大きな蕪
おじいさんが畑に、蕪の種を撒きました。
「あまくて、でっかいかぶになあれ」
傍を通った鼠は思いました。
(人間はなんて強欲なんだ。今でも十分腹を満たす分だけの食い扶持もあるのに。その上でっかくて甘い蕪が食べたいだって? 羨ましい願い事だね。出来た所で、俺らにゃひとっ欠片だって分けやしないのさ)
蕪は、芽を出し、葉っぱを伸ばし、でっかい蕪になりました。家の陰に隠れて見ていた鼠は思いました。
(ほら見ろ。あんまりに合成肥料だの何だの余計なものを入れるから、自分たちじゃどうにもならない大きさになっちまった)
おじいさんが、蕪を取りに来ました。
「うんとこしょ、どっこいしょ」
いくら引っ張っても蕪は抜けません。家の陰に隠れて見ていた鼠は思いました。
(ぎっくり腰を庇っているとは言え、普通の蕪ならひょいひょい抜いていくじゃないか。かすめ取ろうとする俺等を叩きのめし、その上、抜けない蕪も独り占めか。いいご身分だな)
おじいさんはおばあさんを呼んで来ました。おじいさんは蕪をつかまえ、おばあさんがおじいさんをつかまえ、
「うんとこしょ、どっこいしょ」
まだまだ蕪は抜けません。隣の畑の間に隠れて見ていた鼠は思いました。
(じじいは、手伝いが来たからと思って手を抜いている。ばばあは、自分は単なる手伝いだと思って力を入れてない。本当に美しい協力関係だ)
おばあさんは孫娘を呼んで来ました。おじいさんは蕪をつかまえ、おばあさんがおじいさんをつかまえ、孫娘がおばあさんをつかまえ、
「うんとこしょ、どっこいしょ」
やっぱり蕪は抜けません。木の上から隠れて見ていた鼠は思いました。
(娘は、何で自分がやらなきゃならないのか分からん、といった顔つきだな。それに形だけで、完全に前の二人任せの体勢だ、あれは。他力本願の極み、これだから人間は)
孫娘は犬を呼んで来ました。おじいさんは蕪をつかまえ、おばあさんがおじいさんをつかまえ、孫娘がおばあさんをつかまえ、犬が孫娘をつかまえ、
「うんとこしょ、どっこいしょ」
それでも蕪は抜けません。藁の束に隠れて見ていた鼠は思いました。
(犬は馬鹿だ。娘のスカートの裾を引っ張ったところで、何の足しにもならないのに本気でやっている。スカートがドロドロになっているのを見て後で娘に叱られるのがオチだ。それを連れてくる娘も馬鹿だ)
犬は猫を呼んで来ました。おじいさんは蕪をつかまえ、おばあさんがおじいさんをつかまえ、孫娘がおばあさんをつかまえ、犬が孫娘をつかまえ、猫が犬をつかまえ、
「うんとこしょ、どっこいしょ」
全く蕪は抜けません。家の陰に隠れて見ていた鼠は思いました。
(猫も犬に同じだ。尻尾なんて引っ張ったところで、何の意味も無い。類が友を呼ぶと言うのは、こんな所でも発揮されるのか。お笑い草にもなりゃしない)
猫は呼ぶ人を探しに行きました。そこで鼠は名案を思いつきました。
(俺が出て行って協力してやりゃあ、おこぼれ位頂戴できるだろうか)
そこで迷っている猫の足元に駆けて行き、猫なで声でこう言いました。
「猫さん猫さん、僕も手伝うよ」
「何を言っているんだ、お前如きの力が何になるっていうんだよ」
「僕如きの力分すらこれぐらいの人数集まっているのに出せてない方がおかしいんだよ。でも僕が声を掛けたってことはそれを出せてないってことなんだよ」
全員から鼠への殺気が向けられます。それでも鼠は飄々と言いました。
「僕が加わっても抜けなかったら、僕をどうして貰っても構わない。でも僕が加わって抜けたら蕪の一割は頂戴するよ」
皆、今まで以上にはりきり出しました。おじいさんは蕪にくみつき、おばあさんはおじいさんにくみつき、孫娘はおばあさんにくみつき、犬は孫娘にくみつき、猫は犬にくみつき、鼠は猫の尻尾に触りました。皆今まで以上の本気で引っ張りました。鼠に馬鹿にされたと思っているのです。
「うんとこしょ、どっこいしょッ!」
やっと蕪は抜けました。
すごく短いです。部誌用に原稿を上げる時、〆切に追われて焦っていた記憶が、記憶がggっがgggっがっがggg
……後で、書きなおそう。
『柏葉二十四号』掲載作品