5話 人生にて|If I could do it again
もし、もう一度人生をやり直せるなら。
もし、この目で世界が見えていたら。
もし、この耳で風の音や人の声を感じられたら。
私は、そんな「もし」を何度も、何度も夢の中で思い描いた。
夢の中では、色と光と音があふれ、
手だけを頼りにしていた幼い自分が、まるで自由に世界を歩いている。
でも、目が見えなくても、耳が聞こえなくても、
私はここにいる。
私は私として、確かに生きている。
暗闇の中で、手探りで歩んできたこの人生は、
決して不幸だけではなかった。
手のひらに伝わるぬくもり。
触れ合うことでわかる笑い声や涙。
クロノの柔らかい毛の感触。
シシゾウの背の温もり。
母の指先の優しい震え。
すべてが、私の世界を形作ってきた。
私は、私として成長した。
自分のペースで学び、困難を乗り越えた。
世界を知る方法は、人それぞれでいいのだと学んだ。
そして、私として誰かを愛することができた。
触れること、感じること、それだけで心はつながれるのだと知った。
もし、「違う私」が存在したとしても、
暗闇の中で生きてきたこの私の経験は、
決して無駄にはならない。
過去の痛みも、孤独も、挫折も――
それはすべて、私がここに立つための足跡だった。
振り返ると、あの頃の私が笑っている。
小さな手のひらを広げ、触れる世界を確かめながら、
少しずつ、大きくなっていく。
あの手のひらが、今の私につながっている。
だから私は思う。
もしすべてをやり直せたとしても、
きっと私は、同じ道を選ぶだろう。
――間違いじゃなかった。
私の人生は、私だけのもの。
暗闇の中でも、光を見つけ、手を伸ばし続けた、
それが私だったのだ。




