~日常~
南半球の海の真ん中に位置する国――リボルガルド
形はどこか日本に似ているが、二周りほど大きく、人口も二億七〇〇〇万人と日本より多い。
三〇〇年前までは、リボルガルドの面積は一五〇万キロ平方メートルであり、人口はたったの四〇〇万人であった。
なぜ国土面積が広がり、たった三〇〇年の期間で人口が急激に増えたのか……。
様々な理由があるが、一番は魔科学の発展である。
魔科学というのは魔術と科学が合わさった技術のことであり、今ではリボルガルドの人間は世界中で活躍している。
魔術に関してはリボルガルドで産まれた人間でしか使えないわけだが、それも全員が使えるわけではない。
おそらく全人口の三割くらいだろう。
その中でも最も珍しい力を持つ少年の話をしよう。
――イース地区アルタ
アルタはリボルガルドの中で一番人が集まる、いわゆる大都会だ。ちなみにこの国の首都でもある。
大都会ということもあってか、外は辺り一面通勤者で埋まっている。とは言っても仕事場の集まる町の中心部だけなのだが。
大都会から大きく外れたとあるマンションの一室。
忙しい通勤者とは裏腹に、布団の中でぐっすり睡眠を営んでいる者がいる。
時刻は午前七時二九分。
しばらくして部屋にあったデジタル時計が三〇分に変わった瞬間、アラームらしき音は流れなかったというのに、布団の中から一人の少年がむくりと起き上がった。そして何もない手元で何かを操作する仕草を見せた後、背伸びをしながら大きなあくびをする。
少年の名はリューイ・ビクトリア・レイ。
少し幼い顔立ちで人が良さそうな雰囲気である。
リューイは布団から出て、自室を後にするとキッチンへと向かう。そこにあった電子レンジのような機械を開けると、目玉焼きが入っていた。この機械は世界で主流になっており、ご飯を作ってくれるのである。無論、簡単なものしか作れないのだが。
・・・・・・
電源が入ったMH――マジック ヒーティングの略称――の上には味噌汁の入った鍋からおたまで食器に移す。ご飯も同様に、炊飯器から食器に移す。
それらを食卓へと運び、朝ごはんとなる。
リューイは味噌汁を一口飲んだあと、またもや何もない手元で何かを操作するような仕草を見せた。
――Intracerebral Virtual Computer
略してIVC。
文字のとおり、脳内仮想コンピュータである。他の物に例えると、世界に流通しているスマートフォンに当たるだろう。
リボルガルドでは、赤ん坊として産まれた直後に魔術を施して脳内に特殊なチップを埋め込む。そのチップこそがIVCを動かすのに必要不可欠なものである。
チップは人間の感覚に支障のない程度に干渉し、自分にしか見えないウィンドウを起動させることができる。
今リューイが何かを操作しているのもIVCを起動させているからなのだ。
ちなみに起床のアラームはIVCからリューイだけに知らせられるようになっており、なぜか電源が入っていたMHもそれによって遠隔操作が行われたからである。
しばらくしてご飯が食べ終わり、歯を磨いたり着替えたり、学校に向かう準備を始めたりと何一つ変わりない朝を過ごす。
「忘れ物はっと……ないかな」
リューイは忘れ物の確認を済ますと靴に履き替え、
「行ってきます」
と学園へと向かった。
リューイの通う学園は都市部から少し離れた坂の上にある。彼の住むマンションもその近辺にあり、徒歩で二〇分で通える距離だ。
今は学園に向かう途中の緩やかな坂を上っている最中である。周りはリューイと同じ制服で身を包んだ生徒が数人歩いていたり、自転車で追い越したりといつもと変わりのない風景だ。
「よう、リューイ」
「おはようー、亮介」
後ろから掛けられた声にリューイは挨拶を返した。
隣には、自転車から降りた男子生徒が共に歩いていた。
彼の名は神崎 亮介。
知性的なメガネを掛けており、その奥に潜む瞳は鋭い。賢いように見えるが、少し制服を着崩しており、おしゃれに気遣っている部分もある。
そしてリューイと同じ学園に通い、同じクラスでもあるのだ。
「くっ……ふぁー……」
亮介はあくびを噛み殺せず、そのまま盛大に大口を開ける。
「どうしたの? 徹夜でもした?」
「あぁ、オークションで竸っててな」
亮介が徹夜するときは大体勉強なのだが、理由が理由なだけにめずらしい。
「へー、何が欲しかったの?」
「フッフッフッ」
亮介は、よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりにメガネを中指で押し上げる。
「聞いて驚けェ!! 見て笑えェ!!」
周りの生徒を気にせずそう高らかに叫ぶと、IVCを操作してリューイの方へスライドさせる仕草を見せる。
するとリューイの視界には、一件のメッセージが届いたと知らせるアラームが鳴った。
リューイは視界に表示されるメールアイコンをタッチする。すると読み込み中を知らせるゲージが表示され、右端まで溜まったとき、亮介から送られてきたメールが表示される。
「――ッ!? だ、ダメだよこんなの!?」
リューイはメール内容を見た瞬間顔を赤くし、思わず大声でそう叫んでしまう。もちろん周りの生徒はリューイの方へ向く。が、それも一瞬ですぐに目の前の坂を忙しく上っていくのであった。
「どうしたリューイ。そこまで驚くものでもないだろ」
亮介は笑いながらそうなだめる。
「で、でも、水着の写真集なんて……」
そう、リューイが亮介から受け取ったもの――それは水着の写真集であった。とは言ってもオークションに張り出されていた表紙だけなのだが。
たかが水着の写真でそこまで驚くものなのか。リューイにはこういった耐性がないことがうかがえる。
ここまでの話で感づいたとは思うが、亮介はれっきとした変態である。
「お前はわかっていない。水着の良さを!!」
リューイは、語り始める亮介を尻目に先ほどの画像を削除する。
「――スクール水着、略してスク水には白と紺があってだな。その中でも紺に名前入りというものが――」
亮介がこうなってしまうとなかなか歯止めが効かない。友人の長話と長い坂道に思わずリューイは溜息を付いてしまう。
こうして学校に着くまで延々と水着の話を聞かされるのであった。




