60.チーム登録
朝の光が校庭を照らす。
噴水の水面が揺れ、涼やかな風が吹き抜けた。
「……全員そろったね。」
ルデス王子は紙束を片手に、いつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
「今日から正式にチーム登録を進める。
名前は――“第十二班”。」
「第十二班……!」
リーナが少し誇らしげに頷く。
「いい響きですね!」
「ふふっ、響きだけは強そうだ。」王子が肩をすくめる。
セイルが用紙をのぞき込みながら言った。
「これで登録完了ですか?」
「いや、その前に。……もう一つだけ、確認がある。」
ルデスが少しだけ声を落とした。
その瞬間、空気がわずかに引き締まる。
噴水の影から、黒い外套をまとった女性が静かに歩み出た。
「――リゼさん。」
レンが思わず口にする。
「王子に頼まれて来たわ。」
リゼは淡々と答えると、小さな光の板を掌に作り出す。
「鑑定を行う。順番に前へ。」
「えっ、鑑定? やって頂けるんですか?」
セイルの問いに、ルデスは微笑む。
「うん。本来は鑑定所でしか行えない。
でも今日は特別に、彼女にお願いした。」
リゼの指先から淡い光が流れ出す。
ひとりずつ、順番に光が通り抜けるたび、彼女は短く頷く。
「ルデス・リステア――」
「次リーナ・クレイル――」
「次セイル・アストル――……少し緊張してる?」
「ひっ……あ、はい、まぁ。」
光板に浮かび上がる数値を、彼女は静かに読み上げる。
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【鑑定結果】
名前:セイル・アストル
年齢:16
職業:学園生徒
レベル:8
HP:90/90
MP:114/114
筋力:38
敏捷:46
耐久:47
知力:69
器用:40
運:63
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スキル
解析魔眼Lv1
対象の魔法式・詠唱・魔力流を視認・分解できる。
構造・属性・干渉経路を読み取り、再構築の基礎データとして保持可能。
→ Lvが上がると、詠唱省略や“魔法式の逆算”が可能になる。
――――――――――
所持技術
・氷属性魔法(Lv3)
――――――――――
リゼが光板を閉じる。
「典型的な理論型。前線より後方向きね。」
「……えぇ、まぁ。自覚はあります。」
セイルは苦笑しながら眼鏡を押し上げた。
最後に、リゼの視線がレンに向く。
短剣を下げた彼の姿を見つめ、わずかに眉を寄せた。
そして最後に、レン。
光が強くなり、空気がわずかに揺れた。
数秒後、淡く文字が浮かび上がる。
⸻
【鑑定結果】
名前:レン・ヴァルド
年齢:16
職業:冒険者(Dランク)
レベル:28
HP:184/184
MP:82/82
筋力:80
敏捷:206
耐久:64
知力:102
器用:118
運:53
――――――――――
スキル
・ショートウェポンマスター(Lv2)
使用者の腕より短い武器を装備時、Lvごとの補正を得る。
条件外の武器装備時は効果無効。Lvupで敏捷上昇率×1.1。
▼レベル進化
Lv1:どんな短い武器でも直感的に扱える。技術補正付与。ステ補正×1.5。
Lv2:武器本来の“真の力”を引き出す(魔力を宿す短剣使用時のみ魔法使用可)。ステ補正×2.0。
Lv3:一度使用した短武器の特性を他の短武器にも応用できる。ステ補正×2.5。
――――――――――
所持技術
・生活魔法(Lv2)
・基礎剣術(Lv3)
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光が消える。
リゼは短く息を吐いた。
ルデスが腕を組み、数字を確認する。
「なるほど。これなら第五層までは問題なさそうだ。」
「それでも気を抜かないように。」リゼが淡々と釘を刺す。
そう言って光板を閉じた。
「以上で終了。」
そう言って立ち去るリゼの姿に、リーナが目を細める。
「いつも思うけど、すごい人ですよね……」
「そうだな。」
レンは短く答え、腰の短剣に視線を落とす。
ルデスが静かに笑い、紙をまとめた。
「これで完了だ。“第十二班”――出発の準備を整えよう。」
「……また、レベルが上がってる…」
「魔物でもレベルは上がるけど、人を殺してもレベルは上がるのよ」
リゼが耳打ちし、淡く笑う。
ルデスが軽く拍手した。
「これで全員問題なし。――助かったよ、リゼ。」
リゼは小さく会釈し、静かに去っていく。
背を見送りながら、リーナがぽつりとつぶやく。
「すごいなぁ……。あの人、やっぱりただ者じゃないですね。」
「そう思うだろ?」ルデスが穏やかに笑う。
セイルは首を傾げたまま。
「……なんか、空気が変に静かでしたけど。」
「気のせいだよ。」レンが軽く笑って肩をすくめる。
「さ、登録しよう。訓練まで時間がない。」
そのまま四人は学園の登録窓口へと向かう。
陽の光の下で、誰もが自然に笑っていた。




