雪山を登るような仕事の道のり
男はスマホのバイブ音で目が覚めた。
ーーブー、ブー。
「ん?……あいたたた」
背中が痛い。体が鉛のように重たい。
体の異常を認識していくとぼやけた視界がだんだんとクリアになっていった。
「んだよこんな時間に」
窓から差し込む生暖かい光が目にかかり、肌が震える冷気がカーテンを揺らす。
「……頭痛い……やべぇ、風邪引いたかも」
男は上から抑えらているかのように重たい体に鞭打ち起きあがろうとするとズキリと脳を揺らす痛みと喉の違和感を感じる。
雪山のような真冬にドアを開けっぱで寝てしまった男のいる室内は0度を下回る極寒。
「はぁ……寝落ちしたのか……最悪」
男は自らの服装を見て納得した。着崩しているシワが寄っていた黒曜石のように真っ黒いスーツ、少し臭い加齢臭が漂う。
床に落ちたスマホを見つけ昨日のことを思い出し、大きくため息をした。
スマホの待ち受け画面に映る通知の数々。電話やメールが50件を超えていたのだ。
それは自分の勤めるブラック企業の上司から。
男はただでさえ青白い肌がさらに真っ青になる。スマホのロック画面を開きメッセージを開く。
「あ……終わった」
遅刻をしてしまった。
通知は罵詈雑言の嵐、留守電も怒鳴り声ばかり。
「ああ……悪夢だ」
怒り狂う上司に謝罪の電話にブリキ人形のように鈍い体で赴く職場。
男に待ち受けるは降り積もった雪山を歩くように冷たく、足取り重たい歩みである。