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10.森の昼風と、ひと皿の約束

レンは未だに「ショートウェポンマスター」の使い方発動条件がわかっていません。

そんな中でも鑑定所を使えればスキルを知ることができる。そんな目標を立てながら日々頑張っています。

 リステアの街を抜けて半日。

 道はいつしか獣道に変わり、木々の葉が頭上でやわらかく重なり合う。

 陽光が葉の隙間からこぼれ、土の香りと混じり合っていた。


「このあたりで一息入れるか。」

 カイが肩から荷を降ろすと、背中を伸ばした。

「ここなら魔物も少ねぇし、風も気持ちいい。」

 ミナも頷きながら腰を下ろす。

「森の中って、思ったより静かなんだね。」

 ゴルドが見回しながら低く答えた。

「音が少ない分、気配はよく分かる。安心できる場所だ。」


「じゃあ、昼にしようか。」

 レンが袋を開くと、朝に買った食材が並んでいた。

 キャベチ、じゃがも、トムト、腸詰め、そしてワインの小瓶。

 陽に透かしたトムトが赤く輝く。


「ほんとに作るの?」ミナが目を丸くする。

「当然。」レンは微笑み、火打ち石を手にした。

 カチッと音が響き、火花が舞い、枯れ枝がオレンジに染まる。

 森の空気に、ほのかな煙と油の香りが混ざった。


 手際よく野菜を切る。包丁の刃が木の板を軽く叩き、一定のリズムを刻む。

 キャベチの層がほぐれ、じゃがもを切るたびに土の香りが立ちのぼる。

 ミナが思わず見とれた。

「……なんか、見てるだけで落ち着くね。」


 レンは鍋に油を垂らし、腸詰めを炙った。

 じゅうっと音を立てて香ばしい匂いが広がる。

 それから野菜を加えて炒め、ワインの小瓶を傾ける。

 赤い液体が流れ込み、蒸気が立ちのぼると、甘く深い香りが一気に森を包みこんだ。


 ミナが思わず息をのむ。

「わ……いい匂い。」

「こりゃたまらん。」とカイ。

 ゴルドも目を細め、

「旅の途中でこれだけの匂いを嗅ぐのは久しぶりだ。」


 レンは静かに笑って、木のスプーンで鍋をかき混ぜる。

「父さんが料理苦手でさ。俺がやらないと、食べられなかったんだよ。」

「なるほどな。」カイがうなずく。

「……その経験が、今こうして俺らを救ってるってわけか。」


 コンソメと塩胡椒を加え、キャベチを沈める。

 ふたを閉じ、火の調整をしながら空を見上げた。

 陽の色がやわらかくなり、森の奥から小鳥の声が響く。

 湯気が金色に染まり、スープの香りが風に乗って漂った。


「できた。」

 レンがふたを開けると、豊かな香りが一気に広がった。

 木の器にスープを注ぐ。赤ワインの色がほんのり残り、野菜と腸詰めの彩りが美しい。


 一口すすると、キャベチの甘みとトムトの酸味がほどよく溶け合い、

 じゃがもが口の中でほろりと崩れた。


「……これ、ほんとにうまい。」カイが笑う。

「これ食べながら戦うの、ちょっとやる気出るわ。」

 ミナは目を輝かせながら頷いた。

「お店出せるレベルだよ、これ。」

 ゴルドも静かにうなずく。

「料理も武器の一つだな。」


 レンは少し照れながら笑った。

「……ありがと。」


 昼食を終えたあと、レンは鍋と器を抱えて立ち上がった。

「ちょっと川で洗ってくる。」

 仲間たちが頷くのを背に、森の奥へ歩いていく。


 少し進むと、木々の間を抜けた光が水面で踊っていた。

 川の流れは穏やかで、透明度が高い。

 レンはしゃがみ込み、手を水に浸す。ひんやりとした感触が指先を包む。


 鍋をすすぐたびに水面が揺れ、陽光が反射してきらめいた。

 森の音が遠のき、代わりに川のせせらぎが耳に心地よく響く。

 風が吹くと、木の葉がこすれ合い、小さな影が足元を過ぎていった。


 レンはふと空を見上げた。

 流れる雲のすき間から、光が斜めに差し込む。

「……これから、もっと稼がないとな。」

 その呟きは、川の音に溶けていった。


 遠くでカイたちの笑い声が聞こえる。

 レンは顔を上げ、微笑んだ。

 ――この穏やかな時間が、長く続くことを願いながら。

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― 新着の感想 ―
1ページの分量が少ないため、サクサクと読み進めることが出来ました。 時折出てくる料理のシーンになんだかほっこりしますね… 場面がどんどん切り替わり、話が発展していくので飽きることなく読める作品だなぁと…
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