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25.クレスト洞窟・第三層 アンチエリアの夜

 焦げた根が崩れ落ち、森は再び静寂を取り戻していた。

 青黒い光苔が淡く瞬き、地面に散った灰を静かに照らす。

 昼のように明るかった光は、いまや夜の色を帯びている。


 その幻想的な青の中――レンとミナは、並ぶように倒れていた。

 戦いの直後とは思えないほど穏やかな寝顔で。


「……レン、ミナ。」

 ゴルドが膝をつき、二人に手をかざす。

 呼吸は静かで、体温もある。

 けれど、どれだけ呼びかけても反応はない。


「完全に眠ってるな。」カイが低く呟いた。

 杖の光を弱め、レンの額に手をかざす。

「魔力の流れが一定だ……強制睡眠の類だな。自然に醒める。」


「つまり、運ぶしかねぇってことか。」

 ゴルドが立ち上がり、静かにレンを抱き上げる。

 その腕には、驚くほどの優しさがあった。


「軽いな……戦ってる時はあんなに重かったのに。」

「気を抜いた分、力も抜けたんだろう。」

 カイは微かに笑い、ミナをそっと背負う。


「行こう。アンチエリアまで、あと少しだ。」


 二人は静かに歩き出した。

 足音だけが森に響く。

 光苔の青が濃く、空気は柔らかい。

 まるで夜の中を泳いでいるような、奇妙な浮遊感だった。


 ――やがて、木々が途切れた。

 洞窟の奥に、わずかな光が満ちている。

 中央に泉のような浅い水面があり、そこから温かい風が流れていた。


「ここが……アンチエリアか。」

 カイが小さく息を吐く。

「空気が……違うな。」ゴルドが呟く。

「……眠気が、薄れていく。」


 二人は焚き火を起こし、レンとミナをそっと寝かせた。

 淡い橙の光が、青い空間の中で静かに揺れる。

 火がはぜる音だけが響き、時間が止まったようだった。


 やがて――レンのまつげがわずかに動く。

 続いてミナが眉を寄せ、浅く息を吐いた。


「……う、ん……?」

 レンがゆっくりと目を開けた。

 視界には揺れる光と、焚き火の温もり。

 そして、見慣れた仲間の背中があった。


「……カイ、ゴルド……?」

「おう。お目覚めか。」

 ゴルドが焚き火越しに振り向く。

「アンチエリアの癒し効果だ。ここに来て正解だったな。」


 ミナも体を起こし、まだ夢の中のようにぼんやりと辺りを見渡す。

「……夜? ずっと続いてるの?」

「昼だったのが、急に夜に変わった。光苔のせいだろう。」

 カイが静かに答えた。

「でも、もう安全だ。ここは“眠り”を遮断する場所らしい。」


 レンが頷き、火のそばに腰を下ろした。

 温かい空気が肌を包む。

 焚き火のそばでは、カイが鍋の蓋を開けていた。

 中から立ちのぼる香ばしい香りに、レンは目を瞬かせる。


「……あれ、それ……。」

「お前が作ってたチャーハンとスープ、勝手に借りた。」

 カイが少し気まずそうに笑う。

「食わねぇのももったいねぇだろ?」


「……冷めたやつを温め直しておいた。」

 ゴルドが短く言って木皿を差し出した。

 皿の上には、ほのかに湯気を立てるチャーハンとスープ。

 焦げ目の香ばしさが、空腹を優しく刺激する。


「……いい匂いだ。」

 レンが一口すくって口に運ぶ。

 香りが広がり、冷え切っていた体に温もりが戻る。


「……やっぱ、うまいな。」カイが笑う。

「こういう時、レンの飯ってありがたいよ。」

 レンは少し照れながら肩をすくめた。

「温めただけでも、味が残っててよかったです。」


 ミナもスープをすすりながら、ほっと息を漏らす。

「眠りの森を抜けて、こうして食べるご飯……なんか特別だね。」


「夢なら、もう十分見ただろ。」

 ゴルドが焚き火の薪を押し込み、火を強めた。

 橙の光が皆の顔を照らす。

 静かだが、不思議なほど安らぎがあった。


 焚き火の火花が弾け、光苔の青に溶けていく。

 外はまだ夜。

 ここも夜。

 だが、その闇の中でだけ――人の心だけが、温かく灯っていた。

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