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49.作戦会議

 鳥の声が、遠くで響いていた。

 薄いカーテンを透かして、朝の光が静かに部屋を照らす。

 リーナはゆっくりとまぶたを開けた。


 見慣れない天井。

 体を起こそうとした瞬間、軽い頭痛が走る。


 「……ここは?」


 掠れた声が漏れた。

 隣の椅子にはルデス王子、

 床の片隅には毛布にくるまったレンが眠っていた。

 静かな寝息。

 まるで夜通し見張っていたかのようだった。


 ルデスが気配に気づき、ゆっくりと顔を上げる。

 「おはよう。気分はどう?」

 「……あまり、覚えてないです。昨日……何をしてたんでしたっけ」


 リーナの目はまだ焦点を探している。

 ルデスは彼女の手に水の入ったコップを差し出した。

 「落ち着いてからでいい。少し休んだ方がいいね」


 その声に、レンが目を覚ます。

 「……もう朝か」

 毛布を払い、床から立ち上がると、

 リーナの顔を見て小さく安堵の息をついた。


 「大丈夫そうだな」

 「うん……ごめん、迷惑かけたみたい」

 「気にするな。覚えてないなら、それでいい」


 レンの声はいつもより静かだった。

 けれど、その奥には確かな緊張があった。

 ――“あの音”を聞いたのは、自分だけではない。

 だがリーナの瞳には、その記憶の欠片すら残っていない。



 レンは昨日あった出来事を話した。


 ルデスが軽く腕を組み、思案するように口を開いた。

 「音を聞いた人間に影響が出る……か。

 興味深い現象だね」

 「興味深いで済めばいいですけど」

 レンが短く返す。


 ルデスは肩をすくめて笑う。

 「君が聞いても正気なら、まだ救いはあるさ」


 リーナはベッドの縁に腰を下ろし、

 両手を膝の上で握りしめた。

 「……私、なにか……変なことをした?」

 「少し様子が違ってた。目が虚ろで、反応がなかった」

 「……そう」


 リーナは視線を落とした。

 その声は震えていないのに、

 どこか心が遠くに置き去りにされたような響きがあった。


 レンは言葉を探したが、出てこなかった。

 ただ一言だけ、

 「無理に思い出そうとするな」と告げる。


 その言葉に、リーナはようやく小さく笑った。

 「ありがと。でも……その音、また聞いたら……どうなるのかな」

 「今度は俺が止める」

 レンの即答に、ルデスがふっと口角を上げる。


 「頼もしいね。

 ――じゃあ、次は“音の出所”を探さないと」


 「リーナはお留守番だまた何かあったら大変だからね。レン君一人だと少し危険だろう、

リゼともう1人付けるよ。夕方には学園の門の外に来るように言っておく。」


 「……でも、私も――」

 リーナが顔を上げかける。


 ルデスは微かに首を振る。

 「無理をしても意味がないよ。君の感覚が鈍ったままだと、今度は取り返しがつかない。

 ここで休んで。学園の医師にも診てもらうように手配しておく」


 リーナは唇を噛んだが、それ以上は何も言わなかった。

 その表情を見て、レンも静かに言葉を添える。

 「今日は俺が動きます。ゆっくり休んでください」


 ルデスは頷くと、地図を折りたたんでレンに手渡した。

 「君一人だと少し危険だろう。

 リゼと、もう一人──サイラスを付ける。彼は学園の警備補佐をしている、腕も立つ」


 レンが受け取った地図を丁寧にしまいこむ。

 ルデスは窓際に目を向け、淡く笑みを浮かべた。


 「夕方には学園の門の外に来るよう、二人には伝えておく。

 そこで合流して、街の南側を中心に調べてほしい。

 昨夜の“音”が広がった範囲を確かめるんだ」


 「わかりました」

 レンは軽く頭を下げる。


 リーナが不安そうにその背を見つめる。

 「……気をつけて」

 「大丈夫ですよ」

 レンはそう言って、静かに微笑んだ。




 昼近くになって、レンは支度を整えた。

 腰に短剣を差し、上着の裏に地図をしまう。

 リーナは扉の前まで来て、彼を見送った。


 「無茶はしないでね」

 「しませんよ。……鈴の音には、もう近づかない」

 「……約束だからね」


 短いやり取りのあと、

 レンは寮の廊下を抜け、まぶしい光の中へ出ていった。


 外の風は穏やかで、

 けれど王都の空気には、確かに昨夜とは違う重みがあった。


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