37.スキルの真実
金貨五枚の光
女が机の上に金貨を一枚ずつ並べた。
「五枚。これが正式鑑定の代金。――本来なら高いのよ。」
レンは無言で頷く。
女が両手を掲げると、床の魔法陣が青白く輝いた。
地下室の空気が一瞬で張り詰める。
「――【鑑定・フルスキャン】。」
魔力の奔流が体を貫いた。
骨の奥まで染み込むような光――温かいのに、どこか鋭い。
レンは思わず息を呑んだ。
(これが……鑑定……!)
光が収束すると、半透明の文字盤が空中に浮かび上がった。
女が静かに口を開く。
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【鑑定結果】
名前:レン・ヴァルド
年齢:16
職業:冒険者(Dランク)
レベル:23
HP:162/162
MP:74/74
筋力:75
敏捷:182
耐久:56
知力:93
器用:102
運:49
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スキル:
・ショートウェポンマスター(Lv1)
使用者の腕より短い武器を装備時Lv事の効果を受ける
条件外の武器装備時は効果無効。Lvupによる敏捷上昇率1.1倍
▼レベルごとの進化
Lv1:どんな短い武器でも直感的に扱えるようになる。技術補正が入る。ステータス補正1.5倍
Lv2:武器本来の“真の力”を引き出せる(※魔力を宿す短剣使用時のみ魔法も扱える)ステータス補正2倍
Lv3:一度使用した短武器の特性を他の短武器にも応用できる ステータス補正2.5倍
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所持技術:
・生活魔法(Lv2)
・基礎剣術(Lv3)
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「……“腕より短い武器を装備時”……?」
レンは目を細めて読み上げた。
女は頷く。
「ええ。あなたの“ショートソード”、長すぎるの。」
「そんな、理由で……スキルが使えなかった……?」
「そうよ。スキルはどんなに強力でも、条件を外せばただの飾り。」
女は淡々と続けた。
「あなたのスキルは“速さ”と“精密さ”の両立型。
だからこそ、腕の延長のように使える武器でなければ発動しないの。」
レンの胸に鈍い衝撃が走る。
今までの訓練、努力、焦り――
すべてが“たった数センチの違い”で封じられていた。
(包丁と短剣で光った……あのときの感覚は、これだったのか。)
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見えなかった力
女は机の下から短剣を一本取り出した。
刃渡りはレンの肘下よりわずかに短い。
「この長さなら、完全に発動するわ。」
レンは受け取り、自然と構えた。
その瞬間、全身に電流のような熱が走る。
視界が研ぎ澄まされ、世界が一瞬だけ“遅く”見えた。
(――これだ。)
風の流れ、床のきしみ、全てが明確に見える。
体が、武器と完全に一体化した感覚。
女が薄く笑う。
「今、発動したわね。」
「……はい。まるで手が勝手に動くみたいです。」
「それがLv1の“技術補正”。
体が、武器を“自分の一部”として扱えるようになるの。」
レンは短剣を下げ、深く息をついた。
「……俺、ずっと力の使い方を間違えていたんですね。」
「そうね。でも…」
女は短剣を指で軽く弾く。
澄んだ金属音が鳴った。
「その武器、持っていきなさい。正式依頼の報酬――ということにしておく。」
「そんな、もらえませんよ。」
「いいの。使いこなせる人間が持つのが、一番いい。」
レンは静かに頷いた。
「……わかりました。ありがとうございます。」
階段へ向かうレンの背に、女の声が響いた。
「覚えておきなさい。
“短い刃”は届かないようで、最も深く刺さる。
あんたのスキルは、それを証明する力よ。」
レンは一度だけ振り返る。
「……それ、スキルの話ですか?」
女は口元で微笑んだ。
「さあね。生き方にも使えるわよ。」




