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2次試験通過者 雹島 恭介(ランゲルハンス島島)①

「兵庫県出身 雹島ひょうじま 恭介きょうすけ28歳」

「あっ、ワテでんな」

 そういって動き出したのは島島だ。

「皆はん、ワテの本名は黙っといてな、絶対でっせ」

 よっぽど本名を知られるのが嫌なのか、念には念を押している。


 その時流氷さんが驚いたような表情になり、

「雹島さんってまさかとは思うけどあの雹島グループの?」と叫んでいる。

 雹島グループといえば金融、流通、製造などあらゆる分野でトップを走る日本を代表する大企業である。


「だから嫌やねん、この名前言うたら間違いのうバレるんや、親の権力から逃げとうてお笑いの道に行ったのに」

「でも、それだけの大企業なら、就職すると将来安泰じゃないか、うらやましいな」

 俺はつい本音を言ってしまった。

「バカ言ったらあかん、確かに大学を卒業してすぐに就職したで、でもな、あの親の息子言うだけで何もさせてもらえん。『お坊ちゃまはそこに座っていて下さい』言うて皆腫れ物を触るような扱いや、耐えれんで」


「それで逃げたのですか」

 夢乃さんが意外にも冷たい言葉をかけている。

「逃げたんや無い、辞めてやったんや」

「同じ事でしょ、やっぱり逃げたんじゃない」

「どうしたんでっか、やけに絡みますな、ワテが辞めようが関係あらへんでしゃろ」

「私、どんな事でも途中で投げ出す人は大嫌いなの、ほんのちょっと1%以下しか可能性が無くても一度決めたら最後までやり抜いてよ」

 その場が一触即発の雰囲気になってしまってい、皆が黙ってしまって話が進むような感じではなくなってしまった。


 そんな時に望ちゃんが俺の方に向き直し、

「あお君、この雰囲気何とかならないかな?おあ君なら何とかできるような気がするんだけどな」

「おいおい、そんな事出来るのかよ」

 俺は急にそんな無茶な事を振られて慌てて返事をした。

「大丈夫、大丈夫、何とかなるって…」

「そんな無責任な」

 望ちゃんが笑顔で何とかなるよ、というような目でこちらを見ているので、足は重いが渋々俺は二人の間に立つことにした。

「二人とも、そろそろその辺でやめようよ」

 恐る恐る二人に言ってみた。


「ワテはいつ止めてもいいんやが、こちらのお嬢さんがな」

「夢乃さんもそれくらいで」

「私もやめたいんですけど雹島さんを見るとなぜか言わずにはいられないんです」

「そうなんだ、ひょっとして雹島さんから変な臭いみたいなのが出てないよな」

 失礼とは思いつつも可能性の一つとして提案してみるが、まさか雹島さんからその若さで加齢臭が・・ではないが、天敵を威嚇するためのフェロモンが出ている可能性も捨てがたい。


「そんなアホな毎日風呂には入っとります」

「兄ちゃん臭いってのは少し合ってるぜ、夢乃お前幽霊だろ、だったら雹島に憑いている奴との相性が悪いんだろ」

 そう言ったのは今まで黙っていた雷音君だ。

「憑いてる?」

「ああ、はっきりと見えるぜ、さっき言われただろ俺は見えるって、もちろん精霊だけでなく霊の類もな」

 俺の質問にも簡単に答えている。


「それじゃあ、祓ったりとかは」

「だから、見るだけだって言ってるだろ、でもな、この中で出来るのがいるけどな」

 そう言って見ている方向にいるのは夢乃さんだ。

「夢乃さんが?」

「夢乃は幽霊だろ、出来るのはかおりの方だ。正確に言うとかおりと渉が二人揃ったらだけれどな」

 それならばすぐにと思ったが今渉君はというか隼人君はさっき夢乃さんにKOされているんだった。


「渉君、無事か」

『返事が無い、ただの屍のようだ』そんな冗談を言っている場合ではない、何とか起きてもらえるとうれしいんだが。

「ここはワテに任しとき」

 そう言って雹島さんは渉君のそばに座って耳元で呟いている。

「渉はん、朝でっせ起きなはれ、浅い…眠りやおまへんか」

 今のはギャグのつもりか、それともマジか微妙なところだ、というかこれが島島の芸風でもあるが、こんな時にそれはと思っていると。

「ウケへんかった、残念や」

 きっとここで突っこんだほうがいいのだろうが、暗黙の了解か皆無視している。


「皆さん、私が見ましょうか」

 そう言ったのは流氷さんだ。

「お前たしか薬剤師だろ、こんな状態の事もわかるのかよ」

 そう言っているのは雷音君だ。

「さっき言われたとおり、私は患部を見るとどうすればいいかわかちゃうんですよ」

 そうか、だったら任せても大丈夫だな、でもこの状態で一体どうやって起こすのだろう。


「あら、この状態なら簡単に起こせますけど、もうやっていいですか」

 流氷さんは持っているカバンの中から何かを探している。

「あっありました」

 そう言って取り出したのは薬ではなくメスなどが入った簡易オペセットだ。

「先ほど当たり所が悪かったのかもしれません、その部分を切り出せばあっという間に起きますよ、気絶しているんだから麻酔は要りませんよね、隼人さん」

 少し笑顔で隼人君の方を見ている、その時隼人君がほんのわずかだが動いたような気がした。

「流氷さん、もう少し痛めにやってあげてください、早くしないとまた雹島さんと喧嘩をしそうです」

 何かに気が付いたようで夢乃さんは少し意地悪く言っている。

「早くやっちまおうぜ、悪かったな流氷さん、あんた流石だぜ」

 雷音君は感心しながら謝っている。

「では、オペを開始します。皆さんよろしいですね」

「そんな所じゃオペはやりにくいだろ、任せておけ」

 そう言うと雷音君は隼人の体を軽々と持ち上げ近くのテーブルの上に乱暴に放り投げた。


 その途端「うっ」などという声が隼人君から漏れてているが、皆笑いをこらえ、これから起こることを楽しみに待っている。

 そして流氷さんのメスが隼人君の腹に触れた瞬間。

「ごめんなさい、すぐに起きます、いや、起きてます」

 隼人君は飛び起きた拍子にテーブルから転げ落ちながら謝り震えている。


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