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21. クレスト洞窟・第一層

 冷たい空気が、頬を刺した。

 足を一歩踏み出すたび、岩肌に残る水滴が音を立てて落ちる。

 薄暗い洞窟の奥へ、四人の足音が静かに吸い込まれていった。


 カイが小声で言う。

「この層は“試しの間”だ。魔物は弱いが油断するな。数でくるタイプが多い。」

 彼の手にした杖の先が淡く光り、岩壁に反射して揺れる。

 光の届かぬ闇が、まるで息を潜めて待っているようだった。


 ミナが短剣を抜き、耳を澄ます。

「……何か聞こえない?」

 ぴたりと足を止めた瞬間、奥から甲高い鳴き声が響く。

 「キィィィ!」

 黒い影が岩陰から跳び出した。鼠に似た胴体、しかし背には棘。

 カイが眉をひそめる。「ケイブラット、か……!」


 四方から四体。光を反射する眼が一斉にこちらを捉える。

 最初に飛びかかった一体を、ゴルドの盾が受け止めた。

 鈍い衝撃音。腕がわずかに沈み、金属のきしみが響く。

「重い……だが、止められる!」


 その隙に、レンが前へ踏み込む。

 ショートソードを低く構え、斜めに振り上げた。

 刃が生き物の皮膚をかすめ、金属的な音とともに火花が散る。

 弾かれた手首がしびれる。

「硬い……!」


 後方からミナが素早く距離を詰めた。

 短剣が光を反射し、ケイブラットの脇腹を切り裂く。

「1体削った!」

「まだ来るぞ!」カイの声が響いた。


 二体目が天井伝いに跳びかかる。

 カイがとっさに杖を突き出し、圧縮した空気を放つ。

 「《エアバースト》!」

 風の衝撃が洞窟内に炸裂し、天井の砂塵が舞う。

 跳びかかった魔物が軌道を崩し、地面に叩きつけられた。


 レンがその隙を逃さない。

 踏み込む足音が岩に響き、剣先が閃く。

 手応え。血飛沫が飛び、ケイブラットが転がった。


 ――だが、まだ二体。

 一体はゴルドの足元へ、もう一体は背後のミナへ。

「ゴルド、左だ!」

「わかってる!」

 彼は盾を地面に叩きつけるように構え、跳び込んできた魔物を受け止めた。

 硬い音と共に、床の砂が舞う。

 押し返した勢いで反対の腕を振り抜き、拳がケイブラットの顎を打つ。

 「ぐっ……これで、どうだ!」


 もう一体が背後からミナへ。

 レンは反射的に駆け出した。

 空気が裂ける。

 ショートソードが一閃、ミナの肩先をかすめてケイブラットの喉を斬り裂いた。

 金属のような鳴き声を残し、魔物は動かなくなる。


 洞窟内に、静寂が戻る。

 わずかに響くのは、誰かの荒い息だけだった。

 レンは剣を引き、刃に残った黒い血を岩壁に擦り落とした。


「……終わったか?」

 カイが杖を下ろし、光を弱めた。

「まだ第一層だ。けど、油断は禁物だな。今の連携は悪くなかった。」


 ミナが息を整えながら笑う。

「レン、ありがとう。あのままじゃ危なかった。」

「気にすんな。みんなのおかげで助かったのは俺も同じだ。」


 ゴルドが盾を壁に立てかけ、低く呟く。

「数が多いと厄介だな。二層はもっと深い。足を止めるな。」


 その言葉に全員が頷く。

 緊張は残ったままだが、確かな手応えがあった。

 彼らの呼吸がひとつに重なり、再び歩き出す。


 薄闇の中、微かな光が揺れる。

 第一層――試しの間を、四人は確実に突破した。

 足元の水たまりに映る光が、次なる階層への道を照らしていた。

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