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まよいごの星

作者: 谷崎 白

ネット上で上演された朗読劇に書き下ろした台本です(上演劇団様から掲載許可済み)。上演時間は1時間程度です。



千鐘江ちかえ ゆき/ジョバンニ 17

佐山 斗真/カムパネルラ 17

佐山 実殊みこと/ナレーション 24

宮島 凜 13


黒衣くろい しょく/救助隊B 30

金子かねこ 苹果りんご/救助隊A 18


ラジオパーソナリティー/狩鳥野かりとや42




SE:列車の走行音


ジョバンニ「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう。僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなのさいわいのためならば僕のからだなんか百ぺん灼やいてもかまわない。」


カムパネルラ「うん。僕だってそうだ。」


ジョバンニ「けれどもほんとうのさいわいは一体

何だろう。」


カムパネルラ「僕わからない。」


ジョバンニ「僕もうあんな大きな暗やみの中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう。」


カムパネルラ「ああきっと行くよ。ああ、あすこの野原はなんてきれいだろう。みんな集ってるねえ。あすこがほんとうの天上なんだ。あっあすこにいるのぼくのお母さんだよ。」


ジョバンニ「カムパネルラ、僕たち一緒に行こうね

え。」


ナレーション「ジョバンニがこう云いながらふりかえって見ましたらそのいままでカムパネルラの座っていた席にもうカムパネルラの形は見えずただ黒いびろうどばかりひかっていました。ジョバンニはまるで鉄砲丸のように立ちあがりました。そして誰にも聞えないように窓の外へからだを乗り出して力いっぱいはげしく胸をうって叫びそれからもう咽喉いっぱい泣きだしました。もうそこらが一ぺんにまっくらになったように思いました。」


斗真「嫌だ。こんな結末、認めない」




幸「えーと。大きい荷物はもう送ったし、あとは着替えでしょ、ジャージに暇つぶしのゲーム。シャンプーって普通に使えるんだったっけ。まあいいやもってこ! で、あとは」


幸、一冊の文庫本を手に取る。


幸「これだな。よし準備オッケー!」


電話が鳴る。


幸「斗真! おはよー!」


斗真「夜だぞ。お前今どこ?」


幸「今から出るとこ!」


斗真「はぁ? 待ってるから早く来い」


幸「え、うわ! ごめん! すぐ行く!」


通話が切れる。


斗真「ったく」


実殊「そんなきつい言い方しなくていいのに。待ってるって言っても、車で座ってるだけなんだしさ」


斗真「搭乗時間は決まってる。暖房つけるぞ」


実殊「うん。あ、ラジオもつけていい?」


斗真「やってんの?」


実殊「今夜で最後だって」


実殊、ラジオをながす。


ラジオ「みなさんこんばんは。20XX 年X 月X 日、カリトヤラジオ。まだ聞いてくださっている皆さんは、移住のご準備はお住みでしょうか。僕は去年買ったキャンピングカーを持って行けないと知って大変ショックを受けています。もう妻にしこたま叱られましてね。この放送が終わったら宇宙船に乗り込むんですが、こんな時まで仕事してって、今朝もまた叱られました」


実殊「宇宙船かぁ。実感ないね」


斗真「・・・・・・ああ」


ラジオ「巨大隕石は依然として軌道を変えず、地球の目前に迫っているそうです。皆さん、地球脱出の宇宙船は明朝の便で最後です。搭乗券はお手元にありますでしょうか。新しい惑星でのラジオでも、またお会いしましょうね」


実殊「巨大隕石がぶつかって地球滅亡します。なので人類は宇宙船にのって新しい惑星に移住します。

って、映画の中だけだと思ってた」


凜「・・・・・・」


斗真「そうなったものはもう仕方がない」


実殊「全然動じないよね」


斗真「動じてるよ、全然」


実殊「あ、あれじゃない? 幸ちゃん」


幸「はぁ、はぁ! 遅れてごめんなさい!」


斗真「今日は五分遅れか」


幸「あー、まるで私がいつも遅れてるみたいな言い

方!」


斗真「部活に時間通り来たことないだろ」


幸「うぐ! それは確かに!」


実殊「仲良しだね君たち」


幸「あ、斗真のお姉さん。近くまで来てもらったのに本当にごめんなさい!」


実殊「全然大丈夫。家まで行ってあげたかったんだけど、道が細くてさ。車入んなかった」


幸「とんでもないです! 宇宙船の発着場までバスもあったんですけど、一人で行くのはやっぱり不安で。だから斗真とお姉さんに一緒に行こうって誘ってもらえてすごく嬉しかったんです」


実殊「うーん。斗真に聞いてたとおり。めちゃくち

ゃいい子!」


幸「へ? 斗真が私を?」


斗真「余計なこと言わなくていいから」


幸「えへへ。・・・・・・あれ、その子は?」


凜「・・・・・・」


斗真「凜」


実殊「この子宮島凜くん。私らの従兄弟で、君たち

の4つ下」


幸「私たちが高二だから・・・・・・中学一年生か!わたし千鐘江幸。よろしくね」


凜「うるせぇブス」


幸「んなっ!?」


斗真「凜、お前な」


凜「ブスだからブスって言っただけだし」


斗真「あんまり調子に」


実殊「ごめんね、悪い子じゃないから。さ、幸ちゃんも後ろ乗って。荷物後ろね」


幸「はい! お邪魔します」


実殊「宇宙船の発着場まではそこそこかかっちゃうし、寝てても全然いいからね」


幸「お姉さんも運転無理しないでください」


実殊「実殊でいいよ。お気遣いありがとう」


幸「はい! お願いします、実殊さん!」


凜「もう少し静かにできないの」


斗真「凜・・・・・・」


実殊「はいそこまで。ほんとごめんね幸ちゃん。凜まだ子どもだから、気悪くしないでやって」


凜「こ、子どもじゃない!」


実殊「よし! じゃあ行きますか!」


凜「みこ姉!」


実殊「幸ちゃんにごめんなさいは?」


凜「・・・・・・。・・・・・・ごめんなさい」


幸「全然大丈夫だよ」


凜「・・・・・・」


実殊「じゃあ今度こそ行こっか。斗真、音楽かけて」


斗真「ああ」


『Take Me Home, Country Roads』流れる。


幸「それにしても良かったです。斗真と実殊さんも最終便組で。友達はみんなもう家族で宇宙船に乗

っちゃったし」


実殊「乗る便は世帯ごとにランダムって話だったもんね。すごい偶然だよ」


斗真「そのランダムのせいでこんな夜中に出る羽

目になったけど」


幸「いいじゃん。夜明けに飛び立つのなんか良くな

い?」


斗真「分からん」


幸「あはは」


実殊「幸ちゃんとこは、親御さんが宇宙開発のお仕

事なんだよね?」


幸「はい。父が宇宙飛行士で、母はすでにいなくて。

だから宇宙船で合流することになってます」


実殊「宇宙飛行士! すご!」


斗真「千鐘江遠耶の娘って知ったときは俺もびっ

くりした」


実殊「千鐘江遠耶、私も知ってる! テレビでみた! かっこいいなぁ」


幸「えへへ。そういう二人のご両親は? 斗真の家の人の話ってあんまり聞かないかも」


斗真「うちは両方もういない。お前と出会う前、事

故で亡くなった」


実殊「私が先に働いて、斗真を引き取って一緒に暮らしてたんだ。だから今回も二人で行く予定だっ

たの」


幸「あ・・・・・・。ごめんなさい、軽率なこと」


斗真「お前が気にすることじゃない」


実殊「そうだよ。充分幸せに暮らしてるもん。それに、私も幸ちゃんのこと軽率に聞いちゃったし」


幸「それは全然大丈夫です! あ・・・・・・」


凜「何だよ」


幸「あ、ううん。なんでもないよ」


実殊「斗真とは小学校の時から一緒なんだよね。ど

うして仲良くなったの?」


幸「学芸会で『銀河鉄道の夜』の劇をやったんです。その時私がジョバンニ役で、斗真がカムパネルラ役だったんです。そこからあんまり関わり無かったんですけど、高校でまた話すようになって」


斗真「よく覚えてるな、お前」


幸「えへへ。実は『銀河鉄道の夜』の本も持ってき

てるよ。ほら」


凜「・・・・・・それ」


斗真「ファンじゃん」


幸「うん。私あれからこの作品大好きになったんだ。宇宙船の中ってどんな感じかなぁ。やっぱり『銀河鉄道の夜』みたいに、星がいっぱい見えるのかな」


斗真「・・・・・・かもな」


凜「・・・・・・俺も好きだった。これ」


幸「そうなの? 何か嬉しい!」


凜「・・・・・・」


実殊「・・・・・・あ!」


斗真「何?」


実殊「ごめんジュース買いたい! サービスエリア寄ってもいい?」


斗真「やってないよ」


実殊「行ってみなきゃわかんないでしょ! 行

こ!」




実殊「あー・・・・・・」


幸「普通に閉まってましたね」


実殊「やっぱりかぁ。あ、でも自販機の電気ついて

る」


斗真「災害時用に切り替わってるな」


幸「災害の時って、自販機無料になるんだ」


実殊「今に関しては、儲かっても誰も回収できないしねぇ。うわ、ほぼ売り切れだ。ドデカミンとブラックコーヒーしかないじゃん」


斗真「じゃ僕ドデカミン」


幸「私も。凜くんは?」


凜「・・・・・・コーヒー」


幸「えぇ!? ブラックだよ!?」


凜「うるせーな。飲めるよそれぐらい」


実殊「お、子どもなのにすごいぞ」


凜「だから! 子どもじゃない!」


幸「ひえぇ・・・・・・私カフェオレでも飲めないのに・・・・・・最近の中学生すごい・・・・・・」


凜「もういい。俺トイレ」


実殊「おーい、コーヒーは?」


斗真「本当に子どもだなあいつ」


実殊「しゃーない。コーヒーとっといてやるか」


幸「・・・・・・」


実殊「お。どした幸ちゃん」


幸「いえ。その、凜くんはなんで一人で発着場にいくんだろうって思って」


斗真「僕たちも知らない」


実殊「幸ちゃんを迎えに行く直前に一人でうちに来たんだよね。でも何も話してくれないから、とりあえず一緒に乗せてきたんだけど」


幸「その、凜くんのご両親は?」


実殊「元気そうだったよ。私らも小さい頃はお世話になったし、何かあったら分かるはずだけど」


斗真「でも、泣いてた。うちに来たとき」


幸「え」


斗真「・・・・・・何も話してくれなかったけどね」


実殊「まぁ、あのくらいの年の子なら泣いて当然かもね。宇宙船に乗って地球から出て、知らない惑星でこれからの人生を過ごすなんてさ」


幸「・・・・・・どんな未来が待ってるかなんて、わから

ないですもんね」


実殊「まぁね。でも私は夢があるよ。新惑星で最も売れた漫画家になる」


幸「実殊さん、漫画家なんですか」


実殊「いや。まだ社会人。だから移住を機に漫画家

になるのだ」


斗真「なんだソレ」


幸「あはは」


実殊「幸ちゃんはないの? そういうの」幸「私は、全然。新しい惑星でうまくやっていけるかどうかもわかんないし。どうなっちゃうんだろう、みたいな。斗真は?」


斗真「特に思いつかないな」


幸「そうなの?」


実殊「あ、そうだコーヒー。おっと」


狩鳥野「ああ、申し訳ない」


実殊「いえ・・・・・・」


狩鳥野「コーヒー、いいかな?」


実殊「ええ、もちろん」


斗真「姉さん?」


実殊「・・・・・・似てる」


斗真「は?」


狩鳥野「それじゃ」


実殊「あの!」


狩鳥野「はい?」


実殊「人違いだったら申し訳ないんですけど・・・・・・もしかして、ラジオパーソナリティーやってないですか!? カリトヤって名前で!」


幸「へ?」


斗真「カリトヤって、さっき聞いてたラジオの?」


実殊「声がすごい似てる・・・・・・っていうか本人!」狩鳥野「いやぁ、驚いた。こんな若いお嬢さんが聞いてくださっているとは」


実殊「あああ! やっぱり! 私、じっくりことことちゃんって名前でふつおた送ってて! 二回くらい読んでもらいました!」


狩鳥野「ああ、覚えてるよ。こんな綺麗なお嬢さん

だったとはねぇ」


斗真「はぁ・・・・・・」


凜「・・・・・・誰?」


実殊「凜。コーヒーだったね・・・・・・あ、売り切れ」


狩鳥野「おや。僕が取っちゃったかな。はい、ブラックだけど本当にいいの?」


凜「いい。・・・・・・ありがと」


実殊「そうだ凜! 見て、この人私がいつも聞いてるラジオのメインパーソナリティー、カリトヤさ

ん!」


凜「・・・・・・」


狩鳥野「こんにちは。君たちもこれから宇宙船に?」


実殊「そうなんですぅ!」


幸「こ、声が高い」


斗真「電話口で声が高くなる母親ってこういう感

じか」


狩鳥野「宇宙船、すごいらしいよ。理論的には光の速さを超えられるそうだ。これもまた理論的に、だそうだけど、光の速さを超えるとタイムスリップも可能らしい。もはやタイムマシンだね」


幸「でも隕石はどうにもならないんですね」


狩鳥野「ははは。つらいことだねぇ。でも、なんの訓練もしていない一般人を安全に宇宙に送り出せるんだから、それだけですごい時代になったもん

だよ」


実殊「はぁあ・・・・・・いい声なだけじゃなくてこんなに素敵なおじさまだったなんて・・・・・・!」


凜「・・・・・・! み、みこ姉が年上好き・・・・・・!」


斗真「はぁ。狩鳥野さんも発着場に?」


狩鳥野「僕はこれから妻を迎えに。明朝の便までまだ時間があるから、夫婦で少し一緒にすごそうと思って」


実殊「思い出づくりですか。ちなみにどこへ?」


狩鳥野「ちょっとドライブをね。息子が独り立ちしてから、初めてのデートなんだ」


実殊「素敵ですね」


狩鳥野「ありがとう。でも、格好の悪い話なんだよ。地球を出る直前になって、この星を離れる事が怖くなって、妻に無理矢理頼んだんだ」


凜「・・・・・・おじさんでも怖いの?」


狩鳥野「怖いよ。いくら未来があるといっても、一人で遠くまで行くのはね」


凜「・・・・・・そう」


狩鳥野「でも、結局仕事で遅くなってしまったから、妻は僕を置いていってしまうかも」


凜「・・・・・・じゃあ、さっさと行けよ」


実殊「こら凜」


狩鳥野「ははは。その通りだ。・・・・・・おや、君は」


幸「へ?」


狩鳥野「もしかして、遠耶さんの娘さんかい?」


幸「父を知っているんですか?」


狩鳥野「昔、宇宙ステーションと通話する企画があってね。放送外でも、娘さんの話ばかりしていたから」


幸「えへへ」


狩鳥野「立派な宇宙船も、君のお父さん達のおかげ

だね」


幸「へへ。でも一番立派な宇宙船はこの地球だって、

パパ言ってました」


狩鳥野「素敵なお父さんだ。よろしく言っておいて

くれ」


幸「はい!」


狩鳥野「そうだ、君たちにこれを」


幸「わ、チョコレートだ! 鳥の形!」


狩鳥野「ラジオの最後の視聴者プレゼント企画の試作品。余っているから、旅のお供に」


幸「ありがとうございます!」


狩鳥野「じゃあ、妻を待たせちゃ悪いから、もう行くよ。次の惑星でも、カリトヤラジオをどうぞよろしく」


幸「あ、チョコ、ありがとうございました!」


実殊「行っちゃった・・・・・・。あー、かっこよかった

ぁー!」


幸「コーヒー、譲ってもらえて良かったね」


凜「・・・・・・うん。お父さんが、好きだから」


実殊「初めて話してくれたね、自分の事」


凜「・・・・・・うるさい。早くいこ」


幸「あ、待って」


斗真「・・・・・・」


幸「その、凜くん、行きたいところとかない? やりたいことでも、何でも」


凜「なんで?」


幸「せっかくだから、私たちも一つくらい地球に思い出残して行ってもいいのかなって思って。だから、凜くん。何かない?」


斗真「そんなことしてる暇ないよ」


実殊「いや、寄り道の一つや二つはわけないぞぉ。時間もガソリンも私の体力も、結構余裕あるし」


幸「ね」


実殊「言ってみ、凜。私らと思い出つくろうよ。せ

っかくなら」


凜「思い出って言ったって・・・・・・」


実殊「何でもいいぞ。遊園地だと開いてるか分から

ないけど」


凜「・・・・・・じゃあ、海に行きたい。多分、ここの近

くだと思う」


実殊「ああ、下道行ったところか! いいね、あそこからなら発着場にも続いてるし!」


幸「そこもご両親と行ったの?」


凜「うん・・・・・・」


幸「よし、行こう!」


斗真「乗り遅れたりしたらどうするんだよ」


実殊「大丈夫だよ。この辺の人はもうみんな脱出済みでしょ。バスぐらいしか通ってないし、道が混むこともないでしょ」


斗真「・・・・・・」


幸「大丈夫だよ斗真。なにかあったって、誰かといれば問題ないよ! いこ、海!」


斗真「・・・・・・」


実殊「斗真?」


斗真「・・・・・・何でもない。行くんだろ、海」


幸「うん! ・・・・・・あ、パパから連絡だ」




SE:複数人のささやき声

SE:水の音

SE:複数人の笑い声


斗真「・・・・・・っ」


幸「斗真?」


斗真「!」


幸「うわ、それどうしたの。教科書びしょびしょじ

ゃん」


斗真「何でもない」


幸「それより! 顧問の先生見つけたよ! 部活立ち上げの書類出しに行こ!」


斗真「なんで俺まで」


幸「だって、天文部斗真と一緒に作るって決めてたんだもん! ほら、行こ!」


斗真「あ、ちょ、待」


幸「大丈夫だよ。何があったって、二人でいれば問

題ないよ!」




SE:波音


幸「斗真」


斗真「ん・・・・・・」


幸「ついたよ斗真。海!」


斗真「・・・・・・ああ」


凜「・・・・・・綺麗だ」


幸「本当にね。こんな夜に来るの初めてだ」


斗真「後ろは学校だな」


幸「こんなとこに学校かぁ。いいなー、授業中ずっ

と海みれる」


斗真「勉強しなよ」


幸「えへへ」


実殊「お、あれ先発の宇宙船かな?」


幸「ホントだ。誰か知ってる人乗ってるかな」


凜「・・・・・・」


幸「えへへ。誰もいない海ってちょっとロマンチッ

クだね」


斗真「いや、いるよ。誰か」


幸「ホントだ。ご夫婦? かな」


凜「! 俺みてくる!」


斗真「おい凜!」


幸「あ、待って私も!」


凜のポケットから紙が落ちる。


実殊「凜! これ落とし・・・・・・」




凜「はぁ、はぁ。・・・・・・あ」


燭「おや。君は・・・・・・?」


苹果「どうしたの先生。子ども?」


凜「・・・・・・なんで」


苹果「僕、親御さんは?」


凜「さわるな!」


幸「凜くん!」


斗真「すみません。この子が何か?」


燭「いえ。むしろ私たちが怖がらせてしまった。申

し訳ない」


苹果「ご家族がすぐ来てくれて良かった」


燭「しかし、少し様子が」


斗真「凜?」


凜「・・・・・・なんでお前らなんだよ。なんで、俺。な

んで・・・・・・!」


幸「凜くん!」


斗真「姉さんが行った。大丈夫だよ」


幸「・・・・・・」


燭「何か事情があるようですね」


幸「あの。すみませんでした。私たち、これから宇宙船の発着場に向かう所なんですけど、ちょっと

寄り道してて」


苹果「あら、素敵」


燭「思い出を残すということなら、私たちと同じで

すね」


斗真「じゃあ、あなたたちも明朝の便に?」


苹果「いいえ、違うの。私と先生は、地球に残るって決めたから」


幸「・・・・・・え」




実殊「凜」


凜「・・・・・・なんだよ」


実殊「ごめん。見ちゃった。これ」


凜「・・・・・・! それ」


実殊「さっき凜のポケットから落ちた。おじさんたち・・・・・・凜のお父さんとお母さんからの手紙。『・・・・・・パパとママの勝手を許してね。あなたの幸せを願ってる』」


凜「やめろ」


実殊「凜。おじさんとおばさん、今どうしてるの?」


凜「知らない。俺は、父さんと母さんに」


実殊「私分かるよ」


凜「!」


実殊「おじさんとおばさん。凜を置いて、宇宙船に乗っちゃったんだね」


凜「ちがう。お父さんとお母さんは、俺を待ってく

れてるんだ」


実殊「・・・・・・」


凜「お父さんとお母さんと、こうして夜に海に来たんだ。絶対離れないって約束したんだ。俺だけおいていくわけないんだ・・・・・・!」


実殊「・・・・・・うん。分かるよ」


凜「なのに、なのに、なんでどこにもいないんだよ! 家にも、みこ姉たちの家にも、俺と一緒に来た海にも!」


実殊「凜」


凜「本当のことなんて分かってる・・・・・・。俺がもういらないのなんてわかってるよ!」


実殊「・・・・・・おいで」


凜「なんで? 俺が悪い子だから? 俺が邪魔だったの? 最初からいらなかったの?」


実殊「・・・・・・」


凜「俺、宇宙船には乗らない。・・・・・・離してよ、み

こ姉」




苹果「私たちは地球に残るから」


幸「・・・・・・え」


燭「金子さん。そんなことを軽々しく話す物ではあ

りませんよ」


苹果「せっかく出会ったんだもの。少しくらいいい

じゃない」


幸「・・・・・・どうして、ですか」


苹果「私たち、教師と生徒だから。ほら、後ろの学校の」


幸「先生と生徒がどうして・・・・・・?」


苹果「禁断の恋」


燭「教師と生徒かつ、生き別れた兄妹なのです」


幸「と、とっても複雑だ・・・・・・」


苹果「そう。親はもちろん大反対で、私たちは宇宙船も別々で、新しい惑星についたらもう会わせてもらえないの」


燭「それに、ここにはあまりにも、思い出が多すぎ

る」


苹果「兄妹として過ごした幸せな時間も、恋人として結ばれた愛しい時間も、全部この地球の上にあった」


燭「だから、離れることができなかったのです」


斗真「・・・・・・地球に残る事も、1つの選択肢という

ことですか」


幸「でも。新しい惑星でも、一緒になれるかもしれないじゃないですか」


苹果「そう。でも、私たちは過去を選んだ」


燭「家族でも未来でもなく、ただ思い出の中に消えていくことを、二人とも望んだのです」


幸「でも、そんなの、幸せなわけない」


苹果「それはね、私たちが決めるの。過去と未来、どちらが大切なのか。どちらが私たちにとって、本

当の幸せなのか」


幸「ほんとうの、幸せ」


斗真「・・・・・・・・・」


苹果「あなたはどう? 未来と過去、どちらかを選べるなら、どっちを選ぶ? あなたにとってのほんとうのさいわいは、どっち?」




凜「俺はここにいる。ここは父さんと母さんの思い出があるもの。ずっとここにいれば、俺は幸せなん

だ」


実殊「凜には未来があるよ」


凜「・・・・・・俺は未来なんかいらない。父さんと母さんのこと、俺だけは忘れないでいるんだ」


実殊「凜の気持ち、少しだけ分かる」


凜「分かるもんか」


実殊「・・・・・・置いて行かれるわけないって思ってた。ずっと一緒だって思ってたよ。でも、違った。家族にも地球にも、終わりはあるんだ。・・・・・・でも私は未来を選んだ。そしてこれからも、未来を選び続ける」


凜「・・・・・・でも」


実殊「忘れたりしない。幸せだったことも、悲しかったことも。その上で未来を選んできた。本当の幸せは、そういう選択の上にしかないって思うから」


凜「でも、俺、こわいよ」


実殊「うん。・・・・・・だからさ」


実殊、凜の目を見て笑う。


実殊「私と一緒に、未来を選んでくれない?」


凜「え・・・・・・」


実殊「私と未来を選んでくれないかな、凜。一人が怖いなら、二人で。それでも怖かったら、もっともっと仲間を増やそう。・・・・・・私も怖いんだ。だから、一緒に戦ってくれる仲間が欲しい」


凜「みこ、姉。俺は・・・・・・」




幸「・・・・・・私、は。っ!」


強い風が吹く。


斗真「追い風がっ・・・・・・!」


凜「あっ!」


実殊「手紙が!」


手紙が海へ舞う。


凜「待って!」


水音。


斗真「凜!」


幸「私が行く!」


斗真「待」


派手な水音


凜「ぷはっ!」


幸「はーっ! びっくりした!」


実殊「びっくりしたのはこっちだよ、もう!」


燭「大丈夫ですか!?」


苹果「先生、車にタオルあったわよね!」


燭「ええ。僕も行きます!」


斗真「ほら、手」


幸「あ、ありがと」


斗真、幸を引き上げる。


苹果「おーい、タオル持ってきたよ!」


燭「宇宙船に乗る前に風邪を引いたら大変です。使

ってください」


凜「ありがと」


幸「ありがとうございます」


苹果「ねぇ、あなたたち、まだ時間はある?」


幸「へ?」


燭「私はすっかり忘れていたのですが。こんなもの

がありまして」


苹果「じゃーん!」


実殊「おお! 手持ち花火!」


幸「すごい! 何年ぶり?」


燭「君は、花火好きですか?」


凜「・・・・・・うん。ありがと、おじさん」


燭「おじっ・・・・・・!?」


苹果「ふふふふっ。先生おじさんですって」


燭「普通にショックなのでからかわないでください」


苹果「ふふふ」


凜「俺、これがいい」


実殊「なら私はこのミラクル変色スプラッシュ

だ!」


凜「何ソレ」


実殊「なんか必殺技みたいでかっこいい!」


凜「みこ姉子どもみたい」


幸「私も必殺! 見よ、2本持ち!」


凜「大人げない。俺のがつよいし!」


幸「わーっ! 私まだ火着けてない! こっちこ

ないで!」


凜「ははは! 俺の勝ち!」


実殊「こらー! 凜! 危ないでしょ!」


凜「わ、振り回すな! 人のこと言えないぞ!」


幸「斗真、後は頼んだ!」


斗真「は!?」


実殊「斗真! 今日こそ100年の恨み晴らして

くれるわ!」


凜「晴らしてくれるわー!」


斗真「何の話だよ! 馬鹿やめろ!」


凜「あははは!」


燭「君はやらないんですか」


幸「なんか、ちょっと見ていたいなぁって」


苹果「ふふ。君、あの斗真くんって子のこと好きで

しょ」


幸「え!?」


苹果「分かるわよぉ。見てたら。すっごいもどかし

い」


幸「いや、好きって言うか。斗真は小学校の時から一緒だし、部活も一緒だし、確かにいい奴だけど別にそういうのじゃないって言うか」


苹果「ふふ。ほんとに?」


燭「こらこら。あまり年下の子をいじめるんじゃあ

りません」


苹果「でも、もうすぐ地球を出て行っちゃうんでしょう。この先何があるかなんて分からない。ちゃん

と伝えておいた方がいいと思って」


幸「・・・・・・私はただ、ずっと斗真のことを・・・・・・」


燭「・・・・・・まぁまぁ。幸さん。よかったらこれを」


苹果「わぁ、懐かしい。線香花火」


燭「ええ。これなら見ているだけでも楽しいですか

ら」


線香花火が燃え始める。


幸「綺麗」


苹果「踏み込んじゃってごめんね。でも、本当に、後悔はしない方がいいと思うの」


幸「・・・・・・後悔」


凜「斗真にぃ、足おそ!」


実殊「次は三刀流だ!」


斗真「いい加減にしろ!」


幸「・・・・・・どんなに素敵な未来が待ってても、この時間はいつか、終わっちゃうんですよね」


実殊「わー! めっちゃ燃えてる!」


凜「みこ姉やり過ぎだよ!」


斗真「何やってんだ」


幸「でも、私は・・・・・・。あ・・・・・・花火、終わっちゃ

う」


幸の手の中の線香花火が燃尽き、ぽつりと落ちる。




幸「そうだ。凜くん、これ、落としたお手紙。にじ

んじゃったけど・・・・・・」


凜「・・・・・・いいんだ。それはもう」


幸「・・・・・・でも、これって凜くんの」


凜「もう決めたから。俺は、未来に行く」


幸「・・・・・・みらい」


凜「僕は未来を選ぶ。・・・・・・んで、もっとでかくなって、絶対にあのカリトヤよりいい男になる・・・・・・」


幸「なんでカリトヤさん?」


斗真「静かに」


実殊「ふふ、言うじゃん」


凜「怖いけど。でも、一緒にいてくれるなら、大丈

夫だと思うから」


実殊「・・・・・・うん。私もだ」


凜「え?」


実殊「さ、みんなも行こう。お二人とも、花火ありがとうございます。とっても楽しかったです」


燭「いいえ」


苹果「私たちも楽しかった」


幸「あなたたちは、本当にここに残るんですか」


燭「ええ」


苹果「そうだ。よかったらこれどうぞ」


斗真「りんごジュース?」


苹果「私たちじゃ飲みきれないから」


幸「・・・・・・それが、あなたたちの、本当の幸せなん

ですね」


燭「ええ」


幸「・・・・・・・・・」


燭「あなたは優しい子ですね」


苹果「最後に出会ったのがあなたたちで良かったわ」


幸「・・・・・・」


実殊「何の話?」


燭「いいえ。さあ、早く行かないと、宇宙船に乗り遅れてしまいます」


苹果「私たちも行きましょう、先生。・・・・・・じゃあ、元気でね」


幸「ありがとう、ございます」


実殊「さ、行こう」


凜「うん」


全員、歩き始める。


幸「・・・・・・斗真、待って」


斗真「・・・・・・何?」


幸「あの、あのね、斗真。私、」


実殊「おーい! 二人とも何してんの!」


幸「あ・・・・・・今行きます!」


斗真「いいの?」


幸「うん、後で言うね。行こ!」


斗真「・・・・・・」



SE:教室のドアを開ける音


幸「あ、斗真! 遅・・・・・・」


斗真「・・・・・・」


幸「どう、したの。その怪我」


斗真「階段で転んだ」


幸「そうなんだ。大丈夫? ・・・・・・うわばき、また

無くしたんだ」


斗真「ああ」


幸「・・・・・・ほんと、ドジだよね!」


斗真「・・・・・・」


幸「・・・・・・ニュース、見た?」


斗真「ああ。隕石ぶつかるって」


幸「別の惑星に移住するんだよね。楽しみだね」


斗真「・・・・・・俺、ここにはもう来ないよ」


幸「え、なんで?」


斗真「あんまり俺と仲良くしない方がいいと思う

から」


幸「ま、待って! ・・・・・・私は大丈夫。だから、い

かないで」


斗真「・・・・・・」




実殊「幸ちゃん、大丈夫?」


幸「え、あ」


実殊「ぼーっとしてたから。寒い?」


幸「いえ、大丈夫です」


実殊「発着場までもうちょっとかかっちゃうから、

あったかくしてね」


幸「ありがとうございます」


凜「あ、ねぇ、あれ何?」


幸「あっ! 天文台だよ! おっきい望遠鏡があったんだけど、何年も前につぶれちゃったんだ」


実殊「さすが宇宙飛行士の娘」


幸「一応天文部ですし」


実殊「斗真と一緒に立ち上げたんだよね?」


幸「はい」


実殊「おっと」


凜「わ」


実殊「んー、ちょっと待って。何かタイヤに挟まったっぽい。ちょっと見てくる」


斗真「手伝う?」


実殊「ううん、大丈夫。なんだったら、天文台見て

きたら?」


幸「じゃあ、私みたい。斗真も行くでしょ?」


斗真「・・・・・・ああ」


凜「俺、ここにいる」


実殊「いいのに。天文台見たいんじゃない?」


凜「いい。行ってきなよ」


斗真「ませガキ」


凜「わ、何だよ」


斗真「行くぞ」


幸「あ、うん」




幸「はぁ、ついたー!」


斗真「結構登った」


幸「うん。さすがに山の上だと寒いね。入ってみよ」


斗真「ああ」


幸「わ、広いね」


斗真「つぶれる前はまぁまぁ賑わってたらしいか

ら」


幸「あ、天井が崩れてる。・・・・・・星がたくさん見え

るよ」


斗真「ああ」


幸「パパのサインだ。ここ来てたんだ」


斗真「・・・・・・」


幸「・・・・・・」


斗真「聞くよ、俺は」


幸「・・・・・・うん」


斗真「さっき、何言おうとしたの?」


幸「・・・・・・さっき、じゃないよ。ずっと言わなきゃって思ってた。隕石が落ちることになる前からず

っと」


斗真「・・・・・・」


幸「金子さんに言われたよ。後悔しないようにって。

私、今言わないと、後悔する気がする」


斗真「・・・・・・」


幸「・・・・・・。あのね、斗真」


斗真「うん」


幸「私が斗真に、言いたい事って言うのはね。ごめ

んなさい、なの」




実殊「よし、とれた!」


凜「うわ、これ何の部品? 危ないな」


実殊「どうやって落としたんだろ」


凜「迷惑な奴」


実殊「斗真たち、今頃何話してるかな」


凜「イチャイチャしてるよ、絶対」


実殊「お姉ちゃんは許しません!」


凜「今更じゃん」


実殊「あはは。冗談だよ。絶対うまくいったよ」


凜「うん」


実殊「さ、行こ。斗真たちを呼んでこなきゃ」




幸「斗真、高校入ってからずっと、クラスのみんなからひどいことされてたよね。鞄水に投げ込まれたり、物を隠されたり、階段から落ちたのも、そうだったんだよね。でも、私はずっと、それを、見て見ぬ振りしてきた」


斗真「・・・・・・知ってるよ」


幸「本当に、ごめんなさい」


斗真「言いたいこと、それだけか」


幸「うん」


斗真「本当に?」


幸「・・・・・・本当は、もう一つあるよ。でも、言えな

い」


斗真「そう」


幸「うん」


斗真「・・・・・・天文部、部室もらえなかったよな。だから、どこもつかってない第三理科室で活動して

たんだ」


幸「・・・・・・うん」


斗真「結局、部活は理科室で天文学の本読んで、天体の話とかお前の親父さんの話して、それだけだった」


幸「つまんなかったでしょ」


斗真「・・・・・・楽しかったよ。誰に何言われても、放課後第三理科室に行けば、お前がいたんだ」


幸「・・・・・・なに、それ」


斗真「俺がお前に救われてたってことだよ」


幸「・・・・・・とうま、」


斗真「お前と話す時間が大切だった。お前と星の話をしている間だけ、何もかも忘れて笑えたんだ。 だから」


幸「やめて」


斗真「幸」


幸「・・・・・・!」


斗真「俺は幸のことが好きだった」


幸「・・・・・・ずるいよ。今更、そんなの」


斗真「・・・・・・うん。付き合いたいとか、お前をどうこうしたいとか、思ってないよ。最初から」


幸「・・・・・・っ」


斗真「俺は地球が終わるって知った日から、地球に残るつもりだったから」


幸「嫌、いやだ、私、」


斗真「じゃあ、一緒に死ぬ?」


幸「・・・・・・・・・!」


斗真「・・・・・・謝罪なんかいらない。俺はただ、あの理科室で、お前と星の話をするだけで幸せだったんだよ」


幸「・・・・・・いいよ」


斗真「・・・・・・え」


幸「私も、思ってたんだ。金子さんに、過去と未来どっちを選ぶ? って聞かれて、どっちが本当の幸せかって聞かれて、答えられなかった。金子さんとあの先生は過去を選んで、狩鳥野さんや凜くん、実殊さんは未来を選んだ」


斗真「・・・・・・」


幸「・・・・・・あのね、狩鳥野さんと別れた後、パパか

ら電話来たんだ」


斗真「千鐘江さんから?」


幸「うん。パパね、地球に帰ってくるんだって。それで、地球と運命を共にするんだって。パパはずっと地球の未来のために働いてきて、ママの骨が埋まっているのもこの地球だから、離れる事なんてできないって」


斗真「・・・・・・勝手だな」


幸「私は、自由に未来を選びなさいって言われた。・・・・・・でも、私は思うんだ。未来も過去も消しちゃって、ただ今だけ、幸せでいられればいいなっ

て」


斗真「・・・・・・」


幸「私、パパも斗真もいない未来なんて選べない。過去にももう戻れない。私はただ、今、ここにいたい。許してもらえるなら、あなたと一緒に」


斗真「・・・・・・・・・」


実殊「斗真、幸ちゃん! 準備出来たよ。行こ」


凜「何してんの、二人」


斗真「いや、何でも無い。・・・・・・先に二人で行って

くれねぇかな」


実殊「は、あんた何言って」


斗真「ちょっと歩いたところに、宇宙船発着場行きのバス停があった。俺たちは、その最終便に乗っていくから」




凜「・・・・・・良かったの、みこ姉」


実殊「良くない。・・・・・・でも、斗真や幸ちゃんは、きっと未来を選ぶ。私はそう信じてる」


凜「・・・・・・うん。行こう、一緒に」




幸「実殊さんと凜くん、行っちゃったよ」


斗真「・・・・・・」


幸「斗真」


斗真「最初に車に乗ったときからああするつもり

だったんだ」


幸「・・・・・・そっ、か」


斗真「見ろよ。星」


幸「うん。・・・・・・私たち、二人だけになっちゃったね。・・・・・・宇宙船、どんなだったんだろう」


斗真「僕らが乗ってるのが一番立派な船、でしょ」


幸「はは。そうだった。私たち、この宇宙船でどこまでも一緒に行こう」


斗真「・・・・・・結局、何を選ぶのが本当に幸せだった

んだろうな」


幸「私、分からない」


斗真「ああ。・・・・・・でも、なんか、もう隕石も地球

滅亡も怖くない」


幸「・・・・・・ねえ、ずっと考えてたんだ。もし地球が滅亡しなかったらって。夜が明けて、ただ普通に朝が来て、宇宙船に乗った人たちが、恥ずかしそうに帰ってくるの。そしたら私たちが正しいことになって、斗真ももうひどいことされなくなって、今よりもっといい今が来るんだ。ああ、パパが乗った船はどこに着陸するんだろう・・・・・・」


斗真「・・・・・・幸」


幸「うん?」


斗真「手、握っててもいい?」


幸「・・・・・・うん。いいよ」


斗真「幸。僕たち、一緒に行こう」




SE:機械音


斗真「・・・・・・っ!」


救助隊A「あ、目が覚めた」


救助隊B「良かった。君、つぶれた天文台で凍死しかけていたんだよ」


斗真「・・・・・・ここ、は」


救助隊A「ここは明朝発、新惑星行きの宇宙船最終便さ。窓の外を見てごらん」


斗真「・・・・・・ちきゅう、が、みえる。なん、で」


救助隊B「救助の要請があってね。ギリギリ間に合

って良かった」


斗真「っ、幸、幸は」


救助隊A「・・・・・・」


斗真「もう一人いたはずです。女の子、俺と同じくらいの。ボブの髪で、ちょっとバカっぽい顔してて、

でも、優しくて」


救助隊A「落ち着いて。・・・・・・私たちが見つけたの

は、君だけよ」


斗真「は・・・・・・?」


救助隊B「我々が発見したとき、現場には君一人し

かいなかった」


斗真「そんなはずない、幸は俺とずっと一緒に!」


救助隊B「・・・・・・混乱しているようだ。もうすぐお姉さんが来るから、少し安静にしていなさい」


斗真「待てよ! 下ろせ! 地球に返してくれ!

幸が!」


扉が閉まる。斗真が一人取り残される。


斗真「なんで・・・・・・」


斗真は窓に拳をたたきつける。


斗真「なんで!」


SE:本が落ちる


斗真「これ、幸が持ってた本だ・・・・・・『銀河鉄道の夜』・・・・・・はは。なんで、俺が。ふふ。あははは」


SE:小さなものが落ちる音。

斗真、拾う。


斗真「・・・・・・チョコレート。ああ、カリトヤさんに、

もらったんだ・・・・・・」


斗真、鳥の形のチョコレートを見つめる。


斗真「・・・・・・そう、だ。タイムマシン、だ。この宇宙船は光の速さを超えて、時すら超えて、そうすれば、また、幸に」


ジョバンニ「けれども、ほんとうのさいわいは、一体なんだろう」


斗真、ゆっくりと膝を立てる。


斗真「・・・・・・嫌だ。こんな結末、認めない」


ジョバンニ「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう」


SE:警告音


斗真「僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなのさいわいのためならば僕のからだなんか百ぺん灼やいてもかまわない」


ナレーション「ジョバンニはまるで鉄砲丸のように立ちあがりました。そして誰にも聞えないように窓の外へからだを乗り出して力いっぱいはげしく胸をうって叫びそれからもう咽喉いっぱい泣きだしました。もうそこらが一ぺんにまっくらになったように思いました。」


宇宙船の機械が激しく音を立てる。

宇宙船は、時空の彼方へ消えていく。静寂と暗闇だけがそこに残る。


暗転。

『Take Me Home, Country Roads』が流れる。


「まよいごの星」 了


引用

「銀河鉄道の夜」宮沢賢治





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