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学校の王子様に可愛いと言い続けたら、学校一の美少女になっていた  作者: 本町かまくら
五章 彼女のぬくもりに、彼は思う

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第四十話


「話があるんだ、父さん」


 俺が言うと、父さんは一瞬驚いたように目を見開いた。

 そしてすぐに、弱弱しい笑みを見せる。


「ど、どうしたんだよそんな構えて。林太郎にしては珍しいな」


「そうだな。俺もずっと話さないんじゃないかって思ってたよ。――けど、背中押してもらったから」


 父さんから決して目をそらさない。 

 一度そらしてしまえば、そこで終わりな気がしたから。

 いつもと違う俺の雰囲気を感じ取ったのか、父さんの笑みがボロボロと顔から零れ落ちる。


 一度小さく息を吐いて、俺は踏み込んだ。



「父さん、転勤するんだってな」



「っ! ど、どうしてそれを……」


「真理恵さんから聞いたんだよ。しかも自分一人だけ行って、真理恵さんに来てもらうんだろ?」


「そ、それは……」


「誤魔化さなくていい。俺はもう知ってるから」


 きっぱりと告げる。

 すると父さんは申し訳なさそうに俯いた。


「す、すまん」


「いいよ、別に」


 別に構わない。

 きっとそう思ってる。

 ……でも、そうやって今まで通り済ませたらダメだ。

 父さんも色々あるんだって、父さんに期待するのをやめたら本当に終わりだ。

 …………だから、俺はさらに踏み込む。

 本音を、ちゃんと言う。


「でもさ、おかしいだろやっぱり。俺たちに何の相談もなしで、勝手に決めるなんてさ」


 言うんだ、全部。

 これからのために。


「俺たち、家族だよな? 父さんの気持ち、完全にわからないとは言わないよ。……けどさ、俺たちだってまだ子供だ。特に海なんて、まだ小四なんだぞ」


「っ……」


「……母さんに似てきてるのはわかる。父さんが母さんを失ったショックも、理解できる。けどさ! 父さんは俺たちにとってたった一人の父親なんだよ!!! ……たった一人の“親”なんだよ」


「林太郎……」


 俺はさらに続ける。


「頼むから俺たちと真正面から向き合ってくれ。俺だってちゃんと向き合う。もう目を背けない。俺は母さんがいなくなってからギクシャクしたこの家族を、前みたいに笑い溢れるもんにしたいんだ」


 俺の言葉に、父さんは驚いたように目を見開き、そして拳をぎゅっと握る。

 その顔は弱弱しく、短い皺から深い皺までたくさん刻まれていた。

 口を、目を、鼻を少し動かすだけでくしゃっとなってしまう。

 眉尻を下げた父さんがぽつりぽつりと言葉を口にし始めた。


「……ごめんな、林太郎。林太郎にそんなこと言わせて。俺は……父さん失格だ」


 父さんが少し間を置いて、再び話し始める。


「……俺も、ちゃんと家族に向き合いたい。向き合っていきたいと思ってるんだ。林太郎のことも、海のことも。俺は二人の親だし……母さんが残してくれた大切な贈り物だと思ってるから」


 父さんが恐る恐る、言葉を紡いでいく。


「本当にすまない。父さんは林太郎と海の親なのに……すまない」


「父さん……」


「でも、まだ受け入れられてないんだ。……母さんを亡くしたことが。こんなに弱い父さんで、ごめん。本当にごめんな」


 消え入りそうな声で父さんは言った。

 父さんがこのままでいいと思っているわけがないなんて、そんなの知っていた。

 父さんはこんなんだけど、いつも俺たちのことを最優先に考えてくれている。

 疲れて仕事から帰ってきて、隠れるように家の掃除をしていたり、起こさないようにそっと海が寝ているか確認し、布団をかけてあげたり。

 

 そんな父さんのこと、ちゃんと知っている。 

 だから俺は、今の父さんになんて声をかければいいのか分からなくなってしまった。

 もっと責めるつもりだった。なのに、理解できてしまうから。


「……………」


「……………」


 重い沈黙が、リビングに横たわる。

 どちらが言葉を発するか、探り合うような状況が続いていた――そのとき。



「大丈夫だよ、私は」



「「っ⁉」」


 ドアがゆっくりと開く。


「海……」


 海はリビングに入って来ると、父さんの横に立った。

 父さんが驚いたように目を見開く。

 海は父さんを見上げて、優しく話し始めた。


「お母さんのこと、忘れられないのわかる。全部はわからないけど、お父さんが辛いってことはわかるよ、私」


 海はほんのり頬を緩ませて続ける。


「だからさ、ゆっくり時間をかけて、三人で頑張ろう? みんなで行きたい場所決まってるんだもん! だから絶対、大丈夫だよ!」


「「ッ!!!!!」」


 俺と父さんは、変に色んな事を知って、考えることができるから難しく考えすぎていたのかもしれない。

 答えは、もっと単純なところにあったんだ。

 それこそ、俺たちの中で一番小さな子が簡単にわかってしまうくらい。

 

 ……いや、それは違うな。

 海だからこそ分かったんだ。

 純粋に藤田家を見ていた海だからこそ、導き出せたんだ。


「海っ! ごめんなぁ……ごめんなぁ! これから父さん、いっぱい父さんするから……!!!」


「うん、お父さんしてね!」


「あぁ、あぁ……!!!」


 父さんがボロボロと大粒の涙をこぼす。

 抱き合う父さんと海。

 俺はその二人に混ざって、三人で抱き合った。


 藤田家の人間は、男が情けないのかもしれない。

 母さんがたくましかったように、海がしっかりしている。


 全く恥ずかしい限りだけど、結局三人で……いや、四人で一つの俺たちだから。

 これから始めよう。これから再開しよう。


 だって俺たちは、死ぬまで一生“家族”なんだから。


 逃げながらも、衝突しながらも。

 結局は乗り越えていかなければいけない。


 そんな当たり前のことに気が付いた、夏の夜。

 外にも負けないくらい、俺たちはあったかかった。



 

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