表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/81

12.森を駆ける光と刃

 川辺での出来事を胸の奥に沈めたまま、レンは静かに戻ってきた。

 腰の包丁は料理用の荷物と一緒に木陰へ置き、代わりにショートソードを差し直す。


「おそーい! 昼寝でもしてたのか?」

 ミナが声を上げる。


「いや、ちょっと……水が冷たくてさ。」

 レンは苦笑して手を振った。


「準備はできてるか?」

 ゴルドが短く尋ね、カイが地図を広げた。

「森の東側、小さな村の奥の畑だ。報酬は銀貨24枚。今日中に片づけるぞ。」


「数は少ないけど、油断は禁物ね。」

 ミナが短剣を確認しながら言う。

 刃先に光が反射し、彼女の瞳も真剣だった。


 カイが微笑み、指先に小さな光を灯す。

「念のために結界魔法も準備しておこう。俺が魔法で援護する、ミナは前衛。ゴルドは守り、レンは側面に回れ。」


「了解。」

 レンは頷き、鞘に手をかけた。



 街道を抜けた先、小さな村の畑で農夫が待っていた。


「お、お前さんたち……ギルドの冒険者か?」

「はい。“害虫駆除”の依頼を受けました。」

 カイが一歩前に出ると、男は胸をなでおろした。


「あいつら、“スティンガーフライ”って呼ばれる魔物でな。

 ほら、あの黒い影だ。昼間でも飛び回るようになって畑を荒らすんだ。

 毒針を持ってて、刺されたら厄介だぞ。」


 カイが空を仰ぎ、眉を寄せる。

「……今も見える。群れで来るタイプか。」


「十一匹ほど確認。陣形を整えろ。」

 ゴルドの低い声に、空気が一気に引き締まった。



 ブゥゥゥン――。

 羽音が空を満たす。黒緑色の影が畑の上を乱舞し、毒針が光を帯びた。


「来るぞ!」

 カイが詠唱を開始する。

「《ライト・バースト》!」


 光球が弾け、空が一瞬白く染まる。

 視界を奪われた魔物たちが乱れた軌道で落ちてくる。


「今だ、ミナ!」

「了解っ!」


 ミナが短剣を抜き、影のように走る。

 跳躍しながら回転斬りを放ち、2匹の翼を切り裂いた。

 体が地面に叩きつけられ、砂が舞う。


「残り九!」

 レンが素早く数を確認しながら、背中合わせに構えた。


 次の瞬間、針が飛ぶ。

 ゴルドの盾が火花を散らしてそれを弾いた。

「右側三! ミナ、下がれ!」


「カイ、今だ!」

「わかってる――《ウィンド・ボルト》!」


 風の矢が連続で放たれ、三体のスティンガーフライをまとめて撃ち落とす。

 だがそのうち一匹が、地面から這い上がるように反撃に転じた。


「レン、避けろ!」

 カイの声に合わせ、レンが反射的に前転。

 針が髪をかすめ、地面に突き刺さる。


「ありがとう、助かった!」

「感謝はあとでいい、動け!」


 ミナがレンの前に飛び出し、連続突きを繰り出す。

 刃の軌跡が光を描き、羽根が飛び散った。


「七!」


 ゴルドが盾で残りを押しつぶすように突進。

 地面を蹴って体当たりし、二体を叩き伏せた。


「残り四!」

 カイが息を整え、両手に光を集める。

「《ファイア・ランス》!」


 炎の槍が一直線に走り、上空の群れを貫いた。

 爆ぜる音と共に一匹が燃え落ちる。


「あと三!」

 ミナが叫び、前へ駆ける。

 短剣を交差し、八の字に斬り抜けて二体を同時に切り倒す。


 残る一匹が上昇。

 そのままミナの背後へ回り込もうとした瞬間――


「させるか!」

 レンが踏み込み、ショートソードを振り上げた。

 鋭い音と共に、黒い影が真っ二つに裂けた。



 羽音が止む。

 沈黙の中、煙のような黒い粒が空に溶けていく。


 ゴルドが息を吐く。

「……終わりだ。」


「全員無事、上出来ね。」

 ミナが汗を拭い、笑みを浮かべた。


「初依頼にしては上出来……いや、これなら胸を張って“冒険者”って言えるな。」

 カイが穏やかに言い、魔力の残光が消えていく。


 レンは剣を鞘に戻しながら、小さく笑った。

「やっと……少しは役に立てたかな。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ