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六人の竜  作者: 春道
第一章 六竜集傑編
11/16

11.玉座の間にて

王都リオニス・セントラル――


高くそびえる城の一角、重厚な扉の前。

ゼクスはオスカー、シュティア、レーヴとともに静かに呼吸を整えていた。

遠くからは祝祭のざわめきも聞こえるが、この控えの間には張り詰めた空気が支配している。


(とうとう、来ちまったな……)


ゼクスは手のひらの汗を拭った。隣のオスカーはいつもの調子で壁にもたれている。

その奥ではシュティアが真剣な面持ちでうつむき、レーヴは守護者のようにシュティアの隣に控えていた。


「いよいよだな、ゼクス。緊張してるか?」


オスカーが片目を細めてささやく。ゼクスは小さくうなずいた。


「まぁな……でも、もう腹は決まってる」


「それでいいさ」


控えの間の扉がきい、と静かに開いた。

侍従の導きで、四人は玉座の間へと足を踏み入れる。


赤と金の絨毯が奥へと続き、壁には威厳ある王国の紋章と壮麗なタペストリー。

天井から吊るされたシャンデリアが光を放ち、城の最奥――玉座の上には

深紅のマントを羽織った王、アーグノルド・トライアル・リガル・オルディーン三世が静かに佇んでいた。


王の存在感は圧倒的だった。

その眼差しは鋭く、だが測り知れない深さを湛えている。


「……ようこそ、六人の器たちよ」


広間に低く響く声。


「まずは、ここまで無事に辿り着いたことを称えよう。お前たちの覚悟と力を、我が王国は高く評価する」


ゼクスは思わず息を呑んだ。

王の前では、自分の全てが見透かされているような感覚があった。


隣のオスカーは、相変わらず余裕を崩さない。


「恐縮でございます、陛下」


レーヴが膝をつき、シュティアも王女らしく深く頭を下げる。

ゼクスは一瞬戸惑いながらも、ぎこちなく頭を下げた。

オスカーは帽子を取って軽く会釈するだけだった。


王は四人を順に見渡し、その眼光が一瞬だけゼクスに止まった。


「時の器、ゼクス・アイゼン。お前の名はすでに世界中に知れ渡っている。己の選ばれし意味を、もう考え始めているか?」


「……まだ、よく分かりません。でも、後悔はしてません」


ゼクスは正直にそう答えた。


「正直な答えだな。……よい」


王の視線はシュティアへと移る。


「水穿竜の器、シュティア・メルクル。王女として、また器としての務め。覚悟はあるか?」


「もちろんです、陛下。私は私の国と、そしてこの世界のために力を尽くします」


シュティアは堂々と答える。その瞳には迷いがない。


「剣穿竜、レーヴ・ガラクス。お前はすでにその忠誠を見せている。これからも姫を守る覚悟であろうな」


「はい、何があろうとシュティア様をお守りします」


「雷穿竜、オスカー・シュレン。かつて最強の軍人と言われ、今は流浪の身とか。酒場での豪胆さは有名だが……器としての覚悟は?」


「ま、誰が相手でも俺の流儀は変わらない。力がいるなら、惜しまず使わせてもらうさ」


オスカーは気楽そうに笑い、王も少しだけ口元を緩めた。


「よい。これで四人が揃った」


王は玉座の脇に控える宰相に合図し、場の空気が改まる。


「……六人全員が揃うのは、今しばらく待たねばならぬ。だが、儀式と今後については、ここで伝えておこう」


玉座の間の中央、石畳の上に淡い魔法陣が浮かび上がる。


「“封印の儀”――

お前たち六人の竜の器は、世界の原初にして最大の災厄“ポラールナハト”の封印を、再び強めなければならぬ。そのための儀式だ」


魔法陣から立ち上る光が、広間の空気を震わせる。


「封印の儀は、王都から遥か北の果て――“最果ての神殿”で執り行う。そこは星のことわりが交錯する場所、選ばれし六人しか立ち入ることを許されぬ聖域だ」


王の言葉に、四人それぞれが思いを巡らせる。


「だが、儀式は極めて過酷だ。お前たちの魂と肉体、そして竜の力の全てが問われる。

そのため、お前たちにはこの王都で、四年に渡る修行と鍛錬を積んでもらう。

“竜の器”は生まれつき特別な力を宿すが、それはあくまで片鱗に過ぎん。四年の間に、その力を引き出し、儀式に耐えうる存在へと変わるのだ」


ゼクスはふと、自分の中に芽生え始めていた“異質な感覚”を思い出す。

時折、相手の動きが一瞬だけ“先に見える”――そんな予兆のようなもの。


(……あれも、“竜の器”の力ってことなのか)


王がゆっくりと広間を見渡す。


「お前たち自身も、すでに何か感じているだろう。自分の内に、かつてはなかった力の片鱗を――。

だが、その真価を引き出すには修行が不可欠だ。

この四年間、王都の学院や訓練場で、それぞれの資質と力を磨け」


王は続けて、少しだけ声のトーンを落とす。


「……“封印の儀”に失敗すれば、世界は再び混沌の闇に飲み込まれるだろう。その覚悟を持って、道を進め」


空気が重く張り詰める。


その時、宰相が静かに近寄り、玉座の後ろの扉に耳を当てた。


「陛下、間もなく残る二人が到着します」


「そうか……」


王はわずかに頷くと、再び四人を見据えた。


「皆よ、これより六人が一堂に会する。

この刻を境に、お前たちの運命は大きく動き出すのだ」


広間の扉の外、魔力の気配が濃くなっていく。

新たな“器”の到着を前に、ゼクスの胸はざわめきと不安に満たされていく――。

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