第1話 ユニオン・ジャックノーツ
ユニオン・ジャックノーツ。
俺は貴族の家ジャックノーツ家の養子だ。
何不自由のない生活を送っている。
父にも母にも愛されて、気の合う友人もいるのだから。
けれど、昔はそうではなかった。
幼い事は、ひどい環境だった。
俺は、邪神の生まれ変わりと言われていて、周囲の者達から虐められていたのだ。
両親には愛されていたが、一緒に遊べるような子供はどこにもいなかった。
原因は俺の見た目にある。
おとぎ話に伝えられていた邪神の見た目に似ていた、だから虐められていたのだ。
けれど、見た目が似ているから邪神だというのはただの噂に過ぎない。
確証のない話だけが独り歩きし、人々の思い込みは大きくなっていった。
そして、不安に駆られた人々の手によって、両親が殺され、住んでいる村も焼かれてしまったのだった。
『お前さえいなければこの村は、平和だったのに!』
『お前なんか生まれてこなければよかったのだ!』
焼ける村の中で、逃げようとしている俺の足を掴む者達。
俺も道連れにして焼け死のうと考えていた村人達の声が、成長した今でも忘れられない。
俺はただ、おとぎ話に言い伝えられていた邪神の容姿と特徴が似ているだけだ。
邪神そのものではないというのに。
どうしてあんな目にあわなければならかかったのか。
それでも、俺のせいで親しい人達が亡くなった事は事実だったから、
『俺は生きてちゃいけない人間なのかな?』
その時は死のうと思っていた。
そもそも生きるだけの理由が見つからなかったし、生きていくだけの力もなかったから。
崖から身を投げようとしたのだけれど、近くを通りかかった人達が止めてくれたのだ。
それが、俺の今の両親だった。
彼等は俺の話を聞いて涙ぐんだ。
『よく生き残ったわね。せっかく助かった命なんだから、生きなくてはだめよ』
『両親がいないなら、独りじゃ寂しいだろう。俺達の所に来なさい』
優しい笑みを浮かべる母親。フロンターレ・ジャックノーツ。
温かい手を差し伸べてくれた父親。アルバ・ジャックノーツ。
彼等は、孤児になってしまった俺を引き取って、育ててくれた。
邪神と見た目が似ている事なんて気にしない、温かい本当の家族だった。
そんな優しい彼等は一つの領地を治める者だった。
貴族で、それなりの格式の家を持つ者。
だから、治めている領地の整備をしたり、土地の開拓をしたりしなければならない。
けれど、ジャックノーツ家は当時、跡取りの問題に困っていたから、ひょっとしたら俺を迎えいれた事には、小さな打算があったかもしれない。
それでも、俺が与えられたのは紛れもない本物の愛情だった。
毎年、誕生日には贈り物をかかさずくれるし、病気になったときは仕事を放り出して俺の看病をしてくれた。
だから俺も、そんな優しい人達の事が好きになり、彼らの役に立とうと思っていたのだ。
ずっとこの家にいて、ジャックノーツ家を守っていこうと、そう。