第二話 厨二は程ほどに!
看板に偽りあり!
書いてみると、何だかちょっと予想とは裏腹な文になりました。
・・・どうしてこう計画性がないのだ、俺。
ちゅーにびょー。
この言葉が俺は生まれつき、いや母親の胎内にいた頃から大嫌いである。決して大げさでも誇大発言でもない。
それは何故か?ご存知のはず、俺の名前は崇月夜埋。
何て読むか理解るかな?
あがめづやまいだよー。ヤマイ・アガメヅですよ?
何ですかソレ。
月を崇めないて、夜に埋まってるって。
アレか、俺は闇の眷属で実は吸血鬼という太陽光で「うぎゃああああ」とかなる特殊設定をお持ちの痛すぎる人間なんですか!?
いや、確かにそう言うのは嫌いではない。むしろ俺は漫画や小説では悪役を必死に応援するような男だ。
だってカッコイイですもん。
大体にして、主人公とか嫌いだ。ぺっ、胸糞悪い唾を吐きたくなるね。
ピンチに陥ったら本領発揮とか、貴様は馬鹿か!何土壇場で進化してやがるんだよ主人公は勝つ正義は勝つ的展開なんかクソ喰らえなんだよバーカアーホドジマヌケっ。
・・・・スマン、興奮しすぎた。
とにかく、まあこれは才能を持たない一般人の妬みや僻みだと解釈してもらっても構わないが、そういうことなのである。
ヒーローとか嫌い。もし何らかの理由でヒーローショーに出ることになったら俺は迷わず雑魚Aを選ぶ。そしてキーキー叫びながら同じく雑魚共と戦隊の一人を囲むのだが、回転蹴りやら何やらで一撃で大地に沈むのである。
その回のボスである悪役が現れた際、こちらに注意を向けていないヒーローの足を掴んでその隙にボスが一撃でも入れてくれたらそれだけで大満足である。
ここまで言えば、俺がどれだけ主人公がきら、じゃなくて悪役が好きかが分かってくれただろう。
・・・おおと、いつの間にか話が脱線していた。
俺の好き嫌いはともかくとして、である。
とにかく俺はちゅーにびょーなるモノを患っている人間があまり好きではない。え?俺はどうなのかって?そんなもの決まっている。俺は断じてちゅーにびょーなるモノに感染してはいない。はず、だ。
違うっ。罹ってなんかない!
ただ全くの関わりを持っていない、といえば嘘になるだろう。何故なら俺の隣で当然のように俺に話しかけてくるクソッタレがそのちゅーにびょーの権化だからだ。
「――ろいろ考えてたんだけどね、こんなのどう?その名も『無人回廊』!!」
え、えんと・・・何?
とまあ、こんな調子で訳の分からんことを言っている輩である。
こいつの言語はきっと宇宙人並に難解であり、きっとこの解読を成し遂げたものは近い未来宇宙に人間が移動することになったら宇宙原住民との通訳として活躍するのだろうと推測できる。
「カッコよくない?キャラクターとしては、狂気系として。主人公にこう、頭おかしい感じで迫るの?んー殺人系キャラでいいか。ヤンデレとゆーかなんとゆーか」
早く学校に到着しないだろうか、と無意識のうちに(あくまで無意識だ)歩幅が大きく、速度は上昇するのだが、奴は気づいた様子も見えない。
ふっ、さすがに超能力者じみた勘を持つこの女でも、無意識には敵うまい。
俺のしょーり!そう思ったのだが・・・。
「なん、だと・・・」
「ん、どったの?」
せっかく気づかれずに足早になれたにもかかわらず、ああ神は何て残酷なのだろうか。目の前には信号という名の神の試練が立ちはだかっていた。
チッ、神死ね。
俺を邪魔する奴はいらん、即座に死ね。
「ああいや、信号がちょうど赤になったので思わず」
「あーそゆこと。ヤマイくん運悪いよね。ヤマイくんといるといっつも赤で止まる気がするし」
なっ、それは違う。断じて違う!
そもそも俺一人のときはこんなに運がよくていいのかと思うほどするすると町を歩けるのだ。俺が赤で止まるのはコイツといるときだけ。
決してコイツとできるだけ長く居たいからわざと赤信号につかまろうとしているとかいうわけではない!断じて!そこっ、ツンデレ言うなッ!!
違うからな、墓穴を掘っているわけでもないからな。勘違いするなよ!
そんなことを思っているのが顔に出ていたのか、
「私も一人のときは赤につかまったりしないから。ヤマイくんといるときだけよ」
それは・・・アレか。
そういうことなのか?なーんて反応しませんよ。
そんな反応したらどこの少女マンガだ!てすぐさま戻るボタンを連打する自信が俺にはあるね。
「へー」
大して興味もないので流す。
それにしても、いやに長い赤信号につかまったものだ。全く、本当に疫病神かコイツは。
「あ、そういえば信号で思い出したんだけどさ」
「へー」
そろそろ時間もヤバくなってきてないだろうか。信号が青になったら走ることにするか。長距離は苦手だが、ここから学校まではそう遠くもないことだし、コイツもさすがに俺の走りに追いつけたりはしないだろう。
「私が研究した結果、ていってもそこまで大したものでもないんだけどね」
「ほー」
いや、もしかするとコイツならできるやもしれん。なんてったって、コイツはあらゆる意味で規格外だ。体育のときはどうだったっけ。短距離走、早かったっけコイツ?
「ほら、ネットの小説とか読んでると、私と似たような願望の持ち主がいるじゃん」
「んー」
どうだったかな、コイツ。確かマラソンは異様な程得意だったような気がする。体育会でも女子の超長距離に出てたからなー。体力は異常なはずだ。
「で、そういうのでは大抵車とかトラックに轢かれそうな子供とか猫とかを庇ったらね」
「おー」
そもそも長距離が得意だとおのずと短距離も走れるようになるんだろうか?いや、しかし長距離選手と短距離選手じゃあ鍛え方とか違うだろうしな。
「神様がチートな能力をくれて、異世界に運んでくれるのよ」
「はー」
まあ大丈夫だろうきっと。俺は男子の中でも足が速い方だし、この女は短いスカートというハンデも負っている。まさか、いやまさかスカートを翻しながらパンツ丸出しで走ったりはしな、い、だろ。
「・・・ん、アレ?いいチャンスじゃない私」
「あー」
いやいや、まさか、な。この女にも少しくらいは恥じらいというものがあるだろう。別に俺はパンツ丸出しで追ってきてもいいのだが。だがそうなると、そこまでして追いかける俺に関しても何か噂がたったりしないだろうな?
「え、ヤマイくんもそう思う。そう、そうよね。こんなチャンスを逃すことはできないわよね」
「おー」
どうなのだろう。俺はそういう噂とかには疎い方だから、あんまり噂の広がり方とかどんなのが広がるとかいうのは知らんしな。ここは慎重に行くべきなのか。
「よし。―――柏木鈴音、ここに転生を宣言します!」
「ほー」
となると、ここはもういっそこのまま早歩きで行った方が安全なのだろうか
「てなわけで猫役よろしく!」
仕方がない。早歩きで行くとす――――とんっ。
「へっ?」
随分と考え事をしていたらしい。状況がいまいち把握できない。
どうなってんだ、と崩れた体勢を直しながら視線を走らせると、手をぱーの形にしている女がいた。
コイツが俺を押しやがったのか、と内心キレる。
が、そんな余裕はなくなった。
押されたということは、俺は前に出ているのである。そして俺は赤信号ということで止まっていた。
――――つまり、前は車道。
「ぬあっ!?」
見れば、大型のトラックがこちらに向かってまっしぐらではないか!
これは冗談ではない。
まだ間に合うだろうと咄嗟に戻ろうとして、俺は驚くものを見た。
「バカヤロッ」
何故だが知らんが手を伸ばしながらこちらに来ようとしているクソッタレを元の場所に突き飛ばす。一体何がしてェんだコイツ!!!
だが、その動作のおかげで俺自身の移動が遅れた様子。
スローモーションの如く、すぐ隣に大きなバケモノが俺を喰らおうとしているのを感じ取る。
チッ、こんな終わり方ってアリかよ!!!!!
目をこれでもかというくらい開いた女が、無様に転んだままこちらを呆然と見つめていた。
クソッタレ、コイツのためにまさか俺が死ぬことになるとはな。
あーあ、にしてもこんな終わり方。
自分でいうのもなんだけど、ヒーローっぽくてあんまり好きじゃねェな。
次の瞬間に備えて、俺はそっと目を閉じた。
瞼の裏には、クソッタレの姿があった。
***** ***** *****
思い返してみて、改めて思う。
――――やっぱ殺す。いやむしろ殺すだけじゃ足りん。一度殺してから俺に一生貢がせ、そして殺す。
そもそもアイツがあの土壇場でこっちに来なけりゃ、いやそもそもアイツが俺を押さなきゃ俺は死ぬことなんて無かっただろうに。
クソッタレ、奴は最期までクソッタレの疫病神でありやがった。
・・・まあいいか。今どんだけ考えても役には立たないだろうし、もし奴のところに帰れたらそのとき考えればいいだろう、復讐の仕方はな!!!
にしても、アイツが俺を殺したことになるんだろうか。この場合。
・・・・・・それは、何かアレだな。なんというか、ヤだな。俺直々に手を下すべきことであるのに勝手に罰を受けられるのは癪というか。
別に奴が可哀想というわけではない。むしろざまあみろではある。だが、俺はこうして現に生きているわけだし、それなのに奴が殺人とかで刑務所行きになるのは、な。
きっと、俺を殺す気はなかったのだろうし。
アイツはクソッタレで疫病神だが、悪い奴じゃあねェし。
事故で処理されてればいいが。いや、アイツ変なとこで正直で頑固だし、たとえ刑務所行きにならんくても自分で自分を罰しようとするのだろう。
・・・自殺だけは選ぶんじゃねェぞ、柏木鈴音。
思い浮かべるのは、最期に見た奴の顔。
呆然として、泣きそうだった。
だが、アイツは逃げたりするような弱い奴じゃ、ねー。だから、きっと大丈夫だろう。
自暴自棄にならなきゃいいがな。
そこまで考えて、俺は思考を放棄した。
いくら精神年齢が高校生の俺とはいえ、幼児になってしまったのだ。体の欲求に勝てるはずもない。いやそもそも、元の俺にも勝てない欲求はたくさんありましたけどね。
混濁していく意識に身を任せ、俺は眠りについた。
***** ***** *****
と、思ったのだが。
俺は今思いっきり目覚めている。うん、特に眠いという耐え難い欲求も襲ってこない。
どういうことだ?
果てがどこなのか分からない、上下左右の感覚を忘れてしまいそうな黒一色の空間で立ち尽くす。
そして、ふと違和感に気づく。
―――からだが、無い。
自身の視界に入ってくるはずの体が無い。いや、そもそも今の俺に視界なんてものが存在するのか?
体が霧のように小さな粒子となって、無数に散らばり空中に浮かんでいるような錯覚。
一体どういうことだ?訳が、わからない。
様々な疑問が、無い頭に渦巻く。
ここはどこだ。どうして体が。わからない。なぜ俺は。いやそもそも俺は。どういうことだ。わからない。眠くない。俺はここにいる?わからない。わからない。わからない。わからない。
コレは、夢か?
そう、呟いたそのとき。
向こう側に鏡のようなモノを幻視た。
それに誘われるように、存在しないはずの体を動かす。
奇妙な感覚だ。
今の俺には、目もなく耳もなく鼻もなく口もなく手もなく足もなく、体というものがないはずなのに、意識しなければ普段通りに活動できる。
けれど一度意識してしまえば、俺はただの霧。漂うだけになってしまう。
妙な気分になりながらも、鏡の前まで移動する。
鏡の中を覗き込むと、そこには幼児がぺたりと座り込んでいた。
ぷっくりとした頬が可愛らしく、生えかけの金属質な赤い髪に濃い青にも見える紫色の瞳はどこか見覚えがある色だ。
それを目撃した瞬間、漂う霧であったはずの俺に、凄まじい重力が圧し掛かった。
気がつけば、鏡の前に座り込んでいる。
辛い。
体があるというのは、こんなにも辛いことだったのかと実感する。
先程の霧のような状態と比べれば、コレは雁字搦めにされているに等しい。体によって、自由を阻害されている感覚。
ゆっくりと手を持ち上げると、そこにはぷっくりとした手があった。
鏡の中で、幼児が同じように動く。
――――コレが、俺か。
そのままじっと、可愛らしい赤ん坊を覗き込んでいると、ふと鏡が光った。
眩しさに一瞬目を閉じ、光がある程度おさまったところで恐る恐る目を開く。
すると、鏡に浮かぶ、見たことのあるソレ。
ソレは、俺がよくやるゲームのキャラクターメイク画面そっくりだった。
俺はちゅーにびょーです。
キャラの設定とか二つ名とか考えるの超絶好きです。お風呂ではそればっか考えてる。
そしてそればっかで小説が進まない(笑)
ええと。このままだとリンネちゃんが酷い子になってしまうので一応説明。
『俺の中では』リンネちゃんは冗談でヤマイの背中をとんっ!だがヤマイは考え事に没頭していて無防備だったので、予想外に体勢を崩す。
それを助けようと咄嗟に手を差し伸べようとするリンネちゃんだったが、ヤマイはリンネを車道の外に飛ばす。そしてそのままブラックアウト。
この件は事故として処理される、と信じたい!
まあ、俺の中では、なので。
もしかしたら本当にリンネちゃんは転生したくて今回のことをしでかしたのかもしれないのである。




