81.セブンナンバーズ-夢を縫う者-
「第六は終わった。次は――あいつだ!」
リアムの声が響く。
光をまとった剣先が、第七をまっすぐに捉えていた。
「セリカ、前! オルフェンは糸!」
「了解!」
セリカが盾を構え、一気に距離を詰める。
その後ろで、オルフェンが杖を構え直し、第七の周囲に浮かぶ糸をにらんでいた。
「……あれが、干渉の“根”か」
低く呟き、詠唱を紡ぎ始める。
「勇者様たち、本当に忙しいわね」
第七は、ほんの少し肩をすくめただけだった。
けれど、その指先は止まっていない。
セイルに刺さった糸と、俺の肩に繋がる糸とは別に、
今度は勇者たちの足元へ、細い線がすっと伸びていく。
「リアム、足元!」
セリカが即座に叫ぶ。
盾で払いのけると同時に、光の斬撃が糸をはじいた。
だが、切れた分だけ、別の糸がまた立ち上がる。
「切っても、すぐ増えるか」
リアムは舌打ちしながらも、前へ出る。
「だったら、増える暇を与えなきゃいいだけだ!」
光をまとった剣が、一段と明るく輝いた。
床を蹴り、一気に間合いを詰める。
セリカの盾が、横から伸びた糸の束をまとめて弾き飛ばした。
「通す!」
セリカの短い声。
開いた一瞬の隙を、リアムが逃さない。
「はぁっ!」
光の斬撃が、第七めがけて振り下ろされる。
その軌道は、さっき第六を貫いた一撃と同じ――
避けようのない真っ正面からの一閃だった。
「……あら、怖い怖い」
第七は笑いながら、指を二本だけ動かす。
赤黒い糸が、彼女の前で一気に編まれた。
薄い“布”のような層が、光の前に立ちはだかる。
ズガン、と鈍い衝撃音。
布のように見えるのに、斬撃はそこで速度を落とされた。
完全には止まりきらないが、威力が明らかに削られている。
「オルフェン!」
リアムが、斬り結びながら叫ぶ。
「今の、何だ!」
「普通の障壁じゃない……“糸”を薄く張ってる」
オルフェンが短く答え、杖を構え直す。
「中央は魔力も糸も厚そうだ。――端を狙う!」
リアムの斬撃が正面から押し込み、
同時に、オルフェンの魔弾が布の端を撃ち抜いた。
縁から裂け目が走り、破れた部分から光が漏れる。
破れた部分から、光が漏れる。
「っ……!」
第七の口元から、小さく息が漏れた。
完全に軽口だけで済ませられるほどの一撃ではなかったらしい。
「さすが勇者、ってところね」
それでも笑みを消さず、第七は後ろへ下がる。
糸の束が、彼女の足元から天井近くまで一気に伸びた。
「だけど――少し、この人数は相手だと手が足りないわ」
その言葉と同時に、セイルの足元にある氷紋がまた光る。
「セイル」
短く呼びかける声。
俺の眼前で、氷槍の雨を撃ち出していたセイルの動きが、ぴたりと変わった。
「そっちを抑えて」
第七がそう言った次の瞬間、放たれる氷の向きがわずかに変わる。
俺の脇をかすめ――
勇者たちの方へ、数本が流れた。
「っ、こっちに来るか!」
セリカが盾を掲げ、横から飛んできた氷槍を叩き落とす。
イリスの結界が、遅れた一本を受け止め、火花のような光を散らした。
「前だけ見てればいい戦いじゃないってことね……!」
イリスが息をのみながら呟く。
(セイルの魔法まで“盾”にされてるのかよ)
氷の雨を避けつつ、勇者たちが第七へ迫っていく様子がちらりと見えた。
リアムの剣は、確かに届き始めている。
さっき破った“布”も、もう一発もらえば形を保てなくなるだろう。
だからこそ、第七は糸とセイルの魔法を、まとめて勇者たちの方へ流し始めた。
背中の方から、ルデスの声が飛ぶ。
「レン!セイルを引きつけろ! 勇者たちが第七を仕留める!」
「了解……って言いたいところだけど」
肩の傷が、また強くうずいた。
中から、赤黒い熱が指先まで広がっていく。
(俺の方も、そろそろやばい)
短剣はずっと魔力を吸い上げてくれているけど、
それでも完全には追いついていない。
「……こっちも、長くはもたないかもしれません」
そう返しつつ、一歩前へ。
夢を縫う女が、少しだけ楽しそうに笑った。
「こっちの糸を、先にもっと深く刺してあげる」
指先が、俺とセイルに繋がる糸を同時に撫でる。
視界の端で、勇者たちが第七との距離をさらに詰めるのが見えた。
あと一歩。
その一歩を踏み込めるかどうかで、全部決まりそうな空気の中――
セイルの魔力と俺の肩の傷が徐々に限界を迎えていた。
ご覧頂きありがとうございます。
明日からの更新はお昼のみとなります。
別作品も執筆中になりますので、楽しみにお待ちください。




