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証拠(仮題)  作者: 戌山卓
五月めぐみ
20/24

めぐみ 4

 会ったときのルイは、たしかに昔と変わらない涙だったけれど、何か違った。明らかに色々な事情が彼女の周りを覆っていることを会った時の表情で直感した。


「涙!元気だった~~?」

「え、あの……はい、元気でした……」


 あきらかに昔とは異なる。昔は若干の影のあるオーラをマトいつつも、そこには何か神秘的で蠱惑コワク的な愛くるしさも兼ね備えていた涙。でも今は完全にかたく心を閉ざした負のオーラを全面に出した涙がそこにいる。気休めかもしれないが、少しでも何か助けにでもなれればと思い言葉を発する。


「涙、何か今苦しんでる?昔と違って顔も疲れてるみたいだし……何か相談乗れることなら何でも言ってね」


 私が予約していたカフェでは人目もあることだし、私の最近の話を中心にさせてもらった。彼女自身にもだんだん昔のような笑顔が少しずつ戻ってくるのを感じる。でも、彼女の状況を察するに、少し場所を変えて、話を聞いてみることにした。


 カフェから出て少し歩く。近くにある広い公園を見つけ、空いたベンチに二人で座る。涙に最近の近況を聞いてみることにした。


 彼女もまたブラック企業のような過労死寸前の環境で働いているらしい。夫とは違うのが、残業代も出ない模様。

 話を聞きながら彼女の背中に手をやる。彼女はうつむきつつ、今のうつ状態にある自分を嘆く。私は彼女に寄り添い優しい言葉をかける。


 心のダムが決壊してしまったのか、彼女の涙が止まることなく、しばらくは公園のベンチに留まることをした。少し時間をおいて、私はタクシーを呼んで彼女を自宅まで送ることとした。


 彼女のアパート前にタクシーを止め、ふらふらと歩く涙を支えながら、玄関ドアまで付き添ってやる。ただ、今の精神状態の彼女を放置するのはひどく心配になり、もうしばらく一緒にいた方がよいと思った。


「ねぇ、少しだけ部屋で話してもいい?せっかくここまで来たんだし」

「え…いや、困ります。めぐみさん、今部屋はすごく汚くて……」

「いやいや、女同士なんだし気にしなくていいって!ほら、はやくドア開けて中入ろ」


 当惑する彼女だったが、私の圧に耐えかねたのか、カバンから鍵を出して玄関のドアを開ける。


 彼女の部屋に入ってみると物が散在しており、(彼女の言う通り)汚かった。足の踏み場がないほどでないが、明らかに自分の生活を維持できないほど、精神的に病んでしまっているらしい。このときだったのかもしれない、私の中でこの子を助けなくては、と感じたのは。


 それから毎週のように彼女の部屋へ通い、体調や精神面でのケアをできる限りすることにした。彼女と一緒に過ごしていると、昔バイト先でずっとおしゃべりしながら待機時間、休憩時間を過ごしていたのを思い出す。部屋にいるときは、一緒に料理をしたり、一緒に映画を観たり、彼女のオタク趣味について教えてもらったり。私の家庭内の愚痴を聞いてもらったり。そして、いつの間にか一緒のベッドで寝るようになっていった。


 私達はどういう関係なのだろう。親子や姉妹ではないはず、でも、レズビアンというほどそういう嗜好が強いわけでもない。一緒にいるとこんなにも落ち着く。パートナー、そんな言葉がしっくりくる。二人だけの時間をもっと過ごしたい、ずっとこのままでいたい。そんな思いに駆られる自分がいた。

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