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証拠(仮題)  作者: 戌山卓
羽田涙
8/24

涙 2

 裕太郎とは少し変わった出合い方だったのをよく覚えている。正直雑に言ったら社内ナンパ、と言ってしまっていいほど軽いものだったのかもしれない。


 初めて会話したのは、仮入館証を発行する手続きのときだった。

 最初はただの手続きをしに来た社員だと思ってたけど、ずっと私のことをねっとりいやらしい目で見つめてきたのを覚えている。カウンターから覗き見る姿勢で何かを探っていたような目つき、本当に気持ち悪かった。最初のイメージはこんな感じで最悪に近い印象だった。


 その後、社内メールで連絡が来た。ただ手続きをしただけなのにお礼を言ってくる変な人……いや、律儀な人と言うべきかな。そこから、受付前を通るたびに声を掛けてくるようになった……やっぱり変な人。声を掛ける以外には何も悪いことをしてこなかった。なんだかんだ色々警戒してたけど、むしろ社交的でいい人なのかなって思う瞬間が多くなっていった。


 ある日、退勤した後、最寄り駅まで歩いているときに後ろから走って駆けつけてくる人がいた。誰かと思えば、裕太郎だった。


「こんばんは。白羽ハクバさん。今、帰りですか?」

「あ…こんばんは。あの…そうですね、はい」


 なんだよ、この人。面倒くさいけど同じビルの人だしどうしよう。ていうか、ビルでよく声掛けてくれる人だってのはわかるんだけど、名前なんだっけ….


「白羽さん、嫌なら遠慮なく断っていい、ちょっとこのあと一杯だけ付き合ってくれませんか?」

「え?」


 コミュ障の私だから、断っても良かった。でも、薄給な派遣社員の私にとっては、ご飯とお酒を奢ってもらえるなら何でもいいかな、って思って付いて行ってしまった。これが蒲焼カバヤキ裕太郎と初めて食事に行くきっかけとなった。


 裕太郎は話してみるとすごく誠実で会話も弾んだのを覚えてる。コミュニケーション能力っていうと大げさだけど、人と打ち解けるのがいつも難しい私には、この日は意外だった。楽しく食事してその後はサラっと駅で別れた。男性っていつも食事の後はあの手この手で次のお店に行こうとしつこく誘ってくる人や、お酒を沢山飲ませようとしてくる人ばかりのイメージだったから、そのときはすごく意外に感じた。


 その日以降、気が向いたら、裕太郎と食事に行くようになった。


 男性から食事を誘われて、美味しいごはんとお酒をご馳走になったりと、私はだいぶ幸せなところまで来たなと最近は思う。昔を思い返すと全く想像ができない。今の私からは昔のうつ状態であった自分を見出すことができないほど、昔はひどかったことを思い出す。

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