」
「ちょっと待ってくれ、心の準備が・・・」
「お前らしくもないここはドンと構えんか、琴音 入ってきて良いぞ」
親父のその一言で俺の後ろの戸が開き誰かが入ってきた気配がする。
慌てて振り向くとそこにいたのはさっき合格発表の時声をかけてきたあの女の子だ。
あの時の子だ、と言うことは親同士の再婚でゲームなどでよくある血の繋がらない兄妹と言う展開か、これはすごいラッキーだ。
「で、その結婚するお母様はどちらに居られますか」
緊張のためか使ったこともない敬語でいつもより丁寧に聞いてしまった。
「何言ってるんですか私が琴音です 天空時 琴音 ですよ」
うそだろ、確か合格発表で出会った時私も合格って言ってなかったか。だったら同い年じゃないか、それだったら・・・おいおい犯罪だろ。
「どうした藍、驚いたか美人だろ」
「いや、そこじゃなくって・・・」
「ひょっとして私と快晴ちゃんとの出会いでしょうか」
この子は親父の事を快晴ちゃんと呼んでいるが今まで誰一人そんな名で呼んだ奴はいないぞ、もしそんな事を俺が言ったとしたら・・・考えないでおこう。
「なんだ、そんなことが気になるのか小さい奴じゃな、話してやるかいいか琴音」
「はい、よろしいですよ」
そこじゃないんだけどって言いたいがもう何を言っても聞いてくれないだろう、ここはおとなしく聞くことにした。




