第三話・大聖堂
『もしかしたら、なのじゃが⋯⋯お主らは自ら転生したのかもしれないのじゃ』
ようやく口を開いたドラゴンは、そんなことを口にした。自分でも半信半疑といったようだが、それでも伝えるということはこれが一番信憑性が高いと自分でも思っているのだろう。
「私たちが転生⋯⋯の前に、私たちが戦乙女だと言うのは本当なのですか?勘違いとかじゃ⋯⋯」
アリアがドラゴンの爬虫類によく似た瞳を見つめながらそう問いかけると、ドラゴンはうむ、と頷いた。
『そうじゃの。魂の輝きとでも言うようなものが、戦乙女たちは特徴的でのぅ。あそこまで特徴的だと転生しようがその特徴が変わることはないのじゃ』
魂の輝き。その言葉を聞いたアリアたちは揃って自分の胸のあたりを見た。別に魂が心臓にある訳では無いが、ただ何となくそのあたりに過去の記憶がある気がしたからだ。
「⋯⋯私が、戦乙女⋯⋯。あ、ドラゴンさん、戦乙女たちの名前は私たちと同じなのですか?過去の大火災で戦乙女の文献がほとんど失われてしまっていて、剣の姫、魔の姫、聖の姫──と言った風にしか伝わっていないんです」
数秒の後顔を上げたシルニアは、ドラゴンにそう問いかけた。その声を聞いたアリアも顔を上げてドラゴンをじっと見つめる。
『同じじゃな。お主たちの名前はアリアとシルニアじゃろ?性格も名前も昔と全く変わっておらんわい。⋯⋯ふむ、これ以上話していたら日が暮れてしまうな。お主らの用事を先に済ませるとととしようか。お主らの用事はなんじゃ?』
「あっ、ど、どうしようかしら⋯⋯夕暮れまでに遺跡にたどり着かないといけないのよね⋯⋯でもここから遺跡までは──」
アリアは背中に背負っていた鞄からこの森の地図を取り出し広げる。そこにはアリアたちが今いる場所と、遺跡のある場所がそれぞれ示されていた。
「そうね、歩いてあと6、7時間というところかしら。走れば何とかなるかもしれないけれど、それだとシルニアが持たないわね⋯⋯」
その様子を黙って聞いていたドラゴンが、突然アリアに話しかけた。
『わしの背中に乗って行くといいのじゃ。その様子を見る限り成人の儀じゃろう?それなら時間も場所もわかるしのぅ』
「え、良いのですか?」
その言葉に目を零れんばかりに開いたアリアたちは、ドラゴンにそう聞き返した。
『うむ、もちろんじゃ。そもそもお主らの用事を邪魔したのはわしの方なのじゃから、これくらいはさせてくれると嬉しいのぅ』
お言葉に甘えて、とドラゴンの背中に乗った2人は快適な空の旅を楽しんだ──訳ではなく、アリアはなんの仕切りもない高所ということで怯え、シルニアはあの古代竜に乗っているということで恐れていた。それはともかく、ドラゴンのおかげで2人は夕方になる前に遺跡に着くことが出来たのだった。
◆◆◆◆
「⋯⋯扉、しまってるわね。夕方になったら開くということかしら。待ってる間にご飯でも食べましょうか」
そういいながら鞄から携帯食を出すアリアに、シルニアは小さく頷いた。そして同様に鞄から干し肉と冷めたスープが入った水筒を取り出す。
「それがいいですね。お腹も空きましたし。⋯⋯それにしても良かったのでしょうか?帰りも送ってくれるとか⋯⋯」
「まあ、いいんじゃないかしら。本人──いえ、本竜?がそう言っているんだし。それにもうどっか行っちゃったからどうにもできないわよ」
そう言って空を仰ぎ見るアリア。視線の先には雲ひとつ無い空が晴れ渡っていた。だんだんと空がオレンジ色に変化していくのを眺めつつ、2人は今日の昼食兼夕食を食べ始める。
味は塩辛く、それ以上でもそれ以下でもないが、今まで出たことの無い外で食べる食事ということもありどこか特別感があった。とはいえ、アリアはヴァイドによって森での歩き方などを教えられた時に似たようなことを体験していて、外で食べるから、というよりシルニアと食べるからの方が正しいだろうが。
「ふぅ、美味しくなかったけどお腹いっぱいにはなったわね⋯⋯あれ?扉が輝いているような⋯⋯気のせいかしら?」
シルニアより少し早く食べ終わったアリアがふと扉の方を見ると、石造りの両扉の中央にはめ込まれている青い石が少し光っていた。しかし、それは剣士として、あるいは回復術師として観察眼に優れた2人でも分からないようなものだった。
「⋯⋯?いえ、光っている感じはないですが⋯⋯もしかしたら夕陽が反射したのかもしれませんね」
そうかしら 、とどこか怪しんでいる様子で答えるアリアに、シルニアは扉のところに行ってみればどうかと提案した。
その言葉に従ってアリアは扉へと歩いていき、真ん中の宝石に軽く手を当てる。
「やっぱり何も起きないじゃ──って、きゃあ!?」
アリアが手を当ててから数瞬後、宝石は先程とは比べ物にならないほどの眩い光を放ち、2人は思わず目を覆った。光が収まったと感じた2人が目を開けると、扉が大きく開かれ、その中への道が現れているのが見えた。
「⋯⋯大聖堂、ですか?」
そうぽつりと呟くシルニアに、アリアは静かに答えた。
「ええ、おそらくそうね⋯⋯まさか、扉に手を触れることで開くとは思わなかったわ」
自分の荷物を片付けて立ち上がるシルニアを尻目に、アリアは大聖堂へと入っていった。ふわりふわりと蒼い蝶が舞い踊り、かすかに灯るロウソクの炎がちろりちろりと揺れる大聖堂は、どこか神秘性とともに得体の知れない不気味さを感じさせた。
しかしそれに構うことなく、アリアは追いついてきたシルニアとともに白亜の女神像のもとへ歩いていく。次第にステンドグラスから夕陽が入り、オレンジ色の光が全てを染め上げていた。
その途端、夕陽を押しのけるようにして女神像が純白の光を放ち始める。と同時に、ばたんと大きな音が響き、驚いた2人が後ろを振り返ると──
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