第二話・古代竜
「はぁっ!」
襲ってきたゴブリンを横に躱し、一閃。真っ二つに別れた体から溢れ出した赤い血液は、新緑を真紅に染めあげた。しかしアリアはそれを気にすることなく次の敵へと襲い掛かり、即座にその首を切り飛ばす。
「くっ、無駄に多いわ、ねっ!」
そう言葉をこぼす間にもゴブリンは次々に襲い掛かり、アリアに息をつく間さえ与えなかった。しかし、最初と比べると格段にその数は減ってきており、少々余裕が出てきている。
そのためだろうか、相棒とも言えるシルニアの方をちらりと見たアリアは、緊張で固まっていた頬をほんの少しだけ緩めた。視線の先にはかつて自分にくっついて回っていた臆病な姿はなく、結界を張ってゴブリンたちの襲撃を防ぎ、かすり傷すら負うことなく戦っている頼もしい姿があったからだ。
(さすがシルニアね。ただでさえ使い手の少ない光属性魔法をこんなにも使いこなしているなんて⋯⋯⋯⋯ッ!?何この殺気⋯⋯!)
ゴブリンなどとは──否、いくら強靭な人間であろうとかなわないほどの気を感じとり、アリアはシルニアに向かって大声で叫んだ。
「シルニア!奥から何か大きな奴がくるわ!」
「!?わかりました、今すぐそちらに向かいます!」
アリアにそう言われてシルニアも巨大な魔力に気がついたのか、大慌てで障壁を張りゴブリンを押しのけながらアリアの元に駆けつけた。
その瞬間、なぜ今まで見えなかったのかが不思議なほどの巨体が空から舞い降りてきた。
『グルルルアアアアアア!!』
真っ黒な鱗に身を包み、金色にギラギラと輝くその瞳をしたそいつは──
「⋯⋯ドラゴン」
ゴブリンたちは1ミリも動けなくなるほどの殺気の中、アリアは辛うじてそう声を漏らした。気がつけば森はしんと静まり返り、自分たちの心臓の音ですら相手に聞こえているのではないか、そういう錯覚を2人にもたらす。
ゴブリンたちを睥睨していたドラゴンはぐるりとアリアたちの方を向き、それだけで一抱えもありそうな鋭い牙が生え揃った口を開いた。
『ふむ、久しいのぅ。強大な力がやってきたと思って来てみれば、アリアとシルニアか。⋯⋯む?なぜ白い服を着ておる?』
まるで知古にあったかのような発言をするドラゴンに、2人は目をぱちくりとさせた。
(私たちのことを知っている?それに白い服って⋯⋯純白は神の印。何にでもなれる戦乙女たちの象徴ではなかったのかしら?)
『早う、答えんか。たった1000年でそこまでボケたのか?⋯⋯いや、戦乙女たちは不老のはずじゃ⋯⋯ならばなぜ⋯⋯?』
ぼそぼそと独り言をつぶやくドラゴンに、アリアは戸惑いながら話しかける。
「あの、なぜ私たちのことを知っているのですか?それに白い服は戦乙女の象徴だと伝わっています。何もおかしなことはないはず⋯⋯」
『⋯⋯む?お主たちは戦乙女ではないのか?いや、その魂はたしかに彼女たちのもの⋯⋯ッ!ま、まさか、魔族に負けて転生したとでも言うのか?』
再び独り言を言い始めるドラゴン。
ふと辺りを見渡すと、先程まで腰を抜かしてへたり込んでいたはずのゴブリンたちが立ち上がり、そろりそろりとドラゴンから離れていくのが見えた。しかしゴブリンたちが完全に森の奥に姿を消してもドラゴンは動き出すことはなかった。
ただ無言でドラゴンを待つのにも飽き、強大な力にも慣れてきた──正確には感覚が麻痺してきたのほうが正しいだろうが、とにかく普通に動けるようになってきたアリアたちは顔を寄せあってひそひそと話し合った。
「ね、ねえ⋯⋯どういうことかわかるかしら?」
「いえ⋯⋯ただ、戦乙女が生きていたころを知っているようではありますね」
静かに首を振るシルニアに対し、アリアはそうね、と頷いた。しかし何かが引っかかったようで、こてんと首を傾げる。
「じゃあ戦乙女の名前と私たちの名前って同じなのかしら?それともただ私たちの名前を知っていただけ?⋯⋯うーん、よく分からないわね」
「そうですね⋯⋯ドラゴンさんが動くのを待ちましょうか」
シルニアが古代竜にさんを付けるのを聞いて笑みを零しながら、アリアはドラゴンをじっと見つめた。
ドラゴンは未だに何かを考えているようで、時折首を捻ったり呻いたりしている。
そしてそろそろお昼になるかという頃、ようやくドラゴンがその口を開いた。
再来週からは頻度高くなると思います⋯
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