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六人の竜  作者: 春道
第一章 六竜集傑編
4/15

4.観察官

「ようこそ、“時の器”」


川の向こう岸に立つ男は、月明かりを背にしていた。黒の外套に身を包み、その顔の下半分を仮面で隠している。だが仮面の奥、細められた瞳だけが異様な輝きを放っていた。


「お前は……誰だ」


ゼクスが低く問う。アズマもすでに剣を抜き、クレアは矢を一本構えている。


「名乗るほどの者ではないが……あえて言うなら、王国魔導情報局所属、観察官オブザーバーというところだ」


「観察官……?」


「うむ。“時の器”の挙動は、極めて興味深い研究対象だからな。こうして“非公式”に見に来たわけだ」


その声は奇妙に丁寧で、まるで舞台上の役者が観客に語りかけるようだった。


「だが残念だ。王国への同行命令を拒否した時点で、お前たちは反逆者として扱われることになる」


「それで……俺たちを殺しに来たのか?」


ゼクスが睨むと、男は肩をすくめた。


「いや、観察対象を殺す趣味はない。ただ、多少“手荒”な手段を使うかもしれないがね――」




「ふざけるな……!」

アズマが叫ぶ。


「ゼクスを連れて行くなら、私たちを倒してからにして!」


観察官はため息を一つついた。


「では、形式上……戦うとしよう」


「ゼクス、来るぞ」


アズマの声にゼクスは頷き、剣を静かに抜いた。



「ああ――やるしかないな」


クレアも弓を握りしめ、素早く矢を番える。


三人は何も言わずとも、自然に陣形をとる。

森で育った三人の連携は、言葉すら不要だった。


「あんたたち、左は任せたわ」


「了解」


ゼクスは一歩前に出ると、剣を低く構える。

それは村長から叩き込まれた“実戦の型”。

体に馴染んだ動きが、自然と全身に走る。


その瞬間、六つの光の陣が空間に浮かび上がった。

青白い魔法陣が、周囲を照らす。


「散れ!」


彼女は幼い頃から森に入って狩りをしていた。

音のない動き、風の変化、匂い――そういった微細な気配から、敵の位置や動きを読み取るのが得意だった。


クレアの指示と同時に三人は各方向に飛び散った。

直後、観察官の魔法が爆ぜ、足元の岩が砕ける。


「アズマ、右から!」


「了解!」


クレアの矢が風を裂いて放たれる。観察官はその軌道を魔力障壁で弾いた。


「正確な射線だな……ただの田舎娘ではないらしい」


「舐めないで。私、狩りじゃ一度も獲物を逃したことがないの」


クレアが冷静に次の矢を番えながら言う。


一方、ゼクスは観察官の懐に飛び込もうとしていた。

しかし、次の瞬間――


(来る……!)


意識の奥に、何かが“視えた”。


観察官が放つ魔法の軌道――

右斜め上から、鋭角に襲いかかる紫の雷撃。


本能的に身を引き、跳ねるように避けた。


バヂンッ!!


雷撃が彼のいた場所を貫き、地面が焼け焦げた。


「なっ……!?」


アズマとクレアが驚く中、ゼクスは自身も混乱していた。


(今のは……未来? いや、違う。でも……“来る”って分かった)


「“時の器”の能力か……面白い兆しだ」


観察官が不気味に口元を歪めた。


「君の中の“時”が目覚め始めているようだな」


「くそっ、今のうちにっ!」


アズマが一気に斬り込むが、観察官は魔力の波で剣を逸らし、逆に押し返す。


「甘い」


その瞬間、観察官の背後から二人、三人と黒衣の兵が現れた。


「囲まれた……!」


「王都の魔導兵……こんなに早く……!」


いつの間にか周囲を囲まれていた。崖上にも黒衣の影が……


完全に包囲された。


「ゼクス、逃げて!」


「駄目だ! 逃げられる状況じゃない……!」


観察官がゆっくりと手を上げる。


「このまま戦えば、君たちは全滅する。だが、ゼクス・アイゼンが従えば、他の二人は無事で済む」


「……っ」


ゼクスの手が震える。


「俺が行けば……二人は助かるのか」


「保証しよう。私は命令には忠実だ」


アズマが食ってかかる。


「やめろゼクス! そんな取引に乗るな!」


「クレアとアズマは、俺の……大切な……!」


言葉が詰まり、剣を握る手に力が入る。


観察官が一歩踏み出したその瞬間――


「来るぞ!」


アズマの声と同時に、崖上から爆裂魔法が放たれた。

地面が揺れ、視界が揺らぐ。


「っち……!」


ゼクスが目を見開く――また、何かが“視えた”。

迫り来る一撃、それを避ける最適の動き。


(……今だ!)


彼はアズマとクレアの腕を引いて、咄嗟に飛び退く。


爆発が三人の位置を吹き飛ばしたが、なんとか深手は避けた。


「ゼクス……」


「何が起きてるの……?」


「わからない。でも、分かるんだ。“来る”って」


観察官が不敵に微笑む。


「なるほど……成長の兆し。だがまだ未熟だ。次で終わりだな」


そして新たな魔方陣が空を覆い――

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