2次試験通過者 雹島 恭介(ランゲルハンス島島)②
「隼人!今までなぜ起きなかったの!」
夢乃さんは怒りに震えた声で今にも殴りそうなのを我慢しているようだ、その証拠に大きな音と共に右の壁に大きな穴が開いてしまった。
その様子を見た隼人君はさらに小さくなったようだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、気絶していれば二発目は無いと思って、そしたら起きるタイミングが無かったんだ」
「そしたら、ワテのギャグのとき大笑いして起きたらよろしいでっしゃろ」
「なんの話し?僕は起きていたけど隼人兄ちゃんが動くなって言ってたから寝たふりしてたんだよ」
「おはよう渉君、後で隼人にはお仕置きしましょうね」
夢乃さんは笑顔で言っているが雷音君にはその背後に夜叉が見えてるかもしれない。
「では私もかおりに体を返しますね、皆さん後のフォローをお願いします」
夢乃さんは一瞬寝たかと思うとキョトンとした表情のかおりさんになっている。
「みなさ~ん、おはようございます~」
「お二人さんお揃いでっか、ほな早ようお願いします」
「そんなこと言われてもですね~、私たちそんなことしたことありませんよ~」
「そんなバカな、お前らの後ろに憑いているその神々しいのは間違いなく魔物退治が出来るはずだ」
雷音君は慌てたように二人の所へ行っている。
「僕たちの後ろにそんなのがいるの、怖いな」
渉君は驚いたように回りをキョロキョロと見回しているが、どうやらその神々しいものというのは見えては無いようだ、もちろん俺にも見えてはいない。
「だめでっか、ワテには何が憑いとるんでっか」
雹島はがっかりしたように雷音君に尋ねている。
「おっさんに憑いてるのはそうだな、一般的に言われている名前だと死神かな」
「しっ、死神でっか、そりゃ困る、早ようなんとかしてえな」
「だから俺は出来ないって言ってるだ、まあ今まで生活できたんだ、聞かなかったと思ってあきらめてくれ」
「そんなアホな、もう聞いてしもうたわ」
雹島のガッカリ度はここに来る時の新幹線の中で、望ちゃんに大阪弁をやめたほうが良いよと言われた時の比ではないみたいだ。
そんな時、今まで黙っていた首相が立ち上がりおもむろにスポーツバックを取り出した。
「おい、霧咲兄妹、お前らの婆さんから預かってる物があるぞ」
そう言うとそのスポーツバッグを二人の前に差し出している。
それを二人は恐る恐る受け取り、皆が注目する中ゆっくりと開けようとした、その瞬間。
「おうそうだ、開ける前に一つ聞いてくれと頼まれていたんだった、いいか、これを開けるとあちらの世界を見てしまうらしいぞ、だからもう普通の生活は出来なくなるぞという事だ、いいかそれを決めるのはお前らだ」
そう首相言われて二人は一瞬躊躇したが、目配せをした後に。
「ちょっと前にお婆ちゃんに中学生になったらお話がありますって言われたことがあったんだ、きっとこの事だったんだね」
「あの時にお姉ちゃんに助けられてから私は決めてたよ~」
「そうなんだ、隼人兄ちゃん何にも言ってくれなかったよ」
「じゃあ開けるよ」
そう言って二人は恐る恐るバックのファスナーを開け始めた瞬間急に。
「ドン!」
という声が聞こえ 皆が一斉に伏せたが何の変化も無い「おや?」と思っていると後ろ方から。
「ビックリしたか」
という声と笑い声が聞こえてきた。
声の主は…御神渡首相だ、迷惑なことをすると思ったが、そんなことはお構いなく霧咲兄弟の方に振り向くと一言、
「そんなにビクつかなくてもお前らの婆さんだろうが、さっさと開けんか」
そう一括され、二人は慌ててバックを空けると中に入っていたのは二人分の白無垢の着物と鈴ならびに一振りの太刀が入っていた。
「これ、どうやって使うの」
渉君は首相の方を見ているが、少し笑いながら入り口の方に向かって。
「すまんが、ハナさんそんな所にいないで使い方を教えてやったらどうだ」
そこに入ってきたのは一人のお婆さんではなく、少しお年を召した着物を着た品のいい奥様といった感じの女性だ。
だが、さっきの話では90歳と言っていなかったか。
「ハナさんいつ見てもお若いですな」
そういったのは天空時氏だ。
「天空時さん、そんなにほめても何にもでませんよ」
そのしゃべり方も年齢を一切感じさせない、むしろ天空時氏の方がよっぽど年上にも感じてしまう。
「かおりさん、渉さん、帰ったら厳しい修行が待ってますよ、覚悟しておいてくださいね、そうそう、隼人さん、夢乃さんあなた達も一緒ですよ」
二人とも少し怯えたようにも見えるが、二人の上の兄妹も修行を行っていたのだろう、どんな修行をするのか分かっているのかもしれない。
ひょっとしたら今おびえているのは夢乃、隼人兄妹の方かもしれないな。




