始まりの街
「きたーーーーーーっ!」
ただ家と会社を往復する日々。「今日も残業か・・・」なんて思いながら横断歩道の信号待ちをしていたら、「キャー!」って悲鳴が聞こえる。ん?なんだ?と振り返ると同時に
ドンッ!
なんだかわからず車道に投げ出された俺は、そのまま意識を失った。
気が付いた時には、真っ白い空間の中にいた。
(これはもしかして、はやりのあれか?)
しばらく待っていたら、空間が歪みだし景色が変わる。
そして、見知らぬ風景。どこか小高い丘の上、遠くに城塞で囲まれた街が見える。
記憶を辿ってみるも、こんなところに思い当たる処はない。
(あれじゃん、きっとあれじゃん、異世界ってやつじゃない?)
とりあえず街に行ってみることにして、歩き出した。
近くに見えた気がしたけれど、意外と遠い。
5・6時間は歩いた頃にようやく城門っぽい所にたどり着いた。
途中、商人っぽい荷馬車に何台か追い越されたが、御者が明らかに地球人のそれとは違う。
中東の民族衣装っぽいのに、緑のサラサラヘアー
(絶対、異世界!)
城門に並んでる人達の後ろに、俺も並んでみる。
街に入るのに、お金や身分証明書みたいなの必要かな?とか思うけど
(なんとかなるでしょ?)
しばらく並んで、ようやく俺の順番がきた。
「*****」
(うん、知ってる。何言ってるか、わからない)
「山中良太 28歳 職業、社畜 多分異世界からやって来てるのだが、言葉わかる人いる?」
「*****?」
「***********」
「**********」
「*******」
「**********」
なんだか、あわてて一人が中に走っていった。残った一人が俺の腕をつかんで歩き出す。
何処に行くのか不安だけど、言葉通じないみたいだか、ここはあきらめて素直に従う。
窓もない部屋に放り込まれてから、数分。
ガチャ
上役っぽいのが現れた。
「*****?*******?」
「何言ってるか分からないけど、何て言えばいいのかな・・・」
とりあえずジェスチャーで通じるのか試そうと立ち上がったら
ドスッ!
「うっ・・・」
殴られた・・・・
いや、いや、いや・・・
「いきなりなんだよ!殴ることないだろ!!」
ドスッ!
「うっ・・・」
(怒った口調がいけなかったのか?)
「いきなり殴らなくても、お互い言葉が通じないなら意思の疎通を試みるとかあるじゃん」
ドスッ!ドスッ!
「う、う・・・」
この野郎、顔が笑ってやがる・・・どうしろってんだ、この無理ゲー!チュートリアルが始まりませんよ!
ガチャ
さらに、3人やってきて
「****?」
「*****!」
「****!」
「***!!」
で、何言ってんの?って思ってたら、二人が俺に近づいてきて取り押さえられる。
最初にいた奴が、俺を物色はじめて服や腕時計、靴まで・・・全裸にされた・・・
「ちょっと、さすがにそれはないんじゃない?」
ボロキレをこちらに投げながら、みんな出て行った
(これ着ろってゆうのか・・・)
さすがに、マッパは嫌だから着てみる。2mちょっとの布の真ん中に穴が空いてあって何か所かに紐が付いてる。この穴に頭を突っ込んで、この紐でむすぶのか?
まんま奴隷じゃん・・・
「異世界ですよ!勇者かもしれないですよ!この国滅ぼしたりしちゃいますよ!助けろよーーー!!」
なんて叫んでたら、誰か駆け込んできた
(おっ、さすがお助けキャラがいるんだな!)
ドスッドスッ!!
殴るだけ殴って出ていきやがった・・・、静かにしろってことか、初めて意思の疎通ができたな・・・グスッ
それから、地下牢みたいなところに連れていかれて、クッソまずいスープを出された。
腹も減ってたから、飲んだけどさ・・・
キュルルルルルrって、お腹がやばい・・・トイレ、トイレ・・・
部屋の隅にある、あの桶・・・あれか?・・・あれがそうなのか?尊厳はどうする・・・
お腹抑えながら、葛藤すること数分。
部屋の入り口の前に、垂れ流してやってぜ!
どこでやっても臭うのはかわらないからな!意趣返しだ!!
次に部屋に入ってきた時に・・・
「ふふふふふ、ふははははははははは!!」
笑い続けてたら、また駆け込んできた
ズルッ!べちゃっ!!
「はははははははは、糞まみれになりやがった!ふはははははあ」
ドスッ!ドスッ!ガッ!ガッ!ドスッ!
ブチ切れて、やりたい放題されたけど、気分爽快だぜ!
それから2週間近く、ただ寝転がってる日々を過ごしていたら、さらに偉そうなやつらがやって来て、頭をさげている。
「*******」
「********?」
「******!!」
何言ってるか解らないし・・・
なんか王女様っぽいのもいるのを見つけて、そいつの目をみながら
「ここからだせよ、ばーか!」
って、言ってやったら、急に青い顔をして周りと相談し始めた。
言葉が通じないって不便だな?とか思ってたら、奪われた服とか諸々をもってきた。
お?返してくれるのか?つか、俺のだし・・・みんな頭を下げたままなので、とりあえず服を着てみる。
もしかしたら、このまま出ていけるのか?と思い、ドキドキしながら外に向かって歩き出す。
王女様っぽい奴の横を通り抜けようとした時に、袖を掴まれた。また殴られるのか?と身構えたが、青い顔した王女様が泣きながら何か訴えている。
言葉わからないのだもの、どうしようもないよね?
手を振り切って、2週間ぶりの外に出てみたのだが・・・なんだ?
活気のあった街が、ドヨーーンとした雰囲気に包まれている。何があった?
後からついてきていた、王女様っぽいのと騎士さんぽいのに振り返ると、涙を流しながら頭を下げている。
ん?意味わからない・・・とか思っていると、最初に俺を殴った奴と、糞にまみれた兵士っぽいのが今にも死にそうな感じで土下座をしている。
「*******」
「**********」
「ごめん、何言ってるかわかんないし・・・」
「「ヒィッ!!」」
いやいや、何も言ってないし・・・
もしかして体調わるいの俺が何かしたと思ってるとか?
はっ!っとして俺は走り出した。
「***!」
後で騎士っぽいのが叫んでるけど、今は無視。適当な民家に入ってみる。家族そろって寝込んでいる・・・
手当たり次第に、適当に確認してみれば、みんな寝込んでいる。
なるほど、俺の呪いだと思っているのか・・・
これ、あれじゃない?21世紀の細菌、異世界に持ち込んじゃったら免疫なくて、滅びました!
うわぁー、変なタイトル浮かんじゃったよ・・・
どうしよう?なんかこっちを見てる女王様と騎士様・・・助けてくれって訴えてる目でみてるよね・・・絶対
とりあえず笑ってみるか
「ふははははははははははははははははははは!」
おぉー、更に顔が青くなっていく女王様と騎士様、反応が面白い
んーさすがにこのまま、この街をでるのは引き留められそうだな・・・それっぽい事してやったってわかれば、街を出してくれるかな?
とりあえず、書くものよこせや!って身振り手振りで伝えてみる。騎士様が走り出し、少し待ってると羽ペンみたいの持ってきた。とりあえずこれで誤魔化すか!
羽ペンを受け取ると、家の扉に呪文を書いていく。
早く良くなってね!
治るといいね!
最初に殴ったのお前たちだよ!!
この恨み晴らさでおくべきか!
王女様かわいいね!!
・・・・etc.etc.
適当に書いて回ってると、王女様と騎士様が涙ながらに喜んでるのがわかる。でも、これで治ったら、医者いらないよ・・・これで、この街を出ていけそうな雰囲気が出来上がったな。
とりあえず右手を王女様に出してみる
コテッ?って今、音なったよね?って感じで首を傾けている王女様に、もう一度右手のひらを差し出してみる。王女様は困った顔をしていたけれど、さすが騎士様!ジャラッっと音を出しながら、袋を俺の手に渡してきた。できる騎士は違うな!って関心しながら、あとは馬車が必要か?どうやって伝えようか・・・
手にもっている羽ペンで、近くの扉に馬車の絵を描いていく。ちょっと大きめで、途中で寝れるように箱馬車っぽく、サスペンションも書いてみよう!って書き終わってから、王女様と騎士様に向かってこうゆうのない?って身振り手振り・・・・
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
は? 後ろを振り返ると、扉が立派な馬車に・・・・
「うそーーーーーーー!」
皆さん顎がはずれたの?ってくらい口あけて、目がもう飛び出してますネ・・・
落ち着け落ち着け!俺が落ち着け!!
とりあえず、馬が必要なんだが・・・もしかしたら?
落ちてる適当な大きさの石を拾って、書き込んでみる。
”異世界翻訳機”
「あ、あー、言葉通じますか?」
「え? ゆ、勇者様は言葉が話されのですか?」
「いや、言葉が通じる道具を作った!」どうよ?
「つ、作ったって・・・さすが勇者様・・・」
お、王女様の俺を見る目が・・・キラキラしてる・・・
勝った!異世界征服できちゃうかも・・・!
「違う街にも行きたいから、そろそろ出発するね」
「え? 勇者様、街をお救いになっていただいたお礼をしたいので、どうか・・・・」
「いや、いきなり殴って地下牢に押し込められていた街には長居はしたくないので、呪いも解いておくのでこのまま出発したいと思います。」
「やはり勇者様の呪いでしたのね・・・」
「できれば馬を2頭、都合つけたいのだが・・・」
しばらく恨みがましい目で見ていた王女様が騎士っぽい人に向かって
「マルス!馬を2頭ここに!」
「ハッ!」と駆け出していく。
「ちなみに王女様のお名前をお聞きしても?」
「あら、王女ではありません、この街の領主モーリスの娘、フィリーヌと申します」
「じゃぁ、フィリーヌあとで城門に呪いを解除する呪文を書いておくから、消さないように気を付けてね。じゃぁ行くわ」
フィリーヌと話している間に、マルスが馬を引き連れてきて馬車にセットしてくれていた。
「じゃぁ!」
と言って、馬車に乗り込むが・・・あれ・・・?御者いねーじゃん!恥ずかしいけど乗り込んだ馬車から降りながら
「あ、あー御者いないかな?」
「ふふふ、少しお待ちくださいね。そのまま乗っていてください。マルスこの手紙を父上にお願い」
フィリーヌがそう言うと御者席に乗り込み、馬車が動き出す。
慌てたマルスが「フィリーヌ様!」と声を出すが、かまわず「お父上にお願いね!」て進みだした。
マルスが俺を睨んでいるいるけど、俺悪くないよね?って目で睨んでやった。
御者側の小窓を開けて、フィリーヌに
「おいおい、大丈夫なのか? 面倒は嫌なんだけど。」
「だって、楽しそうじゃありませんか! ところで、勇者様のお名前を聞いていませんでしたわ」
「お、おれの名前は・・・そのうちなっ!」