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58. わずかな濁り、そしてセブンナンバーズ

 王立学園の空には、いつもより多くの鳥が飛んでいた。

 昼下がりの光が校庭を満たし、

 生徒たちの笑い声が風に乗って響いている。


 「剣術祭の申し込み、もう始まったらしいよ!」

 「見た? 外部参加者の名簿! ギルドの人まで来るんだって!」


 学園は完全に“お祭り前”の空気だった。

 廊下を歩けば、皆が夢中で大会の話をしている。

 それはどこか平和で、心地よい騒がしさだった。


 レンも例外ではない。

 午前の授業を終え、訓練場の端で剣を拭っていた。

 短剣の刃に映る自分の顔を見つめながら、

 思わず小さく笑う。


 「……悪くないな」


 リーナが駆け寄ってきた。

 「ねぇレンくん、聞いて聞いて! 明日から学園の訓練ダンジョン、解放されるんだって!」

 「へぇ、一般生徒にも?」

 「そう! 大剣術祭に向けてだって。先生たち、ちょっと緊張してたけど」


 リーナは楽しそうに話しながら、昼下がりの陽射しを見上げる。

 その笑顔に、ほんの少しだけ影が差した。


 「でもね……なんか、空気が重く感じるの。

  たぶん気のせいだと思うけど」


 レンは短く息を吐き、笑った。

 「気のせいさ。行事前は、誰でもそう感じる」

 「うん……だよね」


 リーナは頷いたが、

 その瞳の奥にはわずかな不安が残っていた。




 その夜。

 寮の屋根の上で、リゼはひとり空を見ていた。

 月が薄雲に隠れ、風が途切れ途切れに吹く。


 「……静かね」

 呟きながらも、その“静かすぎる夜”が気にかかる。


 音のない夜。

 虫も鳴かず、木も揺れない。

 わずかに漂う違和感が、胸の奥でざらりと残る。


 「気のせいであってほしいけど……」

 視線を下げると、校舎の明かりが点々と並んでいる。

 誰かが夜遅くまで練習しているらしい。


 リゼはその灯を見つめ、

 小さく息をついた。


 「……まぁ、明日も早いわね」


 屋根から飛び降りる前、

 ふと視界の端で何かが揺れた。


 木の影が、一瞬だけ“人の形”をしたように見えた。

 次の瞬間には、もう何もなかった。


 リゼは軽く眉をひそめたが、

 深く考えることなく踵を返した。


 風が再び吹き抜け、

 影がほんの少しだけ、形を取り戻す。


 ――誰にも気づかれぬまま。


◆◇◆◇◆◇◆



 地の底に沈む聖堂。

 岩壁に刻まれた《永劫を見下ろす目》が、

 心臓のように脈打っていた。


 七つの座のうち、ひとつが空いている。

 そこだけ空気が歪み、黒い靄がゆらめく。


 「……第七が、沈黙した。」

 最奥の影が告げる。

 その声は鈍く、石の奥で鳴る鐘のようだった。


 「“影を喰う者”が音を喰らい尽くし、自らも沈んだ。」

 「音が止まれば、調律も止まる。」

 「神の耳が退屈する前に、器を満たさねば。」


 沈黙。

 誰もがその意味を知っている。


 そのとき、列の外から一人の影が歩み出た。

 細身の黒衣、仮面の下で冷たい笑みを浮かべている。


 「――第八が申し上げます。」


 鈴の音がひとつ、かすかに鳴った。

 場の空気がわずかに揺らぐ。


 「第八使徒、“夢を縫う者”。

  長らく門の外に立っておりましたが、

  欠けた席を埋めるお許しを。」


 沈黙。

 そして、最奥の影がゆっくりと頷いた。


 「……神の器は七。

  欠けた座は必ず継がれねばならぬ。

  ならば、第八よ――第七の席を継げ。」


 「畏まりました。」


 新たな影が円陣に入る。

 その瞬間、聖堂の鈴が一斉に震え、

 音もなく、空気が冷たく沈む。


 「第七使徒、“夢を縫う者”――名を継ぐ。」

 「“影を喰う者”は沈み、夢が立つ。

  これで七は再び満たされた。」


 全員が頭を垂れた。

 祈りが重なる。


 「我ら七の器、欠けることなかれ。

  神の目は開き、神の息は満ちる。」


 やがて鈴の音が止み、

 新たな第七は無言で仮面を外した。

 その瞳にだけ、淡い夢の光が揺れていた。


 ――七は再び揃い、八は“無”に還った。

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