表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/86

82. セブンナンバーズ-夢を縫う者-2

 視界の端で、勇者たちの方で動きがあった。


 「セリカ、もう一歩踏み込む! オルフェン、糸を止められるか!」


 リアムが叫ぶ。


 セリカが盾を構え、横から伸びた糸の束をまとめて弾く。

 オルフェンの魔弾が、糸の結び目を狙って撃ち抜いた。


 「……ちょっと、しつこいわね」

 第七が小さく息を吐く。


 その足元には、まだ何本も糸が残っていた。

 けれど、さっきよりも動きは硬い。


 (追い詰めてる……)


 そう思った瞬間だった。


 


 「――はっ!」


 リアムの剣が、一段と強く光る。


 床を蹴り、一気に距離を詰めた。



 光をまとった斬撃が、第七めがけて振り下ろされる。


 さっき布を張った場所とは、わざと違う角度。

 正面からではなく、斜め上からの一閃。


 「……っ」


 第七の目が、わずかに細くなる。


 糸が一気に編まれかけ――た、その瞬間。


 


 視界の端で、氷が跳ねた。


 「セイル――!?」


 叫ぶより早く、彼の姿が消える。


 氷紋を踏み台にするような動きで、

 セイルが第七とリアムの間に、割り込んで入りこんだ。


 「――!」


 光が、胸元を斜めにえぐる。


 鈍い音と共に、血と冷気が同時に飛び散った。


 


 「セイル!!」


 自分でも驚くくらいの声が出た。


 リアムの剣は、完全には止めきれず、

 それでもギリギリで軌道を逸らされた形で、第七の肩をかすめている。


 「……危ないわ、そういう“動き”もできるのね」

 第七は、一歩下がりながら、胸元を抑えた。


 衣の一部が裂け、糸がほどけ、薄く血がにじんでいる。


 「守る対象の上書き、ギリギリ間に合ったみたいね」

 その目にはほんの少しだけ楽しそうな色が混じっていた。


 

 「バカか、お前……!」


 リアムが、セイルの体を支える。


 セイルの胸には、深い切り傷。

 普通なら、そこで即死してもおかしくない一撃だ。


 「っ……げほっ……」


 口からこぼれた血が、床の氷を赤く染める。


 「なんで……入ってきた」


 リアムが顔をしかめる。


 「守らなきゃって…あれ…俺は一体誰を…」


 セイルが息を切らしながら話していたが、途中で言葉が途切れた。


 意識が、すとんと落ちかける。


 


 「イリス!」


 リアムが叫ぶ。


 「こいつ、まだ息ある! なんとか――」


 「任せて!」


 イリスが駆け寄り、すぐに治癒魔法を展開した。


 柔らかな光が、セイルの胸元を包む。


 だが――


 「……これは、無理かもしれないです」


 眉間に皺が寄る。


 「傷が“外側”じゃなくて、中で引っ張られています。

  塞ごうとすると、奥からほどけてくる」


 「治せないのか」


 リアムが歯ぎしりする。


 「治るか怪しいわ。

  時間をかけて、少しずつ抑え込むしかない」


 その間にも、セイルの体からじわじわと赤黒い魔力が漏れている。


 


 「ほんと、手間のかかる子ね」


 第七が、つまらなそうに肩をすくめた。



 リアムの一撃から、セイルの飛び込み。

 その一瞬で、彼女は“勇者の間合い”から外へ逃れていた。


 「でも、おかげで少し余裕ができたわ」


 指先で、また糸をつまむ。


 今度、向き先は――俺の方だった。


 


 肩の傷が、弾かれたように痛む。


 「っ……ぐ」


 膝がわずかに沈む。


 (セイルの分が……こっちに全部、流してきてる)


 さっきまでセイルに割かれていた糸が、

 今はほとんど“こっち側”に向けられているのが分かった。


 俺の肩から伸びる糸。

 沢山の糸が空中で絡まり合いながら、第七の指先に集まっていく。


 


 「レン!」


 ルデスの声が飛ぶ。


 「――意識だけは、離すな!」


 「……簡単に言うね」


 短く吐き出すように返し、足を踏みしめる。


 肩の中で、赤黒い何かと、自分の輪郭がぶつかり合っていた。



 「いい顔になってきたじゃない」


 第七が、楽しそうに目を細めた。


 「ここから先は――糸と、心だけで決めましょうか」


 その指が、ゆっくりと下ろされる。


 俺の肩に引かれた糸が、十四層の空気をきしませた。


 嫌な熱が、頭の奥まで一気に駆け上がる。


 (……まずい)


 視界の端で、勇者たちがまだ第七に詰め寄ろうとしているのが見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ