表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/86

81.セブンナンバーズ-夢を縫う者-

 「第六は終わった。次は――あいつだ!」


 リアムの声が響く。


 光をまとった剣先が、第七をまっすぐに捉えていた。


 「セリカ、前! オルフェンは糸!」


 「了解!」


 セリカが盾を構え、一気に距離を詰める。

 その後ろで、オルフェンが杖を構え直し、第七の周囲に浮かぶ糸をにらんでいた。


 「……あれが、干渉の“根”か」


 低く呟き、詠唱を紡ぎ始める。


 


 「勇者様たち、本当に忙しいわね」


 第七は、ほんの少し肩をすくめただけだった。


 けれど、その指先は止まっていない。


 セイルに刺さった糸と、俺の肩に繋がる糸とは別に、

 今度は勇者たちの足元へ、細い線がすっと伸びていく。


 「リアム、足元!」


 セリカが即座に叫ぶ。


 盾で払いのけると同時に、光の斬撃が糸をはじいた。

 だが、切れた分だけ、別の糸がまた立ち上がる。


 


 「切っても、すぐ増えるか」


 リアムは舌打ちしながらも、前へ出る。


 「だったら、増える暇を与えなきゃいいだけだ!」


 光をまとった剣が、一段と明るく輝いた。


 床を蹴り、一気に間合いを詰める。

 セリカの盾が、横から伸びた糸の束をまとめて弾き飛ばした。


 「通す!」


 セリカの短い声。


 開いた一瞬の隙を、リアムが逃さない。


 


 「はぁっ!」


 光の斬撃が、第七めがけて振り下ろされる。


 その軌道は、さっき第六を貫いた一撃と同じ――

 避けようのない真っ正面からの一閃だった。


 「……あら、怖い怖い」


 第七は笑いながら、指を二本だけ動かす。


 赤黒い糸が、彼女の前で一気に編まれた。

 薄い“布”のような層が、光の前に立ちはだかる。


 ズガン、と鈍い衝撃音。

 布のように見えるのに、斬撃はそこで速度を落とされた。

 完全には止まりきらないが、威力が明らかに削られている。


 「オルフェン!」


 リアムが、斬り結びながら叫ぶ。


 「今の、何だ!」


 「普通の障壁じゃない……“糸”を薄く張ってる」


 オルフェンが短く答え、杖を構え直す。


 「中央は魔力も糸も厚そうだ。――端を狙う!」


 リアムの斬撃が正面から押し込み、

 同時に、オルフェンの魔弾が布の端を撃ち抜いた。


 縁から裂け目が走り、破れた部分から光が漏れる。


 破れた部分から、光が漏れる。


 「っ……!」


 第七の口元から、小さく息が漏れた。


 完全に軽口だけで済ませられるほどの一撃ではなかったらしい。


 


 「さすが勇者、ってところね」


 それでも笑みを消さず、第七は後ろへ下がる。


 糸の束が、彼女の足元から天井近くまで一気に伸びた。


 「だけど――少し、この人数は相手だと手が足りないわ」


 その言葉と同時に、セイルの足元にある氷紋がまた光る。


 


 「セイル」


 短く呼びかける声。


 俺の眼前で、氷槍の雨を撃ち出していたセイルの動きが、ぴたりと変わった。


 「そっちを抑えて」

 第七がそう言った次の瞬間、放たれる氷の向きがわずかに変わる。


 俺の脇をかすめ――

 勇者たちの方へ、数本が流れた。


 「っ、こっちに来るか!」


 セリカが盾を掲げ、横から飛んできた氷槍を叩き落とす。


 イリスの結界が、遅れた一本を受け止め、火花のような光を散らした。


 「前だけ見てればいい戦いじゃないってことね……!」


 イリスが息をのみながら呟く。


 


 (セイルの魔法まで“盾”にされてるのかよ)


 氷の雨を避けつつ、勇者たちが第七へ迫っていく様子がちらりと見えた。


 リアムの剣は、確かに届き始めている。

 さっき破った“布”も、もう一発もらえば形を保てなくなるだろう。


 だからこそ、第七は糸とセイルの魔法を、まとめて勇者たちの方へ流し始めた。


 


 背中の方から、ルデスの声が飛ぶ。


 「レン!セイルを引きつけろ! 勇者たちが第七を仕留める!」


 「了解……って言いたいところだけど」


 肩の傷が、また強くうずいた。


 中から、赤黒い熱が指先まで広がっていく。


 (俺の方も、そろそろやばい)


 短剣はずっと魔力を吸い上げてくれているけど、

 それでも完全には追いついていない。


 「……こっちも、長くはもたないかもしれません」


 そう返しつつ、一歩前へ。


 



 夢を縫う女が、少しだけ楽しそうに笑った。


 「こっちの糸を、先にもっと深く刺してあげる」


 指先が、俺とセイルに繋がる糸を同時に撫でる。


 視界の端で、勇者たちが第七との距離をさらに詰めるのが見えた。


 あと一歩。

 その一歩を踏み込めるかどうかで、全部決まりそうな空気の中――


 セイルの魔力と俺の肩の傷が徐々に限界を迎えていた。

ご覧頂きありがとうございます。

明日からの更新はお昼のみとなります。

別作品も執筆中になりますので、楽しみにお待ちください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ