事故
助けてください、課題に苦しめられています。執筆できる時間が、減ってます……。このままではこの作品の完結も、新作の投稿もどんどんと先延ばしに……! なんてことは特に心配もしていません、シファニーです。この作品は絶対に完結させて見せます。ご安心を
第八十部、第三章第二十八話『事故』です。どうぞ!
さて、かなの試合が始まった。どちらも開始と同時に動く、なんてことはせず。互いに様子見をしている状態、という風に見えるだろうがそうではない。
斥候部隊の隊長さんがどうかは知らないが、かなは負ける気でいるから動かないのだ。一歩も動かずに終われば、まだ自分に負けたわけじゃない、と言い聞かせられる、ということだろうか。というか、負けるのが相当嫌なんだな。思いきり顔をしかめてその場に立ち尽している。心なしかパーカーについている猫耳も垂れているように見える。パーカーで目元が隠れているから、睨んでいるようにも見えるかな。いや、もしかしたら本当に睨んでいるのかもしれない。
こいつのせいで、負けなきゃいけないんだ。とか思ってそうだ。それを表情に出しているからか、相手は少し怯え気味だな。
今までのかなの快進撃を見てきたものなら、怒っている様子のかなを敵に回したいだなんて考えないだろうからな。実際、かなに向かい合う女性は少しずつだが距離を取っていっている。近づいたら最後、殺されるとでも思っているのだろうか。かなり及び腰だった。
強いものほど、強者というのを正しく見分けるものだ、というのはリルの言葉だ。弱者というのは、無知ゆえに相手の強さに気づけない。だから、もし自分に挑んでくるものがいたのなら、十中八九弱者だと。たまに強者が紛れているが、それらも周りより少し強い程度なのだそうだ。
どうしてかというと、強者は自身の実力を弁える上、危険を敏感に感じ取る。それ故に、勝てぬ相手には挑まぬものなのだと。その考え方を考慮するのなら、かなと対峙するあの女性がそれなりの強さを持つ、というのは本当のことなのかもしれない。
「おっとぉ!? 両者距離をとって動きを見せない!? 高度な心理戦だとでもいうのかぁ!?」
しばらくたつとじれったく思ってきたのか司会がまともな実況を始める。そう言えば司会の奴は今までまともに解説とかしてなかったな。それで大丈夫なのか? まあ、俺には関係ないがな。
「これは、どうなるか掴めない。かな嬢が動く気はない、というのは分からないでもないが、相手がどう出るか。戦意喪失したとみて攻撃ができないか、むやみに動いたら隙を突かれると思っているのか。どちらにしても、先に動くつもりはないと見える。このままではいたずらに時間を消費するだけだ」
「仕方のないことではないかの? かな嬢の心情も理解できる故、妾はそう思うが、リル殿はそうでもないのかの?」
「別にそれでもいいのだが、この後の計画に支障が出ないか不安でな。さすがに、我も少しばかり緊張しているようだ」
「なるほど、わかったかの。まあ、今からやろうとしていることを考えれば仕方のないことかの」
リルとルナが並んで話している内容は、これから王城に潜入に行くからその予定が崩れないか、ということだ。王城に潜入することにした理由は簡単。情報が欲しいからだ。見つかったのなら最後、この国には二度と出入りできなくなるだろう。だが、それでもほしい情報は山ほどある。そもそも、俺達の目標は情報だしな。
戦力やその他軍事機密に匹敵するような情報を得ようと言う話だ。今まで避けてきたが、考えてみれば王族が武闘会で出張っている時に潜入すればかなりリスクを減らせるのではないか? という結論にたどり着いた。そのため、準々決勝で負けることになっていたルナとかなで準決勝、決勝をしている間に王城に潜入してきてもらおう、と思ったのだが、それだと心配だとリルが言い出した。
そのため、準決勝、決勝では俺が自分で戦うことにした。そうすればリルはフリーになるし、アリバイも作れる。色々と問題が残る作戦ではあるがリスクよりも成功したときのリターンを優先した結果、その作戦の実行は決定したのだった。
さて、戦況に戻るがまだ睨めっこは続いていた。かれこれ五分くらい経つが、かなはもちろん、対戦相手も矢を構えることすらしない。一瞬でも視線を逸らすことなく、じっと観察している。斥候として相手の観察には慣れているのだろうか。一点を見つめているように見えても、色々と情報を集めようと視線を動かしていた。一挙一動に至るまで、そのすべてを見逃さない、という固い意志を感じた。
しかし、どうしたことだろうか。いい加減じれったくなってきたのか、かながついに動いてしまったのだ。一瞬にして姿を消し、対戦相手の背後に回り込む。攻撃をするつもりはないが、相手に動いてもらおうとしたのだろう。斥候だからかはわからないが、気配察知能力はそれなりに鍛えられていたらしい、弓使いの女はすぐに振り向く。
だが、気配察知能力が研ぎ澄まされすぎたためか、一瞬で回り込まれたことに対する驚きが大きかったのだろう。足をもつらせた。振り向こうとして、右足が左足に絡まったのだ。踏ん張る暇もなく、後方へと倒れこむ。
運命のいたずらだろうか。女の頭が倒れた場所には僅かな出っ張りがあった。それだけでは終わらず、転んだ際に宙を舞った弓が、地面の出っ張りに後頭部をぶつけてわずかに跳ねた女の顔面に直撃。それなりの重さだったらしく、ゴッ、と鈍い音を立ててまたも地面に後頭部をぶつけた女は、完全にのびていた。
……えっと、これは……
「おっとぉ!! 勝負ありかあぁ!? 猫耳少女がまたも一瞬にして相手を仕留めたあああ!」
「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」
その後、審査員が舞台に上り、女を確認したところ気絶していた。どうやら弓がミスリルとかいう金属でできていたらしく、それが運悪く鼻に直撃し意識を失ってしまったようだった。後頭部にはたんこぶもできていたようだし、それなりに重傷だった。
そう言えば、レベルのわりに防御力のステータスが低かったな、あいつ。
というわけで、かなは勝ってしまった。
「え、えっと……どうして、そんなに残念そうな顔を? 計画とは違うのかもしれませんが、勝ったんですし一応嬉しそうな顔を……」
かなが返ってきた控室では、カレラ以外の三人がしかめっ面やら困り顔やらで佇んでいる。特にリルは、呆れとも怒りともとれるような複雑な表情で唸っていた。
(ごめんなさい……)
(別にかなが悪いわけじゃないさ。あれは不慮の事故だよ、不慮の事故)
結局勝って準決勝進出を決めてしまったかなは、本当に申し訳なさそうにしていた。
リルにも謝罪をしていたようだし、今だってこうして俺にも謝ってきている。実際に困るのはリルなので、俺としてはどうでもいいと思っているが、かなはかなり引きずってしまっているようだった。
(まあ、気にすることではないさ。リルだって怒ってきたわけではないんだろ? 気にするな。負けるのは嫌だもんな)
(……うん。でも、次はちゃんとやる)
(つ、次かぁ……)
かなの次の対戦相手は、きっとカレラになる。カレラはこちらの事情を知っているのでうまくやってくれる、と信じたいが、ここ数日でカレラも戦闘狂みたいになってきてるんだよなぁ……。かなと戦ってみたい、とか言わなければいいが……。
そんなこんなで、次はカレラの試合の番となった。
最近、戦闘回が雑じゃないかって? 一章一章の長さを出来るだけ同じにしたい、という私の意地のせいで文字数的に司たちの武闘会くらいハードなスケジュールなんです、許してください。
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