ある午後の気持ち
勇気。元気。強さ。愛。恋……思い付くままに、綺麗な言葉をひとつひとつ選んで並べていたら、急に全部が面倒になって、一度にぶち壊してしまいたくなった。
みんな…どうでもいい、遠い遠い言葉…そんなのはきっと選ばれた少数の人だけが手にすることが出来るもの…僕になんか関係はないんだ。
歩く向きを変えた。それでも周りは代わり映えしない。どこも同じに見える。みんな同じ…いくらか暗くなってきただろうか、もうすぐ日がくれる。
右も左も代わり映えのしないただの住宅街。時々、いかにも手持ちぶさたな年寄りのふらふらとした歩みと擦れ違うだけ…そしてその度僕は嫌な気持ちになる。ここに物語なんか、あるはずもない。
どうしてこんな不快な所に入り込んでしまったのだろう。僕は今になってつくづく後悔させられた。
出来る限りはやくここを抜けよう…自然と歩調がはやくなって、歩く姿勢も段々前に傾いてくる。
今…僕は、
寂しい…虚しい…
そんなことなんて言ったってしょうがないんだ。わかってるけど、言わずにはいられない。あー虚しいぜ。
僕は無力なんだ。
なんだか涙がでて来そうになる。馬鹿みたいだ。なんにも泣く理由なんかないじゃないか。それに第一ここは住宅街。人の目に止まればきっと不審がられる。
だから、僕はいまにも溢れ落ちそうな涙を必死でこらえた。そして、かわりにちょうど擦れ違いざまに自動販売機を思い切り蹴りつけた。
自分に腹が立つ。
きっと泣くよりこっちの方が何倍も不審だ。おかしい…もうどうでもいい。
最初とは全く反対の言葉を僕は繰り返す。頭の中で何度も何度も反芻する…
虚しい…悲しい…弱い…
虚しい…悲しい…
気分がよくなった、とはとても言えない。でも、確かにこっちの言葉の方がしっくりくる気がする…
僕は今…流れている…
流れはいつでも下流へ向かう。下流にはきっと良いことなんて一つもない。でも、違う。そういう問題じゃないんだ。論理なんて煩わしいだけなんだ。もうこりごりなんだ。
僕はそれでもいい。
たとえずっとずっと下へ落ちていくことになったとしても僕はなにも言わない。きっとそれは必然の流れだから。しょうがない事なんだ。
擦れ違いざまに、誰かに肩をぶつけた。かすかな衝撃が僕を目の前の現実に引き戻した。
肩をぶつけられた男は不審げに僕をにらみつけた。途端に僕は激しい恥ずかしさに襲われて、その場から逃げた。僕の歩くあとにはまるでゴキブリの足音のようなカサカサとした音がついてまわるようだった。