裕太郎 3
涙には一目会ったときから、惹かれていたと言わざるを得ない。仮の入館証を申請したい、と受付に行ったとき、その対応をしてくれたのが彼女だった。端正で小顔。にもかかわらずぱっちりとした大きな目、おそらく化粧なのだろうが、ほんのりと薄く紅潮した頬。少し高めの溌剌とした声で、対応してくれたのを今でもよく覚えている。
人間関係にドライな職場に移ってきてから、はや3年。自分の中で何か欲していたのかもしれない。涙は覚えていないのかもしれないが、そのときから、彼女のことをもっと知りたいと感じていた。少しカウンターに近づき、内側のパソコン周辺を見ると社員証がチラリと見えた。「白羽涙」とそこには書かれていた。
仮の入館証を発行した翌日、社員検索データベースで彼女の社内連絡先を探してみた。うちのビルの受付を運営しているのは別会社だが、あくまで同じグループ内の関係会社。彼女の名前と社内のEメールアドレスもデータベースで見つけることができた。普通こんなことはあり得ないのだが、玉砕覚悟で昨日のお礼をメールでしてみることに。
「白羽様
いつもお世話になっております。
昨日は社員証を忘れて出社してしまい、途方にくれていたところ、助けていただき大変ありがとうございました。
白羽様の迅速な対応のおかげでプロジェクトの重要なミーティングにも間に合うことができました。
朝一からご迷惑をお掛けしてしまい、情けないところを見せてしまいましたが、ありがとうございました。
また、何か困ったときにはお声がけさせていただけると大変幸いです。
恐れ入りますが、どうぞよろしくお願い致します。
蒲焼」
もちろん昨日の朝にプロジェクトの重要なミーティングなんてものは存在しない。せっかく感謝を述べるのだから、多少はありがたかったことを強調するだけの方便だ。うまく何かに引っかかってほしいものである。




