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六人の竜  作者: 春道
第一章 六竜集傑編
5/16

5.覚悟と別れ

爆裂の余波で舞い上がった土埃の中、三人は岩陰に身を潜めていた。

肩で荒く息をするアズマ、矢を番えたまま傷を押さえるクレア、そして汗に濡れた額の下で目を伏せるゼクス。胸の鼓動がひどくうるさくて、呼吸がうまくできない。


(……もうダメだ)


ゼクスは唇を噛み締めた。周囲には魔導兵。崖の上、背後、林の中からも魔力の気配が殺到している。完全な包囲。


そして崖上には、仮面の男――観察官。余裕の笑みすら見せて、全てを掌に収めるような態度で見下ろしていた。


「君たちの抵抗は見事だった。だが、もう終わりだ」


観察官が手をかざすと、空に巨大な魔方陣が浮かび、紫電を帯びた雷の槍が空に生まれる。


「ゼクス・アイゼン。君が大人しく同行すれば、他の者への処罰は免除される。これは最後の提案だ」


(俺が行けば、アズマもクレアも助かる……)


ゼクスは、手に握られた剣を見つめた。

その刃には泥と血と、そして小さな希望が残っていた。

でも、それを振るうには、もう力が足りない。


(俺一人で、これ以上は無理だ)


全身から力が抜けていく。


「……ゼクス?」


クレアが気づいて、声をかける。

その声には、不安と、祈りと、ほんの少しの恐怖が混じっていた。


アズマも視線を向ける。剣を構えたまま、汗だくの顔でゼクスを見つめていた。


ゼクスはゆっくり立ち上がり、剣を地面に突き立てた。

小さな音が、あたりの沈黙を打ち破る。


「俺が……行くよ」


「はっ!?」


アズマが一歩踏み出した。


「バカ言うな!それで済むわけないだろ!」


「そうよ!そんなの、王国の口約束なんて信用できるわけ……!」


「……でも、行くんだ」


ゼクスは微笑んで見せた。

その顔が、あまりにも静かすぎて、逆に言葉を失わせる。


「二人が……ここで死ぬのはイヤなんだ。俺は……そんなの絶対にイヤだ」


「ゼクス……っ!」


クレアの目に涙が滲む。


アズマが叫ぶ。


「ふざけんな!俺たち三人でここまで来たんだぞ!?今さら一人だけなんて……!」


「だから、今まで一緒にいたからだよ」


ゼクスは二人を交互に見つめた。


「俺にとって、クレアも、アズマも、家族なんだ。だから……守りたいんだよ」


「……」


アズマが奥歯を噛み締めた。


クレアはただ黙って、ゼクスの手をぎゅっと握った。


「ゼクス……約束して」


「……うん?」


「絶対、生きて戻ってきて。じゃないと……私、王都に乗り込んででもあんた連れ戻すから」


「……わかった」


ゼクスはその手を離すことができなかった。離したら、もう戻れない気がして。


「クレア。お前は……やっぱ強いな」


「……当たり前でしょ、何年あんたと一緒に森を駆けてきたと思ってんのよ」


観察官の指示で、魔導兵たちが包囲を緩める。


ゼクスはゆっくりと歩き出す。

背後に、アズマとクレアの声が届く。


「絶対、死ぬなよ!」


「ぜってー戻ってこい、バカゼクス!」


ゼクスは振り返らなかった。

もし振り返ったら、もう前に進めなくなる気がしたから。


その背中は、まだ少年のものだった。

だが、確かにその背に――この星の運命が乗り始めていた。

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