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六人の竜  作者: 春道
第一章 六竜集傑編
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1.プロローグ

かつて竜が世界の覇権を握っていた時代。六竜時代。六頭の竜が全ての竜を統治していた。


時穿竜 ゼーレン・ヴァンデル

剣穿竜 ダイ・メテオリート

炎穿竜 アグ・ファニール

水穿竜 モント・ネプトゥーン

雷穿竜 ホロ・ウムラウフ

地穿竜 ホロ・プラネート


そのなか星の心臓であるポラールナハトが目覚めようとしていた。ポラールナハトはこの星の成り立ち。神の星から追放された邪神。自らの姿を隠すために最後の力を振り絞り星を作り上げた。


最初に炎で自らを覆い、その上に地面と水を作り。雷を落とし地表を整えた。追跡者から自らを守るため兵隊も作り上げ、時間という概念すらも作り上げた。


その六個の創造こそが六穿竜の成り立ち。


そして少しずつ力を取り戻し、悠久の時が流れた頃ポラールナハトはついに復活した。


そして星を作るために使った力を自分の中に戻そうとした。それは星の終焉を指す。


しかし、六穿竜がそれを阻む。


ポラールナハトの六つの主要な力を分けられた六穿竜の命と引き換えにポラールナハトは再び封印された。


それにより六穿竜は息を引き取る寸前に自分の力を石に封じ込めた。


しかし、竜の統率を取っていた六穿竜がいなくなったため、竜たちによる戦争が起き、さらに六穿竜とポラールナハトの力によって保たれていた星のバランスが崩れて氷河期が訪れた。


それにより竜は滅び、それから六穿竜の封じ込められた竜石の力によって星は復活し、長い時が流れ人が誕生した。人間の王は唯一生き残っていた長老竜から今までの話を聞き100年ごとに竜石の力を借りてポラールナハトの封印を強化せよと教わった。


その方法は竜石を宿す資格を持つ六人を長老竜が告げ、その六人が力を宿し命と引き換えに封印を強化するというものだった。


「はい、これでお話は終わりよゼクス」


暖炉から薪木が燃えるパチパチという音が凍える空気を縫って耳に温もりを与える。


「えぇ、もう終わりなの。もっと聞きたいよ」


ゼクスと呼ばれた少年は名残惜しそうに母を見つめている。


「ゼクスは本当にこのお話が好きね」


「だって、竜ってかっこいいじゃん!俺もいつか長老竜様に会ってみたいなぁ」


「長老竜様に会えるのは王様と竜石を宿す力を持った竜の器だけよ、諦めなさい」


ゼクスを宥めている母の目は我が子に対する慈愛に溢れている。


「じゃあ俺が竜の器になる!」


凍える寒さのなか小さなログハウスのなかではありふれているが温もりに溢れた家族の時間がゆっくりと流れていた。


「馬鹿なこと言わないの、竜の器はなろうとしてなれるものじゃないのよ」


真っ直ぐな目で荒唐無稽なことを言うゼクスに呆れた様子を見せるが子供らしい純粋な夢に笑みが溢れる。


「それに竜の器になった人は命を捧げなければいけないのは知ってるでしょ」


ゼクスは首を傾げながらうーんと声にならない声を出し考え込む。


「長老竜様には会いたいけど死んじゃうのはやだな」


「そうでしょ、ゼクスが犠牲になったら私が長老竜を殺しちゃうかも。あなたがいない世界には用なんてないもの」


母がゼクスを優しく強く抱きしめる。


ゼクスもぎゅっと目を瞑りながら嬉しそうに抱きしめ返す。


「今日はもう遅いわ、寝ましょう。おやすみなさい」


「わかったよ、おやすみお母さん」


ここだけ時間の流れが止まったような家の中でこんな日々がずっと続けばいいと二人は思う。




----------10年後


「おはよう母さん。母さんが亡くなってからもう10年も経ったよ、信じられないよな」


一輪の花が添えられた墓石に向かってしゃがみながらゼクスは話しかける。


「あんなに小さかった俺がもう16歳だぜ。母さんの背だってとっくに抜かしちまったよ」


母さんは10年前の大寒波で元々体が弱かったこともあり病が治らずそのまま帰らぬ人となってしまった。


それからはここアルバ村の村長に引き取られ今まで育ててもらっている。


10年経った今でも母が死んだ悲しみは残り続けている。だが、そんな気持ちでは母さんも浮かばれない。


母さんが見ていたらきっといつまでクヨクヨしてんのとケツを引っ叩かれてしまうだろう。

母さんはそういう人だーー


「おーい!ゼクス!」


遠くから俺を呼ぶ声が聞こえる。振り返ると二人の男女が手を振りながらこちらに歩いてきていた。


幼馴染のアズマとクレアだ。

馬鹿みたいにでかい声を上げながら大きく手を振り笑顔でアズマが近づいてくる。その横でクレアも片耳をアズマの大声から守るために塞ぎながら手を振っている。


アズマとクレアとは幼少期からの付き合いで昔から今までずっと行動を共にしている。


「ここにいたのか、探したぜ全く」


「いつもはもっと朝早くに墓参りに行ってるのに今日は遅いのね」


「トムに手伝いを頼まれてたんだよ。ったく、あの親父朝からこき使いやがって」


おかげさまで肩と腰がバキバキになってしまった。


「村長は人使いが荒いからなー」


アズマがそりゃ大変だと苦笑いしている。


「なんてったって今日は六竜祭なんだから仕方ないわよ。人手が足りないのよ」


「俺たちも朝から動きっぱなしだよ。お前はどーせサボってるだろうと思って探しに来たけど見当が外れたな」


そう、今日は百年に一度の六竜祭なのだ。

国全体がお祭り騒ぎの中、このアルバ村も例に漏れず屋台や様々な催し物がでておりとても賑やかだ。お祭りムード自体は楽しいが色々な準備に駆り出されるのは面倒くさい。お陰で朝から疲労困憊だ。


「準備も一旦落ち着いたことだし、祭りを見て回ろうぜ!」


村一番のお祭り男であるアズマは村の賑やかな雰囲気に居ても立っても居られないのであろう。いち早く祭りを見てまわりたそうだ。


「そうだな、いくか。じゃあね母さん、六竜祭を見て回ってくるよ。また明日」


「私たちもお母さんに挨拶していい?」


「ああ、もちろん」


三人で母親に挨拶をし、墓を後にしたーー


三人で並んで手を合わせた後、賑わいへと足を向ける。



アルバ村の六竜祭は、村で一番の大きな行事だった。

百年に一度の「竜の器の啓示」が行われる日。村人たちは皆、屋台や出し物、音楽や舞に心を弾ませていた。


「うおっ!この肉串、うまっ!!」

アズマが豪快にかぶりつく。


「クレア、その髪飾り似合ってるじゃん」

ゼクスが何気なく言えば、クレアは少し赤面してそっぽを向いた。


「……あんた、ほんとそういうの無自覚なのよね」


「え?何が?」


「ほらまた!もういいっ」


そんなやりとりに笑いながら、三人は祭りを見て回る。

だが、広場中央の噴水の周囲に人々が集まり始めると、次第に雰囲気が変わっていった。



「そろそろ……来るな」


アズマが言った。

祭り最大の儀式――「竜の器の啓示」の時間が迫っていた。


「ねぇゼクス、“竜の器の啓示”って……本当に実在するのかな?」

クレアが少しだけ不安げに問う。


「するさ。母さんが昔言ってた。星を守るため、百年ごとに六人が選ばれるんだって」


「でも、どうやって選ばれるの?」


ゼクスは噴水の中央に浮かび始めた光を見つめながら答える。


「六つの竜石が、星の命脈に呼応して共鳴するらしい。

そのとき、六人の魂が竜石と繋がって……王都の長老竜様がいる“竜石の間”に、名前と出身地が映し出されるんだ。

それを、光霊映像って魔法で、世界中に発表するのさ」


「……すごい、まるで伝説みたい」


アルバ村の中心、石造りの噴水広場は今までにない賑わいを見せていた。

屋台の明かりが揺れ、笛と太鼓の音が空に響く。

百年に一度の祭――六竜祭。その中心儀式、「竜の器の啓示」が、ついに始まる。


空に舞う光霊粒子がひとつに集まり、空間に魔法的映像――光霊映像が浮かび上がる。

王都の王宮玉座に座す、威厳ある老王――アーグノルド・トライアル・リガル・オルディーン三世が姿を現す。


「我が名はアーグノルド三世。

いまここに、竜石の啓示を受けし六人の名を、世界に向けて告げる。

これは神々に抗いし竜の魂の継承――星の運命を担う者たちの名である。」


空気が凍るような静寂。

六つの紋章が光の柱となって空に浮かぶ――炎、水、雷、地、剣、時。



そう。六竜祭とは百年に一度、世界の崩壊を止めるため選ばれる六人の竜、即ちそれは世界のため自分の命を犠牲にすることを指すのだが、、、


その器が発表される祭りなのである。


「炎穿竜 アグ・ファニールの器。

名は――ハーデンベルギア。年齢17。出身、〈焔都ファルドナイト〉(炎の国)」


場面は変わり、別の都市。紫の法衣を纏った白髪の青年が、静かにその名を聞いて口元を歪めた。


眼下にはローブを着た何百人もの人が阿鼻叫喚している。


「鎮まれ--、迷える民よ。今を持って世界は変革の時だ」


白髪の青年がローブを法衣を翻すと何百人の教徒たちは怒号をあげ、白髪の青年を崇めていた。


「水穿竜 モント・ネプトゥーンの器。

名は――シュティア・メルクル。年齢16。出身、〈水都リュミエール〉(水の国)」


王家の紋章が掲げられた宮殿。その中央に立つ、気品と清廉さを纏う少女の姿が映し出される。


「雷穿竜 ホロ・ウムラウフの器。

名は――オスカー・シュレン。年齢35。出身、〈雷都グランフォルテ〉(雷の国)」


薄汚れた酒場の一角。酔った金髪の傭兵がレイピアの柄で椅子を突き上げ、笑いながら呟いた。


「ったく……人生は俺を飽きさせてくれねえな……」


「今日は俺の奢りだ!くたばるまで飲め!」


金髪の傭兵が酒場に響かすように言うと、客であろう男たちの歓喜の乾杯が鳴った。


「地穿竜 ホロ・プラネートの器。

名は――シュテルン・ヒンメル。年齢22。出身、〈教都フェルザリア〉(地の国)」


神殿のステンドグラスから差す光の中、金髪の美しいシスターが微笑んでいる。その姿はまさに聖女。


「剣穿竜 ダイ・メテオリートの器。

名は――レーヴ・ガラクス。年齢28。出身、〈剣都クレナイ〉(剣の国)」


静謐な訓練場。青い外套をなびかせ、騎士は無言で膝をつき、深く頭を垂れていた。その瞳の先にはただ一人、姫の姿があった。



そして最後――六つ目の光がゆっくりと輝きを増し、噴水広場の空に、王の声が響き渡る。


「時穿竜 ゼーレン・ヴァンデルの器。

名は――ゼクス・アイゼン。年齢16。出身、〈アルバ村〉(時の国・辺境領)」


その瞬間、広場にざわめきが走った。


「……ゼクス?」

「おい、今、ゼクスって言ったか?」


クレアとアズマが、呆然とした表情でゼクスを見つめる。

ゼクス自身はその場に立ち尽くし、空に浮かぶ自分の名前を信じられないように見上げていた。


(……俺が、竜の器?)


胸の奥にあった、少年のころの夢が、現実と重なり始める。

だが同時に、それがただの“選ばれし者”という言葉では済まない重さを、彼はまだ知らなかった――


そして、運命の歯車が音を立てて回り始めた。

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