勇者、失格
四天王の最後の一人を倒し、あとは魔王を倒すだけ。
勇者の冒険は終わりを迎えようとしていた。
決戦の前に勇者は王様の居城を訪れることにした。これまでの戦いを報告し、記録をつけてもらうためである。
城の中はいつ見ても煌びやかで壮言だった。広い城内を歩き、長い階段を昇り、謁見の間で勇者は王様に対面した。
勇者が四天王との戦いを仔細に説明すると、王様は満足そうに頷いた。
「よくやった、勇者よ。お前の長かった旅もようやく終わるであろう。魔王は強い。しかしお前の持つ協力な魔法力と伝説の剣があれば恐れるに足らん。思えば魔王が出現してからの暗黒時代は――」
王様の話を聞きながらも、勇者は別のことを考えていた。
終ってしまう。この旅が。この冒険が。
魔物を倒してより強くなることで得られる高揚感。街を魔物の支配から解放するごとに人々から感謝される、あの何ともいえない満足感。
魔物の攻撃を紙一重でかわし、持てる限りの力で剣を叩きつけたとき。最大魔力で作り上げた火球を魔物の大群の真ん中で爆発させたとき。あの瞬間の爽快感といったら。今でも思い出すだけで体がゾクゾクする。
その日々が、終わる。
そう考えると、勇者の心にある感情が芽生えた。
虚無心、である。何もかもがどうでもよくなってしまったのだ。
「――かつての英雄王はこう言った。我が身が滅びようともこの国に新たな光をもたらすものが現れ――」
王様の話はまだ続いている。
勇者はふぅ、とため息をつくと手を王様に向かってかざした。
「燃えろ」
勇者がそう言うと手のひらから炎を凝縮したような球が飛び出し、王様に命中した。
炎はあっという間に王様の体を飲み込み、ギャッと悲鳴を上げる間もなく黒い消し炭と化してしまった。
王の側にいた兵士は一瞬愕然とした表情を作ったが、すぐに何か叫びながら勇者に飛び掛った。
勇者は目にも止まらぬ速さで剣を鞘から引き抜くと、鋼鉄で作られた兵士の鎧をやすやすと引き裂いて、兵士を倒してしまった。
次々と兵士が襲い掛かってきたが結果は同じだった。
兵士を切り裂きながら勇者は苦笑した。こんな力はもはや人間とは呼べない。化け物だ。魔王が倒されて平和になったらこの力は一体何に使えばいいと言うのだろう。
挑みかかってきた兵士を一通り倒し、一息ついて周りを見回すと、窓から逃げ出そうとしていた兵士と目が合った。
兵士はひぃっと小さな悲鳴を上げたが、勇者の目をまっすぐ見ながら言った。
「こ、このことは皇帝に報告するぞ! そうなればもはや世界がお前の敵!この世界で生きる限り心が休まることはないと思え!」
ひひひ、と引きつった笑い声を出しながら兵士は窓から落ちた。
城の階下からは人々の悲鳴、怒号、様々な声が聞こえる。
勇者は真っ赤な絨毯を歩きながら、バルコニーに出た。
空を見上げ、勇者は笑う。
世界が俺の敵になる。戦いは続き、物語は終わらない。何て素晴らしいことだろう。
喜びをかみ締めながら、勇者は歩き出した。




