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4月5日 晴れ 2

 今の時間は10時前だ、となると朝食を求めに来たお客により店内が込み合っているからという理由で門前払いと言う事も無いだろう。

 となるとやることは決まっている、とりあえず行ってみるか。


「すいません、表の『急募』の広告を見てきたんですけど」

 レジの奥から出てきたのは人のよさそうな中年のおじさんだ。

「ああ、バイト募集ね、残念、実はさっき、きまっちゃったんだよ、ごめんね」

「そんなー」

 自慢じゃないが運は良い方だか、今回は悪かったようだ、でも前にコンビニを首になったのは自分の性格「うそがつけない」というのが災いしている。


 そう、あの時もメーカーの人が来て新商品の説明をしている時に、お客さんがそのメーカーの別の商品を選ぼうとした時、俺自身が前にそれを食べた事があったのでつい、「それ、おいしくないですよ」と言ってしまったからだ。

 きっと今回も同じようなミスをしてしまうかもしれない、そう考えれば良かったということにしよう。


 残念と思いながらコンビニを出たところで向こうからぶつかりそうな勢いで走ってくる女の子が見える。

 いや、これは間違いなくぶつかる、そう思った時には既に手遅れ、どうなったかは想像にお任せしよう。

「いったーい、何で避けないの」

「えっ、えー俺が悪いのか」

「そうよ、私の前に障害物は必要ないの、わかった?」


 強引な子だなと思っていると、お尻につた汚れを掃いながら立ち上がり、おもむろに口を開いた。

「ところで、あなた、空賀君ですか?」

「はい、そうですが」

 えっ、なんで俺の名前をしているんだ、こんな子今まで会ったこともないし、見たことも無いぞ、ひょっとして恋愛ゲームなどの良くある記憶の片隅にある幼馴染か?


 こんな時の対処法はどうだったけ、確かゲームでは正体を探るでよかったよな。

「あのー、どちらさまでしたけ?」

「いやだなー、忘れちゃったの」

「すいません、本当になんにも覚えてなくって」

「えー、朝しゃべったばかりじゃん」

「朝?」

「そう、朝」

 朝にしゃべった?起きてここに来るまでに誰とも出会ってないぞ、しゃべったといえばあの気象予報師の質問だけ。


「ひょっとしてあの電話の人ですか」

「やっと思い出してくれた、そうです。気象予報師協会の 如月きさらぎ 菜津希なつき です」

 そんなバカな、あの電話からまだ2時間も経っていないぞ。

 それにあの時は名前も、住所も言った記憶もないし、どうやって調べたんだ。

「一体どうやって…」

 まだ質問の途中で間髪入れずに

「企業秘密です」

 この答え方はきっと同じ質問を何度もされているんだろう、迷いが無い。

 これは聞いても無駄だなっと悟ってこの件については質問をやめようと思った。

「ところで、何の用です如月さん」

 そう言うと、卯月さんは驚いたように

「意外としつこくないんですね、普通、何回か聞き返したりしてくるのに」

「物分りはいいほうでね」

 少しむっとして意地悪に言ってみたのだが、全く気にする様子も無く、続けて言ってきた。


「それでは手短に、えっとーあなたは気象予報師の電話面接に合格しました、つきましては本部での二次試験に進む権利を得ました」

 うそだろ、あれだけで決まるのか。

「ん、二次?」

「はい、二次試験です」

「まだ採用が決まったわけではないんだ」

「当たり前じゃないですか、予報師は厳しい仕事ですよ、あなたみたいな人が簡単になれるわけないですじゃないですか」

 そう言うと如月と名乗った娘は大きめの封筒を取り出して

「詳しくはこちらの中に書いてるので遅れないように来てくださいね」

 と言いながらその封筒を押しつけて来た。


「そういえば本部って言ったけど、それはどこにあるんだ」

「決まってるじゃないですか、本部は全国を管轄してるんですよ、もちろん東京ですよ」

 やっぱりそうか、困ったぞ、引っ越したばかりで旅費なんかあるわけが無い、生活費を稼ごうと思って苦手なコンビニのバイトをしようと思ってたぐらいだ。一ヶ月ぐらい余裕があれば歩いて行く、もしくはヒッチハイクで…よし、何とかなるかな。


「ところで二次試験はいつなんだ」

「明日です」

「あっ、あしたー」

「はい」

「急に言われても、何の準備もできてないよ」

「だからこの中に詳しく書いてありますって」

 さっきは取り損なった封筒を今度は無理やりにこちらの手の中に押し込んできた。

「じゃあ明日待ってるね」

 そう言うと来た時のようにまた一直線に走り出して行ってしまった。

 そして残されたのは俺と封筒のみ、さあ一体どうしようかと立ちすくんでいると間の悪いことにさっきのコンビニの店長が出てきた。

「なにか大変そうだねー、でも・・できたらお店の入り口で話し込まないでね」

 そう、店から出た所でぶつかったのでついそのまま話していたのだ。

「すっ、すいません」

 俺も慌てて家まで一直線に走り出した。


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