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115/123

115.その後

 屋敷を出ると、庭先の空気がひんやりしていた。

 門をくぐって、石畳の小道を四人で歩く。


 腰の短剣が、いつもより少しだけ重く感じた。

 (吸収の《餓影》……循環の《廻影》……二本で一つか)

 無意識に、自分の鞘に指が触れる。


 


 ふと横を見ると、リゼがちらりとこちらを見た。

 その視線は俺ではなく、俺の腰の短剣に落ちる。

 そして、自分の腰の短剣の柄にも、そっと指を置いた。


 「レン」

 小さな声。


 「さっきのエルフの話なんだけど」

 そこで一度だけ言葉を切り、淡々と続ける。

 「こっちの短剣は私が預かっているものだから」


 リゼは、自分の短剣の柄を軽く叩いた。

 「渡してあげたい気持ちが、まったくないわけじゃないけど……ごめん。

  今は、これは私の手元にあるのが正しいと思ってる」


 「……分かってるよ」

 本心からそう答えた。


 少し前を歩いていたルデスも、こちらを振り返る。

 「すまないな、レン」

 いつもの落ち着いた声。

 「そっちの《廻影》は、俺がリゼに“託した”剣だ」


 「気にしてないって」

 肩をすくめる。


 「片割れとはいえ、《餓影》一本だけでも今までなんとかなってきたしさ。

  それに、もう一本リゼからもらった短剣もある」

 視線を、反対側の鞘へ落とす。


 あの時貰った短剣。

 「これ以上望みすぎたら、バチ当たりそうだしな」

 そう言うと、リーナが「ふーん」とだけ声を漏らした。

 ただ一度だけ、俺の腰の二本を見て、すぐ前を向く。

 その横顔は、いつもより少しだけ落ち着いて見えた。


 


◆◇◆◇◆


 


 王都に戻ると、ルデスはすぐ城へ向かうことになった。

 「王城への報告と、さっきの隠居殿への礼状もある、リゼ行くぞ」

 そう言って、馬車の前で俺たちと別れる。


 「レン、今日はもう、あまり難しいことは考えるな」


 「王子が一番難しいこと考えてるくせに」

 リーナがぼそっと突っ込む。


 ルデスは苦笑してから、いつもの調子で続けた。

 「何かあれば、すぐ呼べ。

  刃のことでも、箱のことでもな」

 軽く手を挙げて、城の方へ歩き出していった。


 

 寮へ戻る道は、リーナと2人人。

 だが、特に大きな会話はない。


 「じゃ、今日はもう解散ね」


 いつもの調子でリーナが言い、寮の玄関で手を振る。


 「変なこと考えすぎて、夜眠れないとかはナシだから」


 「気をつけるよ」

 口ではそう言いながら、うまく誤魔化せていないのは自分でも分かる。


 リーナはそれ以上突っ込まず、くるりと踵を返して女子寮の方へ歩いていった。


 


◆◇◆◇◆


 

 自分の部屋に戻る。

 扉を閉めると、外の音が一段階小さくなった。

 ベッドの端に腰を下ろし、深く息を吐く。


 「……どうだった?」

 誰もいない部屋で、腰の短剣に問いかけた。


 声に出しているのか、出していないのか、自分でもよく分からないくらいの小ささで。


 少し間を置いて、頭の奥に声が返ってきた。

 (ふん。まあ、あいつが“生きてた”だけで十分だろ)


 あのエルフのことだと、すぐに分かる。


 (まともな顔して、相変わらずむちゃくちゃなこと考えてやがったが)

 声は、どこか楽しそうでもあった。


 (お前が気にするようなことは、もう済んだ。

  借りるもん借りて、返すもん返した。それだけだ)


 「……そっか」


 何がどう“済んだ”のかは、分からない。


 けれど、刃の声の調子だけで、少しだけ胸のつかえが軽くなる。

 鞘ごと短剣を外し、枕元にそっと置いた。


 (また夜、夢の中で)

 餓影の声が、わずかに低く笑う。

 (どうせ、お前はまたあの箱の中に行くんだろ。

  話す時間なんて、いくらでもある)


 「そんな当たり前みたい…」

 苦笑して、ベッドに横になる。

 天井を見上げているうちに、瞼がじわじわと重くなっていった。


 この短い間で色んなことが起こりすぎた。

 レベルが急激に上がり、気が付かない間に歳もとっていた、そういえばスキルレベルも3になっていた。


 とりあえず竜さえ倒せればーー

 違和感の残る肩を擦りながら…


 そう考えながらもやがて、

 意識は静かに夢の中に沈んでいった。

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